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研究リポート
建設ソリューション成長戦略研究会
人件費・資材の高騰、地方の衰退など、外部環境の変化に合わせて提供価値を進化させている企業を研究し、建設業界の発展に寄与する機会を作っています。
研究リポート 2023.07.21

公民連携によるオガールプロジェクトの推進 オガール

【第5回の趣旨】
建設ソリューション成長戦略研究会では、秀逸なビジネスモデル・経営ノウハウを持つ様々な企業の現場を「体感」する機会を創出し、経営改革・業務革新のヒントを提供する。
第5回は、人口減少・少子高齢化の進展が顕著な東北・岩手県における定住・交流人口の拡大や、20名を超える若手社員の採用と育成・定着といった実績を上げる企業2社(オガール、小田島組)に講演いただいた。

開催日時:2023年6月21日、22日(岩手開催)

オガールの全景写真
オガールの全景写真。JR紫波中央駅前の町有地10.7haを中心とした、「循環型街づくり」のモデル的施設

 

はじめに

 

岩手県のほぼ中央にある紫波町は、人口3万3000人の自然豊かな町。古くから物流拠点としてにぎわい、周辺の農村と共に反映してきた歴史を持つ。その紫波町に、2012年6月、官民複合施設「オガールプラザ」がオープンした。オガールとは、フランス語で「駅」を意味する「Gare(ガール)」と、紫波町の方言で成長を意味する「おがる」を掛け合わせた造語。同施設がJR紫波中央駅の目の前にあることから、「このエリアを出発点として、紫波が持続的に成長していく」という願いを込めて命名された。

 

公共施設としての図書館、地域交流センター、子育て応援センターと、民間施設としての産直マルシェ、クリニック、飲食店などからなる官民複合施設「オガールプラザ」をはじめ、同エリアには紫波町役場、民間複合施設、フットボールセンター、バレーボール専用施設、分譲住宅地等が隣接。同エリアには年間80万人(2021年)の来街者があるという。

 

オガール講演風景


 

まなびのポイント 1:「都市と農村の暮らしを愉しみ、環境や景観に配慮した街づくり」が開発理念

 

コロナ禍前は100万人が来街した同エリアも、オガール開設前は、駅前にもかかわらず使われることのない10.7haの未利用町有地であった。

 

同エリアはもともと、紫波町が1998年に、駅前開発事業用地として28.5億円を投じて購入したものだが、開発事業計画がとん挫。10年以上にわたり未利用状態が続いたが、2009年の紫波町公民連携基本計画の策定を皮切りに、オガールプロジェクトがスタート。現在あるすべての施設が同時期に開業したわけではなく、また、事業主体(法人)も異なる。事業手法(PPP、PFI、随意契約、事業者公募等)も異なっている。

 

施設のデザインは「デザインガイドライン」を順守しつつも、各施設の「運営の持続性」を考慮しながら、最適な手法で開発されているところが、一般的な公共施設とはビジネスモデルが異なる。

 

 

オガールの施設概要や事業開発の経緯を聴講後、参加者全員で各施設を視察
オガールの施設概要や事業開発の経緯を聴講後、参加者全員で各施設を視察

 

 

まなびのポイント 2:街づくりとは、不動産価値の向上

 

駅前の好立地にありがなら使う当てのない広大な未利用地を、多くの人で賑わう街に生まれ変わらせたキーマンの一人が、㈱オガールの岡崎正信社長だ。建設省都市局都市政策課などで地域再生業務に従事した経歴に加え、アメリカ留学で民間主導の街づくりを学んだ経験を持つ岡崎氏は、「街づくりとは、不動産価値の向上だ」と語る。

 

公共施設が開業し長年使用され解体されるまでにかかるコストのうち、建設コストはわずか1割に過ぎない。つまり、「リスクの少ない安定事業として評価される不動産開発」という視点が不可欠であり、10年経っても、20年経っても不動産価値が向上する施設(その施設があるエリア)のあり方を考えることこそが、最も重要だという考えだ。

 

オガール視察風景

 

まなびのポイント 3:まわりに合わせるだけでは、本当の街づくりははじまらない

 

オガールには、日本初のバレーボール専用体育館(民間複合施設「オガールベース」内にあり、宿泊施設や飲食店も併設)がある。地元のバレーボールクラブはもとより、海外のナショナルチームも同施設を利用する。

 

「野球の専用施設は全国に7,000以上もあるが、バレーボールの専用施設はない。唯一の施設をつくれば、海外からだって利用者が訪れる」(岡崎氏)という主張は、当初は周囲の理解を得られなかったが、結果としては極めて高い稼働率を実現している。

 

無益な前例踏襲を排し、時代の要求に対してフレキシブルに対応できる仕様の街をつくる。公共の支援を受けつつも補助金に頼らず、民間主導で、稼ぐ力をもった価値ある街をつくる。2000年代に入り下落を続けた紫波町の地価は、2012年のオガールプラザ開業以来、下がることなく維持している。

図書館や地域交流センター、産直マルシェ、飲食店、クリニックなどからなる複数の複合型施設を視察
図書館や地域交流センター、産直マルシェ、飲食店、クリニックなどからなる複数の複合型施設を視察