「デザイン経営」とは、デザインを「企業やビジネスモデルそのものを変革する経営資源」と捉え、顧客の体験価値を高め、自社らしさを醸成する経営手法である。当研究会では、デザインの力を経営に活用する「高収益デザイン経営モデル」実践企業を視察し、経営の現場でデザインがどう活用され、他社との差別化、社員の活躍と成長、地域社会との共創を実現しているかを体験。その本質に迫っていく。ファミリアの講義で「70年間愛され続けるデザイン思考と企業経営の実践」、たねやグループの講義で「創業200年に向けたブランドづくりとデザイン経営」の秘訣について学び、デザイン経営の本質に迫った。開催日時:2022年2月21日、22日(兵庫・滋賀開催)
CEO 山本 昌仁 氏
はじめに
たねやグループは、自然とともに成長し続けてきた滋賀県近江八幡市の「お菓子屋さん」である。1872年に創業し、デザインや世界観、体験にこだわって150年以上続いてきた。同社では、バームクーヘンが有名な「CLUB HARIE(クラブハリエ)」と、和菓子の「たねや」を運営している。
近江商人の経営哲学である「買い手よし! 売り手良し! 世間良し!」の「三方よし」経営で、幸せをつくるたねやグループ。CEOの山本昌仁氏は、理念に共感した多くの協力者とともに、顧客、社員、地域の体験価値を変える革新的な取り組みを実践している。自然に寄り添いつつ生きていく近未来のユートピア的空間「La Collina Omihachiman (ラ コリーナ近江八幡)」と、心に温かみをもたらす「火」とたねやの「ふるさと」であり、「お客さまにとっての帰る場所」となることをコンセプトとした「たねや日牟禮茶屋(ひむれちゃや」)の世界観を体験しながら創業200年に向けた、たねやのこだわりに迫った。
四季折々の自然とお菓子を楽しめる近未来のユートピア的空間
「 La Collina Omihachiman (ラ コリーナ近江八幡)」
まなびのポイント1:「お菓子屋さん」としてブレない軸を持つ
たねやには創業から現在に至るまで、決してブレない思いがある。それは、自分たちが「お菓子屋さん」であること。「近江八幡の豊かな自然に商いをさせてもらっている」という感謝の心を常に持ち続けている。ラ コリーナに代表される体験型施設も「近江八幡の自然に育まれたたねやというお菓子屋さん」を体験してもらう施設なのである。
CEOである山本氏は、地域との取り組みや新たな挑戦、新たな体験価値創出のために日々全国を飛び回っているが、あくまでも「お菓子屋さん」として食の世界を極めることに軸を置き、その道から逸れるような事業には手を出さない。そのブレない軸が従業員・店舗スタッフへも浸透し、スタッフにもお客さまにも愛される企業となっている。
まなびのポイント2:多くの人を集めるたねやの理念「自然に学ぶ」
たねやの歴史を語るのに欠かせないキーワード、それは「縁」だ。ラ コリーナ近江八幡の世界観を象徴する建物の土壁や天井には、デザイン性に富んだ装飾がなされている。それらの多くは工事関係者だけでなく、たねやのスタッフたちも携わって造られたものである。
建築の工程にスタッフの手が入ることで、スタッフが「自分たちが造った場所で自分たちが作るお菓子を売る」という愛着を持つことにつながった。
なお、ラ コリーナ近江八幡の設計は、東京大学名誉教授である建築家の藤森照信氏によって手掛けられ、建築にはスタッフだけでなく建築家を目指す大学生も参加した。同施設は多くの人々の縁をつなぐ象徴でもあるのだ。
ラ コリーナ近江八幡の建築工程の様子。スタッフ総出で土壁を塗った
まなびのポイント3:体験価値の体現「ラ コリーナツアー」
ラ コリーナ近江八幡では、施設をスタッフが案内してくれる「ラ コリーナツアー」を実施している。ツアーはおすすめスポットを巡るプログラムと、実際に敷地に植木を行う体験型プログラムがある。施設内を巡るツアーは、初めて来場したお客さまと、来場回数が2回目以降のお客さまで内容が変わるとのことだ。訪れるたび違った発見に出会えることが、決して交通の便が良いとは言えないラ コリーナ近江八幡に多くの人が集まる理由の1つであろう。
「ラ コリーナツアー」は専属のスタッフがお客さまの要望に合わせたガイドを実施