部分最適から全体最適の経営へー企業価値を上げ続ける実践ROICマネジメントー:ワコールホールディングス
CFOは「企業参謀」として、経営者の戦略的意思決定を支援する存在である。
第1回テーマは「ファイナンス思考による企業価値向上とCFOの役割」。株主・債権者から調達した資金を経営活動へ投下し、最大の利益を得るという一連の循環の中で、再投資原資が企業内に蓄積されることで、企業価値が高まるといったファイナンス視点での企業価値向上に向けたCFOの役割について学んだ。
開催日:2024年2月21日(開催)
社外取締役/日本CFO協会理事(元オムロン取締役 執行役員専務 CFO兼グローバル戦略本部長) 日戸 興史 氏
はじめに
元オムロン取締役執行役員専務CFOとして企業理念経営をベースに、ROICマネジメントに取り組み、業績を向上させた日戸氏。オムロンはROICマネジメントの先進事例として高く評価されている。プライム市場において多くの企業が「低いROE/ROIC」「PBR1倍以下の低調な状況」に苦闘する中、1社でも多くの企業が日本をリードする企業へと転換できるようサポートしている。
まなびのポイント 1:ROIC≠ROIC経営
ROICはビジネスモデルや資本構造に左右されず、事業の収益性を表す有用指標であるとともに、投資家と共通の物差しで議論が出来る指標である。しかし、指標自体は過去の収益性状態を表している結果指標に過ぎず、経営(本社)がROICを指標としてモニタリングだけをして事業責任を追及するだけでは、変えられない過去を議論しているのと同じである。それは「ROIC経営」ではない。
更には数値の精度を求めて、各事業に対して必要以上に費用やコストを配賦するには注意が必要だ。収益性が分からなくなり経営の意思決定を間違うリスクがあるからである。
経営と事業で共通理解や認識を持つ中で、ROICで事業の収益性や収益構造を評価し、ROIC構造を起点に、事業・会社をどのような収益構造に変革をしていくのか、未来へのアクションにつなげる事がROIC経営である。
ROIC経営
まなびのポイント 2:オムロンでの全体最適なROICマネジメントの実践
目標達成を阻害する会社の最大のボトルネック(課題)は、組織ごと、機能ごと、メンバーごとに行う「個別最適」な対応にある。つまり、組織間、機能間、メンバー間の個別最適による不調和が、全体最適の実現を阻害し、個別で頑張っても全体の成果には結び付かない要因となっている。そのため、企業は全体の調和・協力が自律的になされる会社を目指すべきであり、全体最適なマネジメントへのトランスフォームが必要である。
オムロンでは、ROICマネジメントの経営としての位置付けや基本的な考え方、取り組み方針などを明確化し、全社的に発信。その結果、ポートフォリオの新陳代謝による進化や売上総利益率・ROICの向上により、営業利益額が向上し、2021年度、22年度には連続して過去最高益を達成している。
ROICマネジメントの位置付けとフレームワーク
まなびのポイント 3:全体最適なマネジメントへのトランスフォーム実現に向けたTOCの重要性
日戸様は、全体最適なマネジメントへのトランスフォームを可能とする理論・手法として、TOC(Theory Of Constraints)が非常にパワフルで有用な理論と再認識している。
TOCでは「モノの流れ」「お金の流れ」「情報の流れ」といった“流れ”に注目する必要があり、ボトルネック工程における流れを阻害するコアの課題を解消する事で全体の流れを改善し、全体効率の大幅向上を狙う。
流れの悪さを誘引している原因は「仕事の流れ」の悪さだ。個別最適な仕事の進め方が、仕事の滞留を引き起こしパフォーマンスが大幅に低下する。流れを阻害する根本課題の特定と改善に集中し、「モノ」「お金」「情報」の流れを良くしていく必要がある。
TOCとは