【第2回の趣旨】
当研究会は、「自社のファンを創造・育成するためのコミュニケーション設計を最先端事例から学ぶ」という趣旨のもと、ゲスト講師をお招きし、LTV向上の成功ポイントについて事例を交えながら紹介している。
第2回では、ゲスト企業であるハルメク・エイジマーケティング様とニード様より、自社のブランドやサービス、商品をどのようにプロデュースするかを解説していただいた。
開催日時:2022年12月16日(東京開催)
代表取締役社長 木船 信義 氏
はじめに
シニア女性をターゲットに、毎月ファッション・美容・料理レシピ・エクササイズなどの情報を掲載しているメディアの「ハルメク」。月間購読者数は50万部を誇り、読者数も年々増加している。成功の裏側には、ハルメク・エイジマーケティングのインサイトを捉えたマーケティングがあった。
ターゲットインサイトを押さえるために「価値観」「行動スタイル」「考え方」などを分析。ターゲットが「ほしい!」「したい!」と深層心理で感じている「半歩先の未来」を発信するのが同社の戦略のポイントだ。体験できるメディア戦略、ファン化につながるコミュニケーションなど、顧客の心の内に寄り添った商品・サービス開発について実例に触れながら学んだ。
「シニア層の明るい色を取り入れたファッション」「健康に良い食材・料理特集」など、商品やサービスのターゲットを詳しく設定し 情報を発信している
まなびのポイント 1:顧客と深く長く付き合うビジネスモデル
ハルメクは書店では取り扱っておらず、直接販売で購読されている。広く一般に流通していないにもかかわらず、売上高・営業利益は年率10~15%と順調に推移している。
読者は平均68.5歳のシニア女性。読者が抱えている悩みや興味に沿ったコンテンツになるよう、さまざまな工夫がなされている。そのうちの1つが顧客起点でのコンテンツ・商品・サービスを開発だ。「ハルトモ」と呼ばれる読者モニターにアンケートやインタビューを行い、マーケットを丁寧に調査。顧客に試作品を貸与して人気調査をしたり、顧客が商品を使用している様子を写真とともに誌面に掲載するなど、顧客とともに商品・メディアを作っている。
読者モニター約4000名を独自のシンクタンクとして機能させ、コンテンツ・商品・サービスの開発につなげている
まなびのポイント 2:「体験」「コミュニティー」によってファンを獲得
「体験」や「コミュニティー」を大切にしているハルメクでは、年間250本以上のリアルイベントを開催している。特に、毎年開催している体操イベントは好評を博しており、1回で約800名が参加するという。
リアルイベントはイベント単体だと赤字になることも少なくないが、効果を測定すると参加者がファンになってくれる傾向が見られる。投資対効果が高いため、体験価値(CX)を重視し、リアルイベントに注力している。
木船氏は同社の商品が「全てのシニア女性に刺さらなくても良い」と話す。同社では、独自の価値観象限設定でシニア女性をクラスタリングし、顧客としてターゲットにする層を明確化。全シニア女性のおよそ3割を占める層をターゲットにビジネスを展開している。ターゲットを明確化し、プロモーションの効果を測定することで長期的な視点でロイヤルティーを向上させサービスの開発や改善につなげている。
誌面連動型体操イベントやスマホ講座などを行い、顧客のファン化へとつなげている。また、アンケートで顧客の潜在ニーズを分析。商品・サービス開発に生かしている
まなびのポイント 3:顧客に寄り添うマーケティング
顧客モニターに関するデータは、趣味や家族形態などの基本情報だけでなく、価値観までも細かく把握している。そのため、開発する商品やサービスに合わせて的確なモニターを抽出でき、ターゲット層のリアルな声を聞くことが可能となる。
雑誌に掲載する内容は読者のインサイトを押さえた伝え方や提案をしている。親の介護や孫の世話、身体の衰えなど、不安や焦りを感じている読者に対し、「気負わない」「頑張るのをやめよう」といったように、気負わずほどほどに過ごす提案をするようなキャッチコピーを採用することで、ターゲットの心をつかんでいる。
また、アナログでのコミュニケーションにも余念がない。1カ月の架電時間は1万時間以上。電話オペレーターは顧客担当制である。商品紹介や提案にとどまらず、雑談を交えながら御用聞きに徹し、顧客の話し相手になる。時には手紙を送り合ってコミュニケーションをとることもあるという。手間を惜しまずにオペレーターと顧客との信頼関係を醸成している。