メインビジュアルの画像
研究リポート
人材育成研究会
EVP(従業員に対する価値提案)を高め、社員のエンゲージメントを向上させ、自律的に成長する・会社に貢献する人材を生み出していくためのヒントを優秀企業から学びます
研究リポート 2023.12.07

人生最後の日を会社で過ごしたいと思える会社:西精工

【第5回の趣旨】
当研究会では、最先端の教育制度や人材育成の仕組みを持つさまざまな企業の視察を通じて、人材の育成・活躍・定着を成功させるヒントを提供している。
今回は「月曜日に出社するのがワクワクする」と答える社員が9割にも上る、西精工の西氏に 「会社の思い」と「社員(個人)の思い」の方向性を一致させることで育むエンゲージメントや企業風土についてお話を伺った。
開催日時:2023年7月14日(徳島開催)

 

 

西精工
代表取締役社長 西 泰宏 氏

 

はじめに

 

徳島に拠点を置く西精工は、小径パーツやナットの製造を得意とするメーカーである。同社は「日本経営品質賞」「ホワイト企業大賞」「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」など、さまざまな賞を受賞しており、「働きがいのある会社」として高い評価を受けている。

 

しかし、現代表取締役社長の西氏が後継者として入社した1998年当時の社内は、あいさつすらない暗い雰囲気で不注意による事故などが多発していた。そこに課題を感じた西氏はさまざまな取り組みをする中で、「何のために働くか」という理念を会社自身が持つことの重要性にたどり着いた。ここから同社の働き方改革は始まり、新たな風土文化を作り、会社を変えていくための改革の土台といえる経営理念「ものづくりを通じてみんなが物心共に豊かになり、人々の幸福・社会の発展に貢献すること」が2006年に誕生した(2013年に経営理念を改定し、現在に至る)。

 

今回は、西氏に働きがいのある職場の背景にある「理念の浸透」「心理的安全性」「明確なビジョン策定」の3点に焦点を当ててご講話いただいた。

 


 

まなびのポイント 1:理念を土台にした対話型働きがい改革

 

同社では毎日1時間朝礼を行っており、その中で創業の精神や経営理念について振り返る時間を設けている。そこで互いを認め合い、スキルを高め合うことが生産性の向上につながっているという。時には上司が部下を叱る場面もあるが、それは部下の成長を促すことが目的であるという共通認識を社員全員が持っているため、叱ってくれる上司を部下は好きになるという。「上辺だけの優しさでは成長しない」と語る西氏の言葉には同社の企業文化が表れている。

 

同社社員は、毎週月曜日に「私の一週間」というレポートを提出している。これには次の3つの良いポイントがある。①心の揺れ方を共有することで対話が生まれる②チームメイトが何を喜びとし、何に悩んでいるのかをマネジメント層が把握できる③自身を振り返ることで成長につながる。

 

このように、どの取り組みにおいても「対話」が重要となっており、そこに働きがいへとつながる重要な要素がある。

 


社員自身の強みや目標・役割を一人ずつ記載した「ミッション・ステートメント」

 

 

まなびのポイント 2:大家族経営を支える心理的安全性「助け合い・おもてなし」

 

同社は、直近の営業部所属の女性職員の職場復帰率ほぼ100%を誇る。これには、「助け合い・おもてなし」の精神がもたらす心理的安全性が働いている。

 

西氏は毎日、誰がどんな理由で休んでいるのかを把握している。誰かを理解するためにはその人の背景(家族など)まで把握するという深い相互理解の意識を西氏はもちろん社員全員が持っている。「“誰かのカバーをする”自分が好きという人が集まればいい。カバーし合うことの大切さが幸せに繋がる。」(西氏)。この思想が社員に深く浸透していると言えよう。

 

同社では休日の度に部署間の垣根を越えたイベントを頻繁に開催している。これは社員が自発的に行っている活動で、その根幹には相互理解の上に成り立つ「助け合い・おもてなし」の精神が働いている。この精神こそが同社の特長の1つであり、西氏が最も大切にしている大家族経営を実現させている。

 


おもてなし精神を体現した訪問者一人一人への手書きのウエルカムメッセージ

 

 

まなびのポイント 3:各部署ごとの明確なビジョン策定

 

西氏は投資を恐れないと言う。実際、年間売上40~50億円の中、80~90億円とほぼ倍の費用が掛かる新工場の設立と現本社工場跡地への自動倉庫の設立に乗り出している。その背景には、5~10年後の明確なビジョン策定が成されていることにある。ビジョンは会社全体だけでなく、経理含む19チーム全てが策定し、日々の朝礼で唱和している。チームビジョンの作成には、「自分たちの係の強みを明確にすること」「ビジョン実現のために自分たちが何を頑張って、どんな技術を高めていくか」の2点に重きを置いて、各チームでビジョンを考え、社員一人一人が当事者意識を持って働くことができるよう工夫されている。

 

「ビジョンに向かう社員の育成は不可欠である」と西氏は話す。そのために経営理念や風土文化を理解し行動できる人材の採用を重視している。明確なビジョン策定が会社の在るべき姿と社員のやりがいを融合させ、日本でいちばん大切にしたい会社大賞受賞などにつながっていると言えよう。

 


西氏と参加者全員での集合写真