【第4回の趣旨】
建設ソリューション成長戦略研究会では、秀逸なビジネスモデル・経営ノウハウを持つさまざまな企業の現場を「体感」する機会と、経営改革・業務革新のヒントを提供する。昨今は、経済的価値(技術・請負金額・工期などを通じて顧客に提供する価値)と社会的価値(人的資本の充実、地球環境配慮など社会課題の解決に資する価値)を組み合わせた経営が、高収益ビジネスモデルを実現する鍵となる。
第4回は、創業70年を超える沖縄の総合建設業・福地組と、コンクリートの常識を覆す製品開発で業界にイノベーションを起こしたHPC沖縄を視察し、それぞれの取り組みについて講演いただいた。
開催日時:2024年3月26日~27日(沖縄開催)
代表取締役社長 福地 一仁 氏
はじめに
1953年創業の福地組は、住宅建設で地域の信頼を築く中、1964年に琉球政府より発注された嘉数高台公園の工事を受注したのを皮切りに、数多くの公共工事を手掛けるようになった。その後も街や人々の暮らしを豊かにするお手伝いをし、社会に貢献。現在は戸建住宅、アパート、介護福祉施設、店舗、公共建築、土木工事を事業領域にしている。
「沖縄を日本で一番ワクワクする街にしたい」という代表取締役社長・福地一仁氏の思いを軸に、沖縄で暮らす人々の生活の選択肢を増やし、暮らしを便利で豊かにするため、同社は新しい技術やサービスを積極的に取り入れ、オンリーワンの価値を提供している。
まなびのポイント1:リノベーション事業に参入
福地氏は、同社のスローガンである「“Beyond the value” その先にある価値と感動」を顧客に届けるべく、2018年にリノベーション事業のリサーチを開始。沖縄県の外部環境を分析し、ポジショニングマップを作成したところ、インバウンド需要の関係もあり鉄筋コンクリートのコストが高騰していることと、新築ホテルなど観光系の事業領域は景気に左右されやすく競争過多になりやすいことが分かった。そこで、年間5%ずつ市場成長するリノベーション事業に着目。 2021年に株式会社リノベースを設立した。
同社はリノベーション(機能・価値の刷新)とリフォーム(表面的な修繕)の違いを明確にし、ターゲット顧客の1戸当たりの平均リノベーション額を1200万円と設定。業務プロセスの削減やマーケティングをゼロから手掛けるのは現実的ではなかったため、リノべる株式会社のワンストップ・リノベーションサービス「リノベる。」のエリアパートナーとして、より良い暮らしづくりを推進している。
リノベーション前とリノベーション後の室内
まなびのポイント2:リノベーションの実例と今後の方向性
同社は、拡大する住宅リノベーション需要の取り込み(マンション購入、実家リノベ、賃貸バリューアップ)を実施。非住宅分野への対応や、1棟リノベーションによる空きビル・店舗の活用を行っている。今回、研究会が視察した「HAVE A GOOD DAY HIGASHIMACHI BLD」(那覇市東町、1991年築、6階建て)は、築古ビルの古き良き部分を残しつつ新しさをなじませた、2023年9月オープンの集合飲食ビルである。
昼夜で変化するスナックビル「HAVE A GOOD DAY HIGASHIMACHI BLD」(那覇市東町、1991年築、6階建て、延床面積1329.63㎡)
同社は「飲食ビルにはスナックや居酒屋が入居する」という概念を取り払い、ワークスペースやカフェを新設。1階は誰でも自由に滞在できるオープンスペースとカフェ、2~4階はスナックや居酒屋、バーが入居している。 5階には、1つのテナントを2人の事業者がシェアし、昼はドーナツ店、夜はバーと、時間によってオーナーが異なるスペースもある。また、6階のコワーキングスペースには、リラックスできるソファー席や、黙々と作業に没頭できる集中ゾーン、話しながらアイデアを生み出すカウンター席のほか、レントスペースやミーティングルームも活用できる。屋上のスカイラウンジは、日差しと心地良い風を浴びながら、利用者がくつろいだり、交流したりできるようになっている。
築古ビルには、時間の積み重ねによって醸成される生活レベルでの文化的価値があり、それが街の個性となると同社は考えている。結果、年間1200万円(稼働率50%)だった家賃収入が、リノベーションによって約1900万円(稼働率73%+コワーキング利用)にアップした。稼働率100%かつコワーキング利用者数が最大になると、理論上は年間3000万円も可能だという。
「HAVE A GOOD DAY HIGASHIMACHI BLD」のエントランス
まなびのポイント3:オンリーワンのサービスが提供できるポジション
入居率を上げるため、リノベースは同ビルの情報発信力を強化し、PRイベントを積極的に実施している。例えば、約50名が参加したコワーキングスペースのオープニングセレモニーでは、ワーケーションの可能性と地域にどのような影響が生まれるかというディスカッションや大学生のプレゼン、那覇市の講演などを開催。「リノべで生み出す新たな人の流れ」とメディアで紹介された。
また、人材育成を目的に街づくりアカデミー(勉強会)を実施。面白い街づくりのアイデア交換や、さまざまなスキル・経験を持つ人々の交流を通じ、リアルプロジェクトにつなげた。
こうした「文化を楽しむ街づくり」のエリアプロデューサーとして、同社はターゲットに向けたコンテンツ開発を続けている。