【第4回の趣旨】
採用を経営課題と捉え、全社的に推進していく「戦略採用」を実践する企業に、そのエッセンスを学ぶ戦略採用研究会。当研究会では、採用の成功事例を研究し、採用難の時代でも自社の戦略にマッチした人材を獲得するためのイノベーションのヒントを提供している。
第4回は2法人のゲスト講師を迎え 、ゲスト講師による講演と、研究会参加者のディスカッションを実施し「自社に合った採用活動構築の仕方」の学びを深めた。また、採用に関して専門的な知識を有するタナベコンサルティングのコンサルタントによる解説を実施。経営戦略に基づいて人的資本を配置し、それらを適切に組み合わせて企業価値を高めていく、「人材ポートフォリオ」の考え方のもと、自社が採るべき採用戦略についての研究を行った。
開催日時:2023年8月25日(大阪開催)
左から株式会社臨海 人事部部長 黒田格氏、社員採用課上席課長 小島大介氏、管理課専門総合主任補佐 小野咲也絵氏
はじめに
株式会社臨海は、1974年創業の老舗学習塾である。小学生・中学生・高校生を対象に受験指導からテスト対策まで幅広く対応し、効果的な学習で中学受験、高校受験、大学受験のいずれでも著しい合格実績を出し続けている。
臨海セミナーでは学力向上のために、授業以外の多くの場面で生徒と向き合う「面倒見」も大切にしており、全国の子どもたちが臨海セミナーの指導を受けられるよう、全国での教室展開を目指している。
この「面倒見を大切にする」という考えを、生徒だけでなく、社員や退職した元社員にも広げている。今回は、同社が取り組んでいる人材採用手法の事例に加え、「Rinkaiアルムナイ」についての講演を通じ、テーマへの理解を深めた。
official-alumni.comの管理者画面
まなびのポイント 1:アルムナイ採用による企業ブランディング
アルムナイ採用とは、退職者を再雇用する採用手法のことで、「カムバック制度」「出戻り制度」とも言われている。アルムナイを採用する企業の多くは採用を目的としているが、同社の場合は「出戻り採用(復職)はあくまでも副産物」という考え方である。
同社は①会社の方向性:全国No.1の地域貢献・共演授業、②採用の方向性:“質の高い”講師が多数必要、③採用活動:退職ありきの採用(アルムナイ採用)の必要性、という自社の強み・方向性と課題を明確にし、企業ブランディングを目的に「Rinkaiアルムナイ」を発足した。
Rinkaiアルムナイでは、①退職者=味方の構造づくり、②退職者による「ポジティブな評判の拡散」と「ネガティブな評判の蓄積防止」、③協同でビジネスができる関係性の構築、④顧客としてまた別の形で関わることを想定した関係性の構築、⑤臨海でキャリアを積むことの付加価値提供に取り組み、自社の企業ブランディングにつなげている。
アルムナイ同士の交流の一例
まなびのポイント 2:退職者に対するネガティブイメージ払拭の取り組み
多くの企業の場合、「退職者≒敵」といった認識が強く、退職後に企業と退職者が関わりを持つ例はほとんど無いといっても過言ではない。そこに目を付け、「退職者≒敵」の構図を取り払い、自社の企業ブランディングに活かす取り組みが「Rinkaiアルムナイ」である。
「退職者≒敵」の構図を取り払う実例を2点挙げる。1点目が、アルムナイネットワーク「official-alumni.com」の活用である。同社のアルムナイが会員となって、アルムナイ同士、アルムナイと同社が交流を持つことができるコミュニティを提供している。
2点目に紹介するのが、アルムナイ会員に向けた様々な発信である。アルムナイ同士の交流を深めるべく、「アルムナイの現在」を紹介するアルムナイインタビューの実施、オフ会(女子会、同じ趣味同士の交流会等)の企画を行い、仕事の領域を超えた関係性を築ける場を提供している。
Rinkaiアルムナイ運営メンバーが企画したオフ会の様子
まなびのポイント 3:アルムナイの可能性と新たな活用方法
同社は、Rinkaiアルムナイを通じて「企業」と「アルムナイ」がWin-Winの関係を築けるように働きかけている。同社の取り組む新たなアルムナイの活用方法として2点実例を紹介する。
1点目が、アルムナイを顧客として関係性を築いていくことである。「アルムナイのお子様がゆくゆくは同社の塾に通うために」という長期的な視点で、現アルムナイとの関係を構築。また、通塾特典を用意するなど、顧客が継続的に通塾できるよう仕組み化している。
2点目は、アルムナイをフリーランスや委託といった形でビジネスパートナーとして迎え入れる可能性を見込み、チャンスがあれば協同でビジネス展開できる体制を整備している。
アルムナイは同社への理解に加えて、他社・他業界での経験+第3者視点を持ち合わせているため、ビジネスパートナーとなった場合は両者がシナジーを発揮でき、良好なビジネスパートナーとして関係を構築していけるのである。
アルムナイインタビューの様子。両者の笑顔から、良好な関係が構築されていることが分かる