ホールディング経営に取り組む企業は増加しており、目的や経緯に応じてホールディングモデルそのものが多様化する傾向にある。本研究会では、ホールディング経営を6つのタイプにモデル化し、それを基に新たなグループ企業研究を付加することで深掘りしていく。
第4回は、M&A、PMIによるグループ展開とその判断基準をテーマに、地域みらいグループの代表取締役社長である脇山章太氏に講演いただいた。
代表取締役社長 脇山 章太 氏
はじめに
総合建築・一般土木・不動産事業などを手掛ける地域みらいグループは、数多くのM&Aを経て40社でグループを形成。
公共投資が抑制された建設業冬の時代において、成長企業を顧客として抱え堅調な業績を維持する同社は、救済型M&Aの案件が持ち込まれたことを契機にグループによるエリア戦略を展開している。
代表取締役社長である脇山章太氏は、「地域には歴史と文化が詰まった特色ある企業が存在しており、事業を通じてその価値を継続させ、技術を伝承していくことが意義」と話す。
グループスローガン「地域のために みらいのために」を軸とし、いかに被買収企業をグループインさせていくのか、M&Aの判断基準やPMI(経営統合プロセス)におけるポイントをひも解いていく。
地域みらいグループのグループメッセージ
まなびのポイント 1:M&Aにおける判断基準
M&Aにおける最重要ポイントは、トップ面談でのフィーリングだ。面談を通じて、「M&A後の未来を描けるか」「対象企業の社員がグループに加入して良かったと思ってもらえるか」が重要である。同社はこれまでの経験を踏まえて、被買収企業の社員の気持ちを汲み取ることや、グループとしての思いを共有することに注力した。
M&Aにおいては、対象企業の事業内容や財務情報も重要ではあるが、買収額で調整が可能である。買収額算定の基礎となるDD(デューデリジェンス)は、財務・法務とも内製化。また同社は、救済型から後継者不在による継承型まで多くのM&Aを手掛ける中でノウハウを蓄積。売上高が数億円~数十億円規模の同業企業を対象とした場合、専門的な内容を精査することができ、費用も抑えることができる。
まなびのポイント 2:グループ事業統治方針の確立
M&A後のPMIは、「ONE PLATFORM、MULTIPLE BRANDS」というグループ事業統治方針に基づき進める。
事業面では、グループ各社が地域で築いた企業ブランドを最大限生かして営業展開を行う。一方、経理・財務、人事、総務部門などのコーポレート機能は、グループ内のソリューションカンパニーに一元化。ルールを統一することで、社員にグループの一員と認識させて一体感を醸成する。地域の顧客に理解してもらうためにも、また、社員の意識を変えていくためにも内容説明には時間をかけるという。
PMI成功の鍵は、「1にも2にもコミュニケーション」「思いを共有すること」である。
地域みらいグループのグループ組織図
まなびのポイント 3:PMIにおける実務
グループ内のコーポレート機能を担うソリューションカンパニーのメンバーから、経理、人事など各機能の専担者を選抜してPMIを主導する。最小限の人員体制で臨むことで窓口担当が明確になり、被買収企業とのコミュニケーションストレスを軽減できる。
賃金制度もグループで統一する。その際、一定期間の人事評価を経て、改めて役割や賃金水準の妥当性を精査するため、3年から5年程度を要する。
企業により収益性の差はあるが、PMIにおける営業手法の移植やコーポレート機能の一元化などを通じてコストダウンを実現し、グループ同一の賃金制度を適用する収益構造を整えることが重要だ。
脇山氏とタナベコンサルティング「ホールディングス・グループ経営モデル研究会」リーダーの中須悟によるセッション