【第3回の趣旨】
当研究会は、デジタル戦略のケーススタディー・ワークショップを通じてデジタル戦略のロードマップを描くことを目的としている。今期は「従来の見える化手法とDXを横断し、マネジメントをアップデートする」をテーマに掲げ、第3回は「デジタルハイブリッド」を研究した。
開催日:2024年1月26日(大阪開催)
代表取締役社長 金子 真也氏
はじめに
八尾トーヨー住器は、サッシをはじめとした建材を提供しているメーカー代理店である。関西エリアにおいて、物流1拠点、販売6拠点を中心として事業を行っている。
今回ご講話いただいた八尾トーヨー住器の代表取締役社長である金子真也氏は、2014年より同社の「働き方変革」(当時の呼称)を実施し、DX化を推進してきた。取り組みの経緯や状況、実現の系譜、そして中小企業がDX化を行うための秘訣を伺った。
全ての事業所のサテライトオフィス化・フリーアドレス化を実現
(八尾トーヨー住器コーポレートサイトより)
まなびのポイント 1:人とマシンが共存しながら作業できる環境づくり
同社では、顧客からの問い合わせや急な依頼、緊急のデリバリー変更に対応している。それを可能にしているのは全社の配送状況をマップでモニタリングしているからだ。システムを使うまでは、担当者が運転手一人一人に連絡をして状況確認をし膨大な時間を要していた。しかし、今では誰もが一目で配送状況や位置を確認できるようになった。
物流拠点は“老若男女、誰でも、働ける”をコンセプトに作られ、「テクノハートセンター」と命名された。このコンセプトを基に、人とマシンが共存しながら作業できるよう、他に類を見ない安全かつ標準化された独自の仕組みを創り上げた。その仕組みによって、例えば100㎏近い重量のガラス窓を女性スタッフが一人で組み立てたり、作業することができるようになった。この仕組みは、一人の社員がさまざまな企業へのヒアリングを実施したり、創意工夫することで生み出されたという。
八尾トーヨー住器テクノハートセンターの作業風景
まなびのポイント 2:全ては「社長の思い」からはじまった
2019年に厚生労働省の「テレワーク宣言企業」に、2020年には「テレワーク先駆者百選 総務大臣賞」に選ばれるなど、同社は輝かしい受賞経歴を持つ。しかし、もともとは「時間で稼ぐ長時間労働」「離職増加」「価格競争特化」などの経営課題を抱えていた。
2000年に同社へ入社し、2011年に社長に就任した金子氏。2014年に働き方変革を会社方針として設定し、変革の一歩を踏み出した。
変革のために、まずは、クレド=自社がどうありたいか(理念・ビジョン)に向き合った。
そして、実現のために必要な手段としてDX化・センター化を進めた。計画を進めるに当たっては、「なぜ、何のために、そのツールを入れるのか? 」という考え方を大切な判断基準にしたという。
デジタル化と働き方変革の取り組みの歴史
出所:八尾トーヨー住器講演資料を基にタナベコンサルティング作成
まなびのポイント 3:人の負担を下げる。社員の気持ちに余裕を持たせる
働き方改革のために、まずは人の手を空ける。そのために、デジタル化・機械化を進める。
あくまでも目的は、社員の余裕を確保することだった。そして、人の手を開けることでできた時間を教育やコミュニケーションに当てる。金子氏は社員からの抵抗がある度に、理念・目的に立ち返り、そのためにはDX化が必要であると根気強く説いて回った。「この会社で働きたい」と社員に思ってもらえるような会社になるという思いが根底にあった。
変革を進める上で、時には目的に適さない環境・拠点の統廃合などを思い切って決断し、改革を進め、ツールや環境整備にも力を入れたという。
改革が外部から評価されるようになったころ、はじめて、全社員にこれまでの自分たちの取り組みは正しかったのだという意識が芽生えた。今では、社員が率先して、工夫・改革にとりくんでいるという。
社長の思いやビジョン、そして、それらを根気強く、少しずつ形にしていくよう取り組んだことが、同社をDX成功へと導いたのである。
出所:八尾トーヨー住器講演資料を基にタナベコンサルティング作成