【第1回の趣旨】
ヘルスケアビジネス成長戦略研究会では、「『2040地域ケア型経営モデル』の実現」をコンセプトとして掲げている。地域医療の重要性や高齢化が進む日本において、病院(医療法人)の約4分の1は赤字経営と言われている。しかし、このような状況においても安定的な経営や組織を構築している企業がある。第1回では「病院における経営」というテーマで、公益財団法人 豊田地域医療センター、一般財団法人 平成紫川会 小倉記念病院より取り組みの経緯や内容、成果についてご講義をいただいた。
開催日時:2023年2月22日(東京開催)
代表 松本 卓 氏
(前職:一般財団法人平成紫川会小倉記念病院 医療連携課)
はじめに
一般財団法人 平成紫川会 小倉記念病院は、2013年に日本の心臓カテーテル治療のパイオニアとして知られる当時の院長・延吉正清氏退任の影響で、循環器内科の医師が45名から28名まで減少。「心臓医療といえば小倉記念病院」から「小倉記念病院は終わった」と言われるまでの状況から、マーケティングチームの発足、ブランディング活動を経て見事V字回復を果たした。今回は、病医院におけるマーケティングの取り組み内容や経緯について、医療連携課の松本卓氏にご講演いただいた。
小倉記念病院(福岡県北九州市)
まなびのポイント 1:マーケティング戦略におけるストーリーづくりの重要性
病院経営をブランディングやマーケティングの理論に当てはめてみると、製品といえば「医師依存」、流通といえば店舗に当たる「病院施設」、価格は「公定価格」、広告は「『医療広告ガイドライン』に沿ったもの」、と言い換えることができる。病医院のマーケティングは企業に比べて差別化が図りにくく、費用対効果を考えると取り組む価値があるのか疑問視されやすいテーマだ。
小倉記念病院においても、2013年当時のホームページを見ると、階層の異なるさまざまな情報が整理されずに配置されている状況であった。そのような背景、課題がある中、「小倉記念病院のブランドを作り直す」取り組みの一端として新設された企画広報課が着手したのがホームページの見直しであった。
病院や診療所において成長戦略を描く場合、必要な視点は「受診患者を増やすためのシェア・診療圏の拡大」である。また、「勝てる土俵はどこにあるのか」を考え、自院の診療科単位、または疾患単位でフォローすべきターゲットと接点を作ることが重要だ。
同医院は、認知を高める施策を研究。 「新入院患者数」をKPIに設定し、自医院のホームページやオウンドメディア、LINE、行政機関、広報誌、メール、広告(屋外・協賛広告)、イベント(市民・出張講座、セミナー)、メディアへのプレスリリースなどの情報を拡散した。
まなびのポイント 2:「認知」から「人気」へ
病医院におけるマーケティングを成功させるためのポイントは次の3つである。
①医師の露出を増やす(さまざまなツールで医師の顔や雰囲気、人間性を伝える)
②ターゲットに対して小さな積み重ねで好ましい体験を積み上げていく加点式の施策
③人の心を動かして受診や患者紹介につなげる仕組みづくり
また同医院では、デザインやテーマを絞った広報誌を制作してメッセージ性を高め、配布先を見直してターゲットとなる生活者や連携医療機関の医師やスタッフの手に必ず届くように工夫を凝らした。
SNSについても、「口コミ発生装置」としてLINEの活用やYoutubeで医師の顔をプロモーションした。市民公開講座においても、コロナ禍であればYoutube配信に切り替えるなど、視聴者に飽きられないように工夫しながら取り組みを継続した。
まなびのポイント 3:地域を愛し自院の医療を愛す
小倉記念病院がマーケティングを始めた2014年は、過去10年間で最低の医業収益の時期であった。そこから、100周年を迎えた2020年には30%の増収を達成。院内の取り組みが連携施設との環境強化や医師採用につながるなどの善循環が生まれている。また、商店街やスポーツクラブなどスポンサーにとどまらない社会連携を通して、地元メディアへの出演回数が増え地元で周年記念を迎える企業とのコラボ商品を開発するなど「地域の仲間」を増やすことにも成功している。
医療機関のマーケティング担当者に必要な能力について、松本氏は「自院の医療を愛しているかが最も重要です」と講義を締めくくった。
小倉記念病院監修の焼き肉のたれ