【第4回の趣旨】
食品価値創造研究会では、「食に携わる仲間とともに、100年に一度のパンデミックを経験した今だからこそ、100年先を見据えて食品企業が創造すべき価値について語り合おう」を合言葉に、*EATマーケットネットワークによる新たな食品価値創造を探求している。
第4回の北海道開催のテーマは『北海道から発信するグローカル戦略』である。多様化が進み100年に一度の経済危機が数年単位で起こっている昨今、グローバルに関する意識が変わってきている。地方創生からみたローカルとグローバルを繋ぐ最前線で何が起こっているのか、日本最大の食糧基地である北海道から、その事例を伝えていく。
E:エンジニアリング(技術進化・フードテック)
A:アソシエーション(新結合・オープンイノベーション)
T:トランスフォーメーション(デジタル改革・業態転換)
開催日時:2023年8月29日(北海道開催)
代表取締役社長 田村 健一 氏
はじめに
北海道札幌市に本社を構える北一ミート株式会社は、業務用食肉卸を主に、食肉加工品の製造および飲食店の経営を行っている。創業会長の父から事業を引き継いだ二代目経営者の田村健一社長は「楽しむ企業文化」を大切にしている。同社の特徴をまとめると以下の3点に凝縮される。
1.徹底して仕事を楽しむマニアック集団
→おいしいお肉のために情熱を傾けるプロ集団であり、顧客から選ばれる付加価値がある
2.ブランドを語る「フラッグシップ商品」づくり
→どんなに良い商品でも簡単には売れない!だからこそ、フラッグシップ商品が必要
3.活躍人材を生む人事ポリシー
→「部下を幸せにできない人間は絶対に昇格させない」という活躍人材を育む仕組み
まなびのポイント 1:徹底して仕事を楽しむマニアック集団
田村社長は、二代目経営者になるべく若くして同社へ入社。現場で懸命に学び、精肉工場や営業の仕事を通じ事業拡大に邁進する。当時、売上高は11億円台で推移しており、12億円の壁をなかなか突破できない状況が続いていた。
当時は「決められたことはやり切るという厳しいノルマ、笑いも許さない真面目な職場、負けず嫌いだけが残る」という社風で、先輩社員も後輩社員も次々に辞めては採用する繰り返し。転機は営業部長時代の33歳、田村社長自身が家を建てるという目標を持った時にモチベーションが高まり、歴代最高の営業成績を更新できたこと。そのとき、人から与えられた目標では長続きしない、一人ひとりが夢を持ち、上司と会社が本気で応援することが大切だと気付いた。
そこで、2つの社内変革を実施した。1つはノルマの撤廃、もう1つは真面目一辺倒ではなく、「仕事を心から楽しむ社風」への転換だ。以降、6年間で離職率0%へ改善し、毎年売上高が1億円ずつ増える2桁成長を実現した。
仕事を楽しむ「心の経営」を実践する北一ミート。社風の変革もあり、6年で離職率0、売上2ケタ増を実現している
まなびのポイント 2:ブランドを語る「フラッグシップ商品」づくり
仕事を楽しむ「心の経営」を目指して順調に成長する中、2020年コロナショックが起きる。飲食店への業務用食肉卸が主力事業である同社には直撃となった。こだわりの加工食品も製造販売していたが、どれだけ商品の味が良くても、首都圏では「知名度・ブランド」がないと売れないことを痛感。静かになった工場の中で何をすべきか考えた。
そこで、趣味で田村社長が作ってきた生ハムの事業化を思い付き、早速行動。塩と肉だけで本物の生ハムを創れる職人は国内に17人、北海道では田村社長を含めて2人しかいない。希少性があることは間違いない、迷ったら楽しいと思う方へ行こうと、仕事が終わった後の工場の中、田村社長はたった一人で毎週8本ずつ生ハムを作り続けた。
熟成している生ハムの在庫が500本を超えたとき、世間から注目度が高まり、「いつ頃出荷するのか?」「売ってくれるのか?」などの問い合わせが殺到。「サッポロクラフト生ハム」と名付けた小さな事業が「フラッグシップ」となり、既存事業にも貢献。レストラン・小売店舗からの取引のオファーも増加していった。
まなびのポイント 3:活躍人材を生む人事ポリシー
コロナ禍から正常化した今期の売上見込は22億円、来期はすでに25億円が見えているという。順調な成長を支えるのは人材である。情熱を傾けられることに熱中する企業文化を育んだ背景には明確な人事ポリシーがある。それは「部下を幸せにできる人でなければ絶対に昇格させない」というものだ。次の課長や係長を任命するときには、誰に上司になってほしいか周囲に聴くようにしている。
その結果、皆が尊敬する先輩を自然と推薦するように変化。上司は部下の可能性を信じ、「なぜやらないんだ?」ではなく、「なぜ、できるようにさせてあげられなかったのか?」と真摯に反省する心を大切にしている。
次世代リーダーを輩出する仕組みはシンプルだ。「部下のことを否定しない」「アイデアを出しやすい環境を作る」、それができる人材を次世代リーダーとして育てている。同社は10年後に売上高50億円を目指している。その時、新卒第一世代(現在30代中盤)へ経営をバトンタッチする計画。部下の幸せを心から願う若きリーダーが育つ中、田村社長自身、彼らが躍動し、会社を動かすその景色を見てみたいと心から願っているのである。
専用工場では冷涼な気候を生かし、「サッポロクラフト生ハム」が生産されている。田村社長の情熱が生んだ「北一ミートのフラグシップ商品」である