【第1回の趣旨】
当研究会では、個(企業)から地域(地域活性化)へ展開し、収益モデルを創造することをメインテーマとし、「持続可能な社会」と「自社の持続的な成長」の両立を実現することを先進事例から学ぶ。
第1回では、地域の自然を生かし、地域活性化のビジネスモデルを構築している企業を紹介、また、観光庁、内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局より講師2名をお招きし、日本における観光業の潮流や今後の展望、日本版CCRC(生涯活躍のまち)の実現に向けた観光政策に関する取り組み事例などをご講演いただいた。
開催日時:2024年2月22日(東京開催)
栃原 裕幸 氏
はじめに
日本が人口減少・少子高齢化に向かっていく中で、生産年齢人口は大きく減少していくことが見込まれる。その中で、観光業が与える経済効果は非常に大きい。観光庁は、2023年3月31日に閣議決定した「観光立国推進基本計画」を推進し、日本が観光立国として、持続可能な形での復活に向け、次の3つをキーワードに、持続可能な観光地域づくり、インバウンド回復、国内交流拡大の3つの戦略に取り組んでいる。
①「持続可能な観光」 ②「消費額拡大」 ③「地方誘客促進」
今後は持続可能な形での観光立国の復活に向け、さらに官民一体となって観光政策の取り組みを推進していく。
まなびのポイント 1:観光産業の持つ力
2019年の訪日外国人旅行者は3188万人にまで達したものの、新型コロナウイルスの影響により2020年~2022年は大きく減少した。しかしながら、2022年10月の水際措置の緩和以降、訪日外国人旅行者数とその消費額も急激に回復している。
特に、訪日外国人(一般客)一人当たりの旅行支出が2019年同期比でも大きく伸びており、その中でも、特に宿泊費・飲食費の伸びが健著となっている。今後、訪日外国人旅行者数がコロナ前の水準まで戻った場合、さらなる消費拡大を見込める。また、国内の旅行需要も2019年水準まで戻ってきており、将来的には海外だけでなく国内の需要獲得に向けた、価値提供・差別化などの取り組みが重要となってくる。
まなびのポイント 2:観光業のさらなる成長に必要な課題
まず、コロナ禍を経て、旅行者の持続可能性への関心や、自然・アクティビティーに対する需要が高まっている。Booking.comが世界32カ国約3万人を対象とした調査(※)では、71%もの人が、「当面の旅行について、よりサステナブルな旅を心がけたい」との回答を得たのだ。しかしながら、観光需要の急速な回復により、交通渋滞やマナー違反などが発生しており、地域住民の生活に大きな影響が出ている。
また、宿泊業では労働環境などの影響で、他業種に比べても人手不足が深刻であり、日本で観光産業そのものが魅力ある産業に成長していくには、解決すべき課題が多く存在するのが現状である。
※出所:Booking.com”Sustainable Travel Report 2022” (2022年6月)
オランダでは、観光客参加型のプラスチックごみを回収する クルーズツアーが人気
まなびのポイント 3:持続可能な観光地域とインバウンド
今後、観光産業が地域活性化の重要な施策となっていくことが予想される。その中で、①産業、②住民、③地域が一体となり地域そのものの成長への好循環を生み出す観光政策が重要だ。そのためにも、「いつか、誰かが」という発想を捨て、地域内で目指すべき方向性に対し理解を深めていくことが重要である。
中でも、「人材育成」は1つの大きなキーワードになってくる。特に、観光地全体の経営、観光地域づくりを担う「観光地経営人材」が、地域(DMO、自治体など)、国などステークホルダーを巻き込みながら、持続可能な観光地域づくりを実現することが必要となる。観光人材育成ガイドラインなどを活用し、持続可能な成長に向けた人材育成を推進していくことが求められている。
観光産業人材だけではなく、観光地経営人材の育成が成長の鍵となる
(出所:国土交通省観光庁『ポストコロナ時代における観光人材育成ガイドライン』)