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研究リポート
ホールディングス・グループ経営モデル研究会
6つのホールディング経営タイプをベースに、新たなグループ企業を研究します。自社がどのようなホールディングスモデルとして進化するのか、共に考えましょう。
研究リポート 2023.12.05

連邦多角化経営「100の事業100人の経営者を育てる」:ヤマチユナイテッド

【第1回の趣旨】
マーケットが成熟化した経営環境においては、事業を単独で成長させることがますます困難になっていく。複数の事業を組み合わせることで新たな価値を創出し、それぞれの事業に「遠心力」を効かせていくことが、これからの企業成長における原動力になる。
また、強い遠心力と同時に強い「求心力」も求められる。魅力的なパーパスやエキサイティングなビックビジョンが多くの人を引き付け、エンゲージメントの高い経営者人材が多く生み出される。
本研究会の第1回は、講師にヤマチユナイテッドCEOの山地章夫氏を迎え、独自の「連邦多角化経営」について講話いただいた。
開催日時:2023年9月20日(東京開催)

 

 

ヤマチユナイテッド
CEO 山地 章夫 氏

 

はじめに

 

建材卸売業を祖業とするヤマチユナイテッドは、「連邦経営」と称する経営スタイルで、ホールディングスを中心とした32カンパニー・50事業からなるグループを形成。パーパスを「世の中に、幸せをばらまく」、ミッションを「THE 100 VISION」と定め、100の事業・100人の経営者・100億円の利益と、さらなる”連邦拡大”を目指している。

 

組織には、よって立つもの・大義が必要であり、山地氏が繰り返し語り続けることで社員へのパーパスやミッションの浸透・具現化を推し進めている。「会社は病気の塊」「1本足打法ではダメ」「新しい価値を創造する」という、事業承継当時の山地氏自身の経験・志向を基に磨き上げた「連邦経営」の求心力と遠心力をひも解く。

 

 


 

まなびのポイント 1:ホールディング経営を補完する「連邦経営」

 

「会社は病気の塊」と、山地氏は自身の経験から話す。親族が経営する自社の再建に関わる中、経営者1人で「病気」を解決することは負担が大きいため、経営幹部や社員を巻き込み、自分事として携わってもらうことが必要と痛感したという。

 

ホールディングスの欠点の1つは、事業ごとのセクト化、他事業への無関心化である。「連邦経営」はこれを防ぎ、全社員で経営を推進するための仕組みだ。パーパス、ミッション、コアバリューによって全事業に縦串を通すとともに、グループヘッドクオーター会議、共同プロジェクトなどの制度で全事業に横串を通している。経営幹部・社員が全事業を自分事として捉え、相互にサポート・フォローする経営スタイルにつながっている。

 


「連邦経営」のイメージ

 

 

 

まなびのポイント 2:自社の強みに何を足すのか考えて新規事業を開発

 

山地氏が事業承継した建材卸売業は、米国やカナダで発掘した商材を直接輸入することで収益性と独自性を確立し、のちに輸入住宅、中古住宅、リフォームなどへ展開。現在はライフスタイル総合商社として事業領域が9セクターに広がっている。

 

新規事業開発の契機は、1990年代末の山一・拓銀ショックによる苦境だった。山地氏は事業の「1本足打法」の限界を感じ、ホールディングスを活用した多角化へかじを切った。

 

当初は山地氏がやりたいことを事業化してきたが、「竹やぶ理論」に基づく事業開発にシフト。自社の「竹やぶ」は何か、強み(事業・顧客・エリアなど)に何を足していくのかを考えて事業化することで、成功率が上昇。新規事業開発の軌跡を振り返ると、「細分化」「商品開発」「市場開拓」「飛躍」と、「アンゾフの成長マトリクス」に通じるものが見えてくる。

 

 

 

 

 

まなびのポイント 3:新規事業を生む人材育成

 

同グループでは、各組織に年1つの事業開発を課しており、各事業のミーティングで生み出されたアイデアが事業本部に提案され、具体化していく。最終的に山地氏による審査を経るが、事業本部で合意形成された事業計画は、高い確率で承認される。

 

精度の高い新規事業計画が立案される背景には、「THE 100 VISION」に基づく新入社員時からの教育・人材育成プログラムがある。入社時点でビジョンに共感していることはもちろん、9カ月(全9回)にわたる新人育成プログラムにおいて、一般的なビジネスマナーだけでなく、貸借対照表(バランスシート)の理解や経営分析なども行い、修了プレゼンとして新規事業計画の発表を実施。新人の段階で事業創造マインド醸成とスキル習得を促進している。これまで12年間の積み重ねにより、新規事業を創る人材が厚い層を形成しているのである。