新幹線清掃チームの「働きがい改革」:合同会社おもてなし創造カンパニー
【第3回の趣旨】
戦略人事研究会では、「事業と連動した戦略人事を実践する」という企業側の視点と、「社員の活躍を最大化させる」という社員側の視点から、現代に不可欠な戦略人事と組織パフォーマンスを追求していく。
第3回は「人財を活かす制度と風土」をテーマに、先進的な取り組みを行う2社に講演いただいた。
開催日時:2023年7月26日(東京開催)
代表 矢部 輝夫 氏
はじめに
新幹線が駅に到着してから、わずか7分間で清掃を完了する「新幹線劇場(7分間の奇跡)」で有名なJR東日本テクノハートTESSEI(以降、テッセイ)。同社を単なる清掃会社から「世界一のおもてなし会社」へと変革・成⾧させた立役者である、元テッセイのおもてなし創造部⾧であり、合同会社おもてなし創造カンパニー代表の矢部輝夫氏に、自身の経験談を基に自社改革のポイントをご講話いただいた。
まなびのポイント 1:「DDSCA」サイクルを軸に全員で対話を重ねる
同社は一般的なPDCAサイクルに加えて、D(Design:デザイン)、D(Discuss:対話)、S(Share:共有)、C(Co-create:共創)、A(Acknowledge:認める)のサイクルを実践している。
課題解決に取り組む際には、まず在るべき姿、在りたい姿をデザインし、お互いの考え方・見方を発信し、議論を重ねることで1つのものを全員でつくり上げる。「ディスカッションを行い、お互いの考えをすり合わせる」過程を重視しており、結論については社員の納得度も高く、その後の推進につながりやすい。そのため同社では、「意見を社員から引き出す」リーダーシップを重視している。
テッセイが取り組む「DDSCA」サイクル
まなびのポイント 2:「仕事の再定義」で従業員満足度を高め、最終的に顧客満足度の向上を目指す
清掃業は3K(きつい・汚い・危険)などの世間からの評判に加え、従事するスタッフ自身が否定的なイメージを持っていた。そのような中、同社がスタッフの自発性、働きがいを高めるためにとった施策の1つが「仕事の再定義」である。
サービス・おもてなしを「『おもいやり』の心を込めて、『仕事』の質を高めること。それを通じて、お客さまとスタッフが共に感謝、観劇、感動を分かち合うこと」と定め、スタッフとの対話を通して、単なる清掃業から、「思い出を売る仕事」「新幹線劇場」と再定義した。
これらを起点に「さわやか・あんしん・あったか」というキーワードを位置付け、ディスカッション通じて具体的な行動基準に落とし込んだ結果として生まれたのが、「新幹線劇場(7分間の奇跡)」である。
テッセイが行った仕事の再定義
まなびのポイント 3:良い雰囲気づくりから始める
教育に時間をかけても、全員のモチベーションを高い状態で維持することは難しい。そこで同社は、人は取り巻く環境に同化する「同調圧力」という人間の性質を利用した。まずはリーダーを1人任命し、フォロワーを増やし、結果として実践する組織文化をの醸成に取り組んだ。
リーダー育成のポイントとして、「育てようとすると育たない」ことを念頭に進めた。その理由は、「弱点補強」という考え方にある。弱点を克服させようとせず、「どう強みを伸ばし、成果を出させるか」に注目し、コーチングとティーチングを用いて育成に取り組んだ。また、育成の対象は「何かしらの才覚があるもの(出る杭)」とした。出る杭のイメージを持たれている社員は短所もあるが、捉え方を変えれば長所でもあり、良くも悪くも影響力を持つからだ。そのため、伸びる人財の見極めも組織文化の醸成において重要な要素である。