ホールディングス経営のメリット・デメリット ヨシムラ・フード・ホールディングス
【第5回の趣旨】
ホールディング経営を選択する企業は引き続き増加しているが、その目的や経緯に応じてホールディングスモデルそのものも多様化する傾向を見せている。本研究会ではこれまで研究してきたケーススタディを基に、ホールディング経営を6つのタイプにモデル化することを試み、それをベースに新たなグループ企業研究を付加することで深掘りしていく。
第5回では、ホールディングス化とそのプロセスを通じて得られる経営上のメリットとデメリットを研究した。講師に株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングス取締役CFOの安東俊氏を迎え、講義いただいた。
開催日時:2023年5月26日(東京開催)
取締役CFO 安東 俊 氏
はじめに:いつまでも、この“おいしい”を楽しめる社会へ~消費者が多様な食文化を享受できる豊かさの実現~
株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングスは、食を中核とする事業領域において、豊かな食文化を担う技術力が高い製造業者を中心に、多くのM&Aを経て、現在27社のグループを形成している。
「課題を抱える中小食品企業をグループ化(M&A)する」「グループ参画した企業を成長させる(中小企業支援プラットフォーム)」ことをエンジンとして、優れた商品・技術・ブランドを持つ企業群で持続的に成長する、唯一無二のビジネスモデルを築いている。
グループ規模拡大の歴史は、会社を譲り受けるための資金調達から上場に至る、調達力と信用力の磨き上げの歴史でもある。HD化とそのプロセスを通じて得られた「経営上のメリットとデメリット」を、同社の取り組みから紐解いていく。
まなびのポイント 1:中小企業支援プラットフォーム
成長エンジンのひとつである「中小企業支援プラットフォーム」は、グループ会社を機能別に統括することで、相互補完・相互成長を図る仕組みである。1社1社の企業ごとに保有し、磨き上げることが難しい経営機能を、各機能別の統括責任者がグループ横断で支援する。
「セールス・マーケティング」「商品開発」「生産管理」「購買・物流」「品質管理」「経営管理」「海外販路」それぞれの機能を各社に提供することで、企業ごとの成長を通じ、グループとしての成長・発展を実現している。
また、外部の提携先との協業にも力を入れている。バリューチェーンごとに最適なパートナーとの連携やM&Aを行い、より専門性・先進性の高い支援機能の充実を図っている。
まなびのポイント 2:試行錯誤の歴史
「グループ一体感の創出」「シナジー効果の創出」「シナジー効果の追求」のフェーズを経て、現在の仕組みを確立してきた。一体感とグループメリット創出を志向した段階では、事業面では全社視点での連携、経営面では管理業務集約での効率化を打ち出した。しかしながら、愛社精神や帰属意識、勤務地転換の難しさ等に直面し、必ずしも思うような成果は得られなかった。
商品提案力や生産管理といった機能面からシナジー創出を志向した段階で「各社の強みを活かし、弱みを補い合う仕組み(中小企業支援プラットフォームの原型)」が誕生。新たなグループ企業が増加し、引続き内部登用を核としつつ外部専門家を採用することで、シナジー効果が高まり、プラットフォームが確立されていった。
まなびのポイント 3:ホールディングス化のメリットとデメリット
メリットとして「M&Aが行いやすくなる」「経営人材の育成ができる」「社員のモチベーションを高められる」ことが挙げられる。グループ各社は横並びで協力し合う関係にあり、参画や連携を阻む心理的な障壁が下がる。企業の増加は経営ポストの増加を意味し、社員が昇格する機会が増え、経営者育成の機会も増加する。
デメリットとして「HDとグループ各社が見かけ上、上下関係の構造になる」「グループ各社が横並びであり意思疎通が難しく、管理コストが増える」ことが挙げられる。
HD経営においては、いかに「社員のモチベーションを高めるか」「HDとグループ各社の対等な関係性を築くか」「グループの一員である誇りを醸成するか」が極めて重要である。
※図表は講演資料より抜粋