【第1回の趣旨】
ライフスタイルビジネス研究会では「-ライフスタイルカンパニー100社の創造-10年後のビジネスモデルをデザインしよう」を今期テーマに掲げている。第1回では「ライフスタイルビジネスの未来像」を主眼に置き、3社のゲストにご講演いただいた。
人口動態・社会構造の変化をはじめ、産業構造の改革や社会課題・顧客課題の変容というライフスタイルビジネスに大きな影響を及ぼすポイントに対し、3社のゲスト研究を通じて、取り組むべき3点のテーマを掘り下げた。
開催日時:2023年9月28日(北海道開催)
代表 石井 伸和 氏
はじめに
小樽民家再生プロジェクトは、小樽の空き家となった古民家を有効活用する活動を進める団体である。この団体は、小樽への移住を希望する人々に対して、古民家を中心にした空き家情報を提供している。
その際、原則として「建物の外観はできるだけ残す」ことを利用者に対して条件と出している。このようなアプローチは、通常、民間の不動産会社や改築会社が敬遠するものであるが、同団体がこれを実践することで、地域において欠かせない存在となっている。
今回の講演では、同団体が地域とどのように結び付き、歴史ある小樽の街並みを保護しているかを学ぶ。
小樽の歴史的建築物である旧寿原邸
まなびのポイント 1:印刷業から情報提供事業へビジネスを再定義
代表の石井氏は、小樽の老舗印刷会社「株式会社石井印刷」の経営者でもあった。石井氏は、1989年に同社の代表取締役となったが、印刷会社としての経営が厳しくなっていた状態であった。
この時、石井氏は「印刷業は、情報産業である」とビジネスモデルを再定義した。つまり、同社は既存の情報を“川下”で印刷物として発行していくのではなく、情報を生み出す側、すなわち“川上”でビジネスを行うことによって、生き残ることができたのである。
まなびのポイント 2:地域価値と地域外価値(移住者)のマッチングによるコ・クリエーションプラットフォーマー
同団体は小樽への移住希望者に対して、ウェブサイトなどの手段で小樽の古民家を中心とした空き家情報を提供する事業を行っている。このような取り組みを行っている自治体や団体は少なくない。ただ、他の自治体や団体は、税金の優遇や金銭面での補助をメリットとして挙げることが多いが、同団体はそのようなことはしないという。
逆に、移住希望者と面談を積極的に行い、小樽という地域でどのようなことをしていきたいかをヒアリングし、小樽という地域価値を理解した移住者だけに空き家を紹介している。
こうした取り組みにより、小樽に強い関心と愛着を持った者が多く移住し、高い移住定着率を実現しているのである。
小樽民家再生プロジェクトが発行する「小樽移住・起業支援ハンドブック」
まなびのポイント 3:地域自治体(小樽市)と連携し、地域産業価値(古民家、地域観光資源、地域産業)を高める
小樽は、北海道を代表とする観光都市として有名である。しかしながら、昨今は高齢化が進み、歴史的に価値のある建物も含め空き家が増加し、市内の従来の景観を保ち続けることが難しい状況にある。
同団体の取り組みによって、古民家の再利用や建物のリノベーション、その建物を利用した起業により、従来以上の魅力的な観光資源となることで、地域産業価値を上げることに成功しているのである。