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研究リポート
アグリサポート研究会
アグリ関連分野において、先進的な取組みをしている企業を視察。持続的成長のためのポイントを研究していきます。
研究リポート 2024.01.30

これからのプロ農家は作るだけでなく、ファクトを発信しなければならない:トゥリーアンドノーフ

【第1回の趣旨】
アグリサポート研究会(第8期)は、「アグリ分野でのサステナビリティ(持続的成長)モデルを追求する」をコンセプトに、先端技術の活用や新しいビジネスモデルの構築について研究し、成功のポイントを学んでいる。
第1回のテーマは「科学と世界視点」。これからの農業は、より科学的な視点からアプローチし、生産性と効率性を重視する必要がある。また、最先端の情報を得るには、グローバルなネットワークの構築や情報の受発信も重要であるため、それらに関する取り組みの先端事例を視察した。

開催日時:2023年9月28日(鳥取開催)

 

 

 

トゥリーアンドノーフ株式会社
代表取締役 徳本 修一 氏

 

 

はじめに

 

TREE&NORF(トゥリーアンドノーフ)は、鳥取県鳥取市で水稲を生産する農業法人である。科学的視点とデータを重視した手法で、革新的な農業を実践している。

 

代表取締役の徳本修一氏は、消防士、芸能マネージャー、歌手、ITベンチャー役員を経て、2012年に農業参入した異色の経歴を持つ。全く異なるジャンルで培ったキャリアが農業経営者としての土台となっており、「どのキャリアが欠けても今の自分はない」と語る。

 

参入当初は有機・大規模栽培に挑戦したが、失敗の連続で資金も優秀な人材も流出していく悪循環が続いた。多忙な割に利益が少ない農業の現状に疑問を持った徳本氏は、業界の常識にとらわれず、世界的な視点と科学的アプローチで、生産性と効率性を追求していった。

 


 

まなびのポイント 1:イノベーションによるコストと労働時間の削減

 

水田にとって重要なのは水である。渇水時には農家で水系の取り合いになる。また、水路の確保や設備維持のコスト、干ばつなどの天災によるリスクもある。こうしたコストとリスクを低減するため、同社は菌根菌を使った「水のない水田」の実験を始めている。

 

菌根菌とは、植物の根に共生し、土壌中の養分を吸収して植物に供給する微生物。効果的な栄養素の吸収、肥料と水の節約、干ばつ・洪水・塩分などのストレス条件下で耐性が高くなるなど、生産性アップに有効であるとして世界的に注目を浴びている。

 

また、同社はトラクターの改良も進めている。写真のトラクターは、初心者でも運転できるAT(オートマ)仕様で、操作は片手で全てできる。空調設備付きのキャビンは広く、音楽も聴ける快適空間だ。

 

効率性を高めることで徹底的にコストを下げ、労働時間も削減する。それにより人材も大切にできる。同社は冬季には休業するか、視察に時間を割く。収入を得られる時期に徹底的に利益を取り、他の時期は休養か勉強に充てるのだ。

 

 


快適で効率的に改良されたトラクターと、田んぼの常識を覆す「水がない水田」の説明をする徳本氏

 

 

 

まなびのポイント 2:世界のプロ農家とのネットワークを構築

 

徳本氏は農業を行ううちに、農業に対する社会・政策・世論と実際の農業にギャップがあることに気づき、プロの農家としてもっと情報を発信し、農業の停滞を止めなければいけないと感じた。そこで、稼ぐためではなく、プロ農家の声を届けるため、YouTubeなどを通じて農業の現場から情報発信を行った。この発信がきっかけで、同社は世界のプロ農家とのネットワークを構築した。

 

また、そのネットワークを生かし、日本で「日本バイオ作物ネットワーク」を設立。国内外のプロ農家とダイレクトにつながり、バイオテクノロジーや不耕起など最新技術を軸に、あるべき土地利用型農業の姿、長期視点に立った政策の提言、持続可能な農業などについて実践的な議論をするプラットフォームとして、発信を続けている。

 

 


トゥリーアンドノーフのYouTubeチャンネル。数多くのコンテンツが発信されている https://www.youtube.com/@treeandnorf

 

 

 

まなびのポイント 3:日本の農業にはマーケティング発想が必要

 

日本の水稲農業は、技術力が高いのに儲からない。国内マーケット向けによりおいしいコメを、ブランド米を作るのに力を注いでいるからだ。品種改良も重要だが、国内マーケットはレッドオーシャンである。一方、飼料米のマーケットは需要がある。おいしさより効率を優先でき、利益を得ることができる。

 

科学的な視点だけではなく、経営学やマーケティングの発想もしっかりと持ち、農業を行う必要がある。同社は異業種から参入したからこそ、現状のマーケットを客観的に分析し、「技術を活用し、持続可能性を高めることによって未来への道をつくる」というミッション実現に向けて“農業経営”を行っている。