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研究リポート
『成長M&A』実践研究会
「戦略」と「実行のスピード」をポイントに、アフターコロナ時代に求められる戦略の方向性と、それを実現するためのM&A・アライアンスの手法を学びます
研究リポート 2023.09.08

失敗しないM&Aを実践する小松物産の戦略と実務:小松物産

【第2回の趣旨】
当研究会では、M&Aのモデルを確立している企業から独自のM&Aノウハウと業種の特徴を取り入れた事例を学ぶ場を提供する。また、M&Aを活用した成長戦略を実現し、自社の企業価値を向上させるための道しるべを提示する。第2回のテーマは「ドメイン×M&A」。「住まいと暮らしビジネス成長戦略研究会」との共催で、ゲスト3社(ITOKI、小松物産、Colors Japan)による「働き方」「事業ドメインごとのM&A戦略」についての講演を配信。M&Aを積極的に推進する企業の戦略構築・実行について深く考察した。
開催日時:2023年5月18日(東京開催)

 

 

小松物産
常務取締役 相原 裕貴 氏

 

 

はじめに

 

1950年に創業した小松物産は建築設備や土木資材等の卸売事業を展開している老舗企業。現在はグループ売上約500億円(従業員約630名)、そのうちグループ企業、すなわちM&Aで取り込んだ売り上げが約180億である。

 

2000年~2011年の間に売上110億円減収、従業員は約100名削減した。この状況から成長曲線を取り戻すためにM&Aを本格検討し、この7年で大きく売り上げを伸ばした。ただし、同業他社の業界TOPは売上3300億円の巨大企業。ライバルに追い付くためには、独自のM&A戦略方針を策定する必要があった。現在までに合計9社をグループインした小松物産。7年間のM&A実務経験に基づいた失敗しないM&A、戦略をご講演いただいた。

 


 

まなびのポイント 1:M&A戦略でライバルと差別化。狙う領域を明確にし、案件を探し出す

 

独自のM&A戦略を持つ当社は、同業他社が狙う領域にはあえて手を出さない。いわゆる同業の流通系(卸)の会社はターゲットとせず、建設工事全般をメインに、運送、産業廃棄物処理事業、リース事業を狙う領域に定めている。全国を対象エリアとし、初期投資金額が抑えられるため、過疎地域も歓迎している。ただし、利益が出せる会社であることが条件だ。

 

同社は、M&Aの条件に合致する案件を見つけるための努力を惜しまない。案件を扱う仲介会社や金融機関、ファンド、コンサル会社など60~70社と継続的に取り引きをする。売り手、買い手、M&Aアドバイザーが三位一体となることがM&Aを成功させる秘訣だと言う。

 

 

 

まなびのポイント 2:売り手オーナー様に対して提携後の方針を訴求する

 

株価で勝負はせず、提携後の方針を売り手オーナーへ訴求する。基本スタンスは「何も変えない」ことだ。これまでの業歴やその会社が築き上げてきた地域での信頼をそのまま活かし、無理に業績を伸ばさず、継続して業績を出し続けてほしいという方針である。屋号はもちろん、従業員待遇、業務体制もそのまま。社長は内部昇格が基本路線だ。小松物産からの支援は、主に労働環境の見直し、制度の充実、職場環境の改善、人材確保の後方支援などで、基本的に同社は表に出ることなく黒子に徹し、売主オーナーや次期社長に自治を任せていく。株価などの定量的条件で勝負するのでなく「何も変えない」という提携後の方針で売主オーナーの心をつかむ。

 

 

まなびのポイント 3:失敗しないために明確な投資基準を持つ

 

同社の投資基準は明確である。株価は「10年で回収」が基準。過去のM&A9件で合計70億円を投資した。配当は年間7億円が最低ライン。そのため、利益を出せる会社であることが絶対条件であり、さらに提携後に独立独歩でやっていける会社でなければいけない。この明確な基準に当てはまる案件を譲り受けると決めている。持ち込まれるあまたの案件の中から、合致する会社をひたすら探し、基準を満たす会社でなければTOP面談にも進まない。投資判断が明確になっていることで、ブレの無いM&Aを実行している。


M&Aにより小松物産グループのネットワークは広がり続ける