【第4回の趣旨】
食品価値創造研究会では、「食に携わる仲間とともに、100年に一度のパンデミックを経験した今だからこそ、100年先を見据えて食品企業が創造すべき価値について語り合おう」を合言葉に、*EATマーケットネットワークによる新たな食品価値創造を探求している。
第4回の北海道開催のテーマは『北海道から発信するグローカル戦略』である。多様化が進み100年に一度の経済危機が数年単位で起こっている昨今、グローバルに関する意識が変わってきている。地方創生からみたローカルとグローバルを繋ぐ最前線で何が起こっているのか、日本最大の食糧基地である北海道から、その事例を伝えていく。
E:エンジニアリング(技術進化・フードテック)
A:アソシエーション(新結合・オープンイノベーション)
T:トランスフォーメーション(デジタル改革・業態転換)
開催日時:2023年8月30日(北海道開催)
代表取締役会長 井原 慶児 氏
代表取締役社長 勝田 恵介 氏
はじめに
北海道留萌市に本社を構える井原水産株式会社は、「ヤマニ」の屋号で知られる数の子のトップブランドを展開しており、全国的にネームバリューが浸透している。
数の子など水産加工品の製造販売、大ヒット商品「カズチー」の企画販売を行う同社は、創業70周年を迎える老舗水産加工メーカーである。同社の特徴をまとめると3点に凝縮される。
1.研究熱心
→日本一の数の子トップブランドとしてのバリューチェーンを確立している
2.変化に挑む柔軟な社風
→数の子だけに留まらない柔軟な発想の風土化
3.商品開発+チャネル開発
→フラッグシップ商品「カズチー」による新たなマーケティング軸の展開
札幌支社・ほしみ工場。ISO9001の認証を取得し、徹底した品質管理を行っている
まなびのポイント 1:研究熱心/日本一のトップブランド
「ヤマニ」ブランドの数の子は、一大消費地である関西圏でのマーケットを中心に高い認知度を誇るトップブランドである。同社の歴史を紐解くと、1954年、井原長治氏が鮮魚出荷問屋として創業。数の子メーカーとして飛躍した要因は、圧倒的な高品質にある。
原料は直接技術指導をしたカナダやアラスカから買い付け、さらに社内でも細かく品質等級分けされてパッキングされる。また、28に及ぶ水産加工関連の特許技術を保有し、数多くの賞も受賞している。
一方、世間の数の子に対するイメージは「健康に悪くおせちで食べる食品」。近年は、数の子が健康食品であることを浸透させるためにサプリメントへの展開なども実施。健康に役立つ、日常利用できる食品というイメージの浸透に向けて、さらなる研究を重ねている。
「ヤマニ」の屋号で知られる井原水産の数の子は、国内トップブランド
まなびのポイント 2:変化に挑む柔軟な社風
2016年、同社はビジネスの持続可能性に大きな危機感を感じていた。慢性的な数の子(ニシン)の漁獲量の減少、それに伴う数の子の高騰、ライフスタイルの変化に伴うお正月商品として数の子の消費者離れが顕在化していた。また、年末年始4カ月間に主力商品である数の子の売上・利益が集中するビジネスモデルであり、業績の安定化に課題を抱えていた。
そこで、非日常食である数の子を日常のプチ贅沢として進化させる開発を着想し、2018年、数の子の端材をチーズと組み合わせた「カズチー」を開発。ワイン愛好家を中心にヒット商品となり、現在では売上高の3割を占める看板商品へ成長した。
また、数の子の親である鰊にも愛情を注ぎ商品化。現在、数の子だけでなく水産品メーカーとしての柔軟な発想が根付き始めている。
燻製数の子とチーズを組み合わせた「カズチー」、エビパウダーと魚醤を使用することで風味がアップした「エビチー」
まなびのポイント 3:商品開発+チャネル開発
カズチーの開発時には、今までとは一線を画したマーケティングを行った。「季節商品」から「通年商品」への変革の成功には4つの要因がある。
1.お客様アンケート:ワインショップで直接お客様に試食してもらい、ワインとの相性をモニタリング
2.パッケージデザイン:おしゃれなパティスリーに陳列されるようなプチ贅沢を表現。また、後続商品を考慮したカラーなど、未来思考でデザイン
3.ネーミング:覚えてもらいやすくキャッチーな名前
4.チャネル:アッパー層が客層である成城石井、カルディなどの高質店に展開これらとともに、社内での危機感、パートナー連携、コロナ禍での生活変化も相まって大成功に繋がった。
干し貝柱の風味とチーズが絶妙にマッチした「ホテチー」、カズチーがペースト状となりパンに塗れるようになった「ぬるチー」