TAKUMINOグループ成長の軌跡と、М&A成功のポイント:TAKUMINOホールディングス株式会社
当研究会では、M&Aのモデルを確立している企業から独自のM&Aノウハウと業種の特徴を取り入れた事例を学ぶ場を提供する。M&Aを活用した成長戦略を実現し、自社の企業価値を向上させるための道しるべを提示。第1回のテーマは「M&A戦略構築の手法を学ぶ」。ゲスト2社(学研ホールディングス、TAKUMINOホールディングス)による「M&A戦略」についての講演を配信し、M&Aを積極的に推進する企業の戦略構築について深く考察した。
開催日時:2023年2月22日(東京開催)
代表取締役社長グループCEO 小野 晃良 氏
はじめに
「建設業界の構造改革を目指す」をミッションとして掲げるTAKUMINOグループ。中核企業である小野工業所の歴史は、創業者である小野石蔵が福島県に請負人の登録をした1889年までさかのぼる。2011年の東日本大震災で職人の確保に難航した経験から、自前の供給力を持つ事を念頭にМ&Aを開始。2015年に行った4社を皮切りに、数々の建設関連企業と資本提携を実現。「持続可能な社会基盤をつくる」というグループ理念のもと、人口減少という先進国がかつて経験したことのない社会状況の中で、先人が築いてきた社会資本を安定化し、維持・更新。人々の経済活動や文化活動を支え、日本の発展を支えている。同社の成長の軌跡と経験に基づいた独自のノウハウからМ&A戦略を紐解く。
まなびのポイント 1:М&Aの戦略ストーリー
建設業界は、技術者や技能労働者の高齢化、若年者不足、後継者不足が深刻である。加えて、業界全体の重層構造により取引コストはかさむ。供給サイドが抱えるこのような課題の解決を図るために同社はМ&Aに取り組んでいる。後継者不足に直面する建設関連企業と資本提携を行うことで事業を承継し、資本・経営の担い手として後継者不足問題を解決。重層構造の改善にはМ&Aを活用し、取引コストを削減することで生産性向上に取り組む。基本戦略は、PMIによる経営水準引き上げや、垂直統合による重層構造の排除・取引コストの削減、グループ内での顧客のクロスセルなどである。「M&Aの実施」→「PMIによる利益改善」→「労働環境改善・長期的な供給力確保」→「技術開発」→「さらなる利益改善」とサイクルを回すことで業界課題に切り込む。
TAKUMINOグループは、北海道から熊本に至るまでの地域で拠点を展開している。グループ全体で次の100年に向け共に成長することを目指す。
まなびのポイント 2:「TAKUMINOマトリックス」の設定
М&Aを活用し、新規事業や周辺領域へ事業を拡大してきた同社。事業領域・HR領域・財務内容・シナジー創出におけるポイントを抑え、年間で80社程度のネームクリア(買い手が買収する候補先を検討し始めた段階で、秘密保持契約を締結し、売却側がM&Aに必要な情報を開示する行為)を実施する。外部環境の変化に適応する目的で、ビジネスモデルを短期間で変革させるための“手段”としてМ&Aを実践してきた同社は、市場・顧客と製品・サービス・技術の2軸から「TAKUMINOマトリクス」を設定し、戦略を構築する。垂直統合型М&A、水平統合型М&A、周辺領域獲得型М&A、多角化型М&Aなど、各々の期待効果を見極め、どの領域を獲得するのかを的確に捉える。
TAKUMINO床版工法が国土交通省NETIS(新技術情報提供システム)に新規登録された。グループシナジーの成果である。
まなびのポイント 3:PMIプロセスと人材確保
TAKUMINOグループの強みは会社の経営基盤を「標準化」し、ノウハウを蓄積していることだ。デューデリジェンス時から「TAKUMINO標準」という在るべき姿を明確に示し、対象会社とTAKUMINO標準とのギャップを把握。課題をあぶり出し、重点的に解決を目指す。
ゴールが明確であるから、М&A対象会社の課題を早期に解決でき、PMI(買収に伴う事業・組織・機能の統合)の速度と精度を向上させることができる。PMIでは、ホールディングスメンバーを集中投入し、対応策の実行支援をする。また、深刻な人手不足の建設業界にある中で、同社は採用・育成に力を入れており、キャリア採用や外国人採用の豊富なチャネルの確保や500講座超のデジタル社内大学校「TAKUMINOアカデミー」の運営、将来の賃金不安を解消するために、グループ統一での401Kの導入など、積極的に人の投資も推進している。
日本への留学生を含め、積極的に外国人材を採用。切れ目なく成長をけん引する技術者・技能労働者を確保している