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研究リポート
ビジネスモデルイノベーション研究会
秀逸なビジネスモデルを持つさまざまな企業の現場を「体感」する機会を提供しております。ノーボーダー時代に持続的成長を実現するためのヒントを学びます。
研究リポート 2023.10.25

独自の経営ポリシーで実現する どんぐりのNo.1戦略とは:株式会社どんぐり

【第3回の趣旨】
ビジネスモデルイノベーション研究会では、両利きの経営における知の探索をテーマに、さまざまな分野における秀逸なビジネスモデルを構築し、成功している優良企業を視察訪問する。そのビジネスモデルを構築している経営者・経営幹部の方から直接講義いただくとともに、現地訪問によってビジネスの現場に触れることで、イノベーションを「体感」する機会を提供している。
今回は「最強の差別化戦略としてのブランディング~オンリーワンバリュー創造への挑戦~」をテーマに、計画的にスマート酪農を推進しSXを実現するKalm角山と、独自の戦略でCXを追求し続けるどんぐりの2社にご講義いただき、両社が実現してきた成功と成長の軌跡からビジネスモデルイノベーションとチャレンジ精神の神髄を学んだ。
開催日時:2023年6月28日、29日(北海道開催)

どんぐり
代表取締役 野尻 雅之 氏

 

 

はじめに

 

昭和58年(1983年)3月、札幌円山に「珈琲舎どんぐり」が、同年10月に地域密着型のパン屋「どんぐり」が開店した。平成元年(1989年)には「株式会社どんぐり」を設立。その3年後、白石区を拠点(本店)として「焼きたてパン どんぐり」を本格的にスタートさせた。ちくわパン、ザンギなどの人気商品を次々と打ち出し、路面型パン屋として全国有数の売り上げを誇る。

 

10店舗のパン屋に加え、令和2年11月には「てづくりおむすびの店 どんぐり」をオープンした同社。「パン業界の異端児」として、自社におけるイノベーションの内容や大切にしている価値観(どんぐり“らしさ”)について代表取締役の野尻氏にご講演いただいた。

 


 

 

まなびのポイント 1:CX(顧客体験価値)追求の先にあるノベーション

 

「効率化」は、製造業をはじめビジネスでは常識である。しかし、野尻氏は効率化を「必要だが正解ではない」と話す。どんなに効率化をしても、それは顧客への提供価値を高めるものではないからだ。機械化することにより、他社と同じようになってしまっては、自らレッドオーシャンに入ってしまうのと同じである。

 

他社がまねできない取り組みの事例として「閉店間際でも商品を作ること」が挙げられる。閉店時間に近づくと、どのパン屋も売れ残りを恐れて品数を減らす。しかし、それは会社の都合であって、顧客の“ワクワク感”にはつながらない。この“ワクワクするか”を判断基準に、店舗内の各メンバーが業務に当たっている。


店舗ではパンを山盛りに積む“ボリューム陳列”が意識されている。キレイな陳列よりも顧客のワクワク感を引き出し、購買意欲を刺激している
 

まなびのポイント 2:現場主導のイノベーションによる自律的組織

 

店舗を運営する企業の組織図では、本部が店舗を管理する構図が一般的である。しかし、同社では「店舗が“こうなりたい”という姿を支援するのが本部」と考える。セントラル工場を設けず、店舗スタッフが品数を常に確認しながら、現場で判断をした上で焼きたてのパンを提供している。

 

また、商品開発も各店舗で行われている。店舗において開発をサポートするためのチームを結成することで、若手メンバーであっても商品づくりから売値の設定までができるようになる。現場が自走できる状態を目指して、支援を行う役割を本部が担っているというわけだ。


店舗内に設けられたキッチン。焼きたてパンを常に顧客へ提供できるよう、閉店時間が近付いても窯を稼動させている
 

まなびのポイント 3:自社らしさを核として新規事業開発と将来のビジョン

 

円山動物園とのコラボ企画やおむすび屋の開店など、どんぐりの未来に向けた新規事業は現在進行形で進められている。事業の価値判断基準として軸に据えるのは「それは、どんぐり“らしい”のか?」である。「顧客がなぜどんぐりを選んでくれるのか」を社内で定期的に話し合っていくことで、どんぐり“らしさ”について社内の共通認識が生まれている。

 

効率化やコストから考えるのではなく「どこに自社の価値を見いだすのか」「どこに手間暇をかけるのか」を大切にしている思いが強いからこそ、同社には人が集まる。CXの追求がどんぐり“らしさ”であり、今後もファンが拡大していくだろう。


顧客からのリクエストに応え「串ザンギ」をパン屋で販売。
現在では、同社における人気ランキング3位の商品となった