【第2回の趣旨】
企業は、投資家に求められる価値を創造し、事業から生み出すキャッシュフローや企業価値を最大化させることが重要である。企業価値を最大化させるには事業をスケールさせていく事業ポートフォリオの設計が鍵となる。市場価値を測る「事業性評価」と、経済価値を測る「投資効率評価」を十分にしていくことが必要だ。
第2回のテーマは「事業評価と事業をスケールする成長戦略」。企業価値向上を実現するためにどのような成長戦略を立てるのか、またどのようにして事業価値を評価するのか、具体的な事例や経験談から学ぶ。
開催日時:2023年4月21日
取締役常務執行役員 CFO 伊藤 彰浩 氏
はじめに
キリングループは1990年代以降、M&Aなどの大型投資を行うことで事業を成長させてきた。
そんな中で、同社ではホールディングス化をはじめとした組織変革があり、伊藤氏は子会社への出向など経理・財務・企画関連業務を中心にさまざまな経験をしてきた。そこから学んだのは、企業にとっていかに事業の価値を高めるか、事業を正しく評価するかが重要であることだという。
伊藤氏のを踏まえた上で、どのように事業価値を評価するのか、CFO組織の役割とは何か、成長戦略としてのM&Aの活用と留意点についてご講演いただいた。
まなびのポイント 1:事業価値評価
設備投資、研究開発投資、マーケティング投資などの投資はNPV法(長期的なキャッシュフローを現在価値に換算した数値と必要投資額を比較)で考えることが重要であり、この手法に帰着する。キリンでも基本はNPV法で算出した後に、補足的な説明として回収期間などを説明して、投資判断の材料としてきた。
利益ではなくキャッシュフローを割り引くこと、運転資本も加味することが必要であり、また割引率をどのように設定するのかにも留意が必要である。例えば、カントリーリスクは異なるので国ごとに割引率は異なる。もっとも大事な事は、将来キャッシュフローを合理的に見積もることである。また残存価値の算出に際しては永久成長率の設定に注意し、企業価値全体に占める残存価値の割合を確認することが必要である。
まなびのポイント 2:企業におけるCFO組織の役割
キリンでは投資の案件がさまざまな部署から持ち込まれ、CFO組織は第2のディフェンスラインとして投資採算性を検証する必要があった。その際、投資採算の妥当性についてCFO組織のアドバイスが求められていた。伊藤氏は投資採算性や連結決算への影響、税務への影響についてコメントをしたという。
投資は失敗することも少なくない。牽制を効かせ、社内で慎重に検討することを促すためにもCFO組織が持つ役割は重要である。
投資採算性の検証は、CFO組織が第2のディフェンスラインとしての役割を果たす
まなびのポイント 3:成長戦略としてのM&Aの活用と留意点
海外M&Aを経営に活用するためには9つの行動(留意点) (M&A前~M&A後)があり、最終的には株主価値を棄損しないことが投資判断のベースである。
例えば、「目指すべき姿」と実現ストーリーを明確化し、入念に打ち出した自社の中長期戦略があるのであれば、それを軸にしてぶれないことが重要であろう。
また、買収ありきでなく、あくまで自社の成長のための判断をすることを念頭に置いておきたい。外部機関に頼るだけでなく、自社内でもValuationを実施し、上限額を決めておくことも重要である。
【出所】経済産業省 2018年3月
https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/toshi/kaigaima/image/20180327003.pdf