【第3回の趣旨】
2030年に向けた戦略構築においては「サステナブル」というキーワードが非常に重要になる。当研究会は、「社会と企業のサステナビリティを実現し未来を創造する」というテーマのもと、ビジネスとしてSDGsに取り組んでいる先進的な企業を紹介する。
第3回では、株式会社田中よりSDGsへ取り組む際の社内SDGsムーブメントのポイントを、株式会社二川工業製作所よりSDGsへの取り組みを通じた企業価値向上のポイントを学んだ。
開催日時:2023年1月30日、31日(大阪開催)
田中 製造部 兼 事業開発部 部長 新名 徹也 氏(右)
はじめに
1922年創業の田中は、産業用不織布の製造を主業とする老舗企業だ。産業用不織布の中でも、河川堤防の氾濫抑制や堤防被害箇所の緊急対策・復旧などで使用される土木用不織布(ジオテキスタイル)製造で国内トップシェアを誇り、日本全国のインフラ整備に広く貢献している。
同社は2020年にJICA(独立行政法人国際協力機構)の「JICA-SDGsパートナー」に認定され、中小企業・SDGsビジネス支援事業の一環としてカンボジアでのJICA事業に参加。長年培ってきた製品と技術を開発途上国へ伝えることで、自社事業とSDGsに深い結び付きがあることを発見した。
本研究会では、管理部専任部長の近藤大介氏と製造部兼事業開発部部長の新名徹也氏による講演と工場視察を通じ、SDGsを社内浸透させるポイントを3つに絞って紹介いただいた。
まなびのポイント 1:経営者の呼びかけとコミットメントが不可欠
同社がSDGs推進を加速させたきっかけは、代表取締役である住吉望氏の呼びかけだ。河川砂防や埋め立てなどの工事で使う同社のジオテキスタイルは再生繊維やヤシ繊維を原料としており、繊維のリサイクルや有効活用に役立ち、SDGsの達成にも貢献している。それに気づいた住吉氏は、この事実が自社のブランディングや新たな事業機会・事業戦略の創出につながると考えた。
SDGs活動の推進には社内の理解と協力が必要不可欠なため、住吉氏は経営幹部と全国の営業所所長へ直接、自身の思いを発信。社内での啓蒙活動の必要性を訴えた。この発信がSDGsの社内浸透と社外発信を行うためのタスクフォース組成につながり、社員のSDGsへの理解を深めたり、自社の将来を自ら考えたりするきっかけになった。
ジオテキスタイルの原料になる繊維
河川堤防に敷かれたジオテキスタイル。河川の水の増減によって土壌が削られるのを防ぎ、堤防を保全する
まなびのポイント 2:タスクフォース運営の工夫
SDGsの社内浸透と活動の社外発信を行うために組成されたタスクフォースは、立ち上げ段階から運営方法まで、さまざまな工夫が施されている。まず、タスクフォース組成の際は、組織横断で年齢も性別も多様なメンバーを集め、偏りのない構成を実現した。これは、社員を中心に自由闊達な議論を実現するための工夫である。
次に、タスクフォース運営の工夫として、開催頻度は月に1回、期間は約半年間、各ミーティング時間の上限は2時間と設定し、今の業務に支障なく、負担感の少ない運営を実現した。これは、社員の「やらされ感」と取り組みに対する「飽き」を抑える工夫である。
さらに、タスクフォースの全メンバーに「SDGsアンバサダー」という役割を与え、SDGsの推進役・伝播者であるという意識付けを行った。この役割を付与することでメンバーの参加意識を高め、同時にこのタスクフォースでの活動が自社の10年後の存続につながるという責任意識も醸成している。
まなびのポイント 3:「SDGs×事業」で進める経営の仕組みづくり
同社のタスクフォースは半年間の活動後に解散し、新たに社内横断で組成された「SDGs推進局」に引き継がれた。この推進局の主な活動は3つある。
1つ目は、SDGs文化を社内浸透させるための企画立案から運営の実行推進。2つ目は、社内外に対する自社のSDGs関連事業・活動の発信。3つ目は、SDGsに寄与する事業活動の企画立案・関連部署への提案と協力依頼の実施だ。
SDGs推進局が中心となって、SDGsを自社の事業に落とし込む経営の仕組みづくりを行い、各部門の連携強化を図ることでさらなる成長を目指している。こうした継続的なSDGs活動へのコミットメントにより、同社ホームページ掲載のSDGs活動を接点とした商談の実現や、SDGs活動に興味・関心を示した新規取引先との接点増加など、さまざまな成果が表れ始めた。今後も継続して活動を推進していくことで、自社の持続的成長を導いていきたいと考えている。
JICAのカンボジア事業で、田中のエンジニアが技術指導を行った土木工事