【第2回の趣旨】
アグリサポート研究会第7期は、「アグリ業界の持続的成長と課題解決へ向けた生きた事例を学ぶ」がコンセプトとなる。当研究会ではアグリ関連分野の成長企業を経営の視点から研究し、成功のポイントを学ぶ。
アグリ関連分野では旧来型のビジネスを展開している企業が多数存在する。一方、先端技術の活用や、新しいビジネスモデルの構築により成長している企業もある。
第2回は、6次産業化の展開で持続的成長やアグリ業界の課題解決に取り組んでいるグループ企業(カミチクホールディングス)、地域コミュニティとの連携など地元の強みを生かしている企業(ファームランド櫻島)の2社をお招きし、独自のビジネスモデル、成長のポイントについてご講演いただいた。
開催日時:2022年12月8日、9日(鹿児島開催)
代表取締役
室屋 智美 氏
はじめに
ファームランド櫻島は、自然の摂理に沿って火山灰土壌の特性と錦江湾から採れる海藻を肥料化する手法で、鹿児島県の伝統作物である桜島大根・桜島子みかんを主幹作物として、季節の野菜や果実を育てている。
桜島の大噴火以後、一時農業が衰退していったが、昭和40年代再需要が到来した。しかし、現在は核家族化し、大きな大根は不要となり、桜島大根の需要もなく食卓にも上がらない幻の名産品となった。そのような状況をいかに打開し、需要を生み出し、地域活性化に貢献したかを示す好事例である。
左が父・村山利清氏で栽培の責任者。真ん中が室屋智美社長(本人)。ファームランド櫻島は21年間、毎年欠かすことなく、鹿児島市内の複数の幼稚園の園児たちに桜島大根の種まきと収穫体験の場を提供している(右)。種まきから収穫までの間の、間引き、施肥、虫取り(手作業)などは、ファームで行っている
まなびのポイント 1:伝統作物の桜島大根、自然循環型栽培へのこだわり ~幻の名産品の復活!!~
2003年、無農薬・無化学肥料で桜島大根を育てていくことに大激論を交わした村山利清氏(父)と室屋智美社長(本人)。その結果、室屋社長の「将来の子供たちのために安心・安全な食べ物を」との願いに村山氏は賛同した。
そして2004年より、有機栽培で生産開始。桜島の火山灰と海藻のミネラルが土壌微生物を豊かにして、作物をおいしく育てる。吸収されなかったミネラル分は海へ戻り、そのミネラルが海藻や魚たちを育て、その海藻が再び畑に戻ってくる循環型農業である。
2018年にアメリカの学会で発表された成分「トリゴネリン」。桜島大根には、普通の大根(青首大根)の60倍ものトリゴネリンが含まれる。またこの成分は加熱・冷凍・乾燥などによる損失が少ないのが特徴という。さらに、1日170g程度(おでんの大きさの大根2個分)の桜島大根を10日間食べることで、実際にトリゴネリンが吸収されて血管内皮機能を有意に改善することが、人を対象とした臨床試験で実証されているそうだ。
桜島大根(左)と、桜島子みかん(右)。
桜島大根は、2003年にギネス認定された世界一重たい大根である(記録は31.1kg)
まなびのポイント 2:人を集める仕掛け ~地域活性化に向けて~
ファームランド櫻島では、農業体験を通じた魅力発信に力を注いでいる。鹿児島大学農学部学生を受け入れた際、当初1~2カ月に1回の実施頻度だったが、徐々に他学部、他大学へと学生の輪が広がり、学生コミュニティ「アスノタネ。」が発足。当初30名だった学生は60名のコミュニティへと拡大し、イベントなどの手伝いも積極的に行っている。
例えば、2019年2月実施のイベント「100人でいただきます!!in桜島大根畑」では、大学生が動画を撮影し、SNSで拡散したこともあり、当初100名予定だった来場者数は150名程度へ膨れ上がり盛況となった。
体験イベントはメディアでも多数紹介され、県外から訪れるお客様も増えている。なお学生の活動は、島内全体に波及。桜島しまおこし隊との海岸清掃や植樹交流会にも参加し、地域を活性化する基盤になっている。
また2013年には、「農家のお昼ごはん」をコンセプトに畑で採れた野菜中心の料理とコーヒーを提供する農家カフェ『caféしらはま』をオープン。桜島大根の食べ方、料理の仕方の教室などを開き、お客様に提案している。
幼稚園児の農業体験・収穫体験(上)
農家カフェ『caféしらはま』(下)
まなびのポイント 3:出会い、笑顔、夢 ~志す仲間が増える~
2021年、「桜島大根ポタージュ」に大学生が感動したことを機に、ファームランド櫻島と「アスノタネ。」の共同開発商品として冷凍商品(冷凍ポタージュ)を製造・販売したところ完売。2022年は第二弾として無添加・無化学調味料・砂糖なしで製造したところ、こちらも見事に完売した。
同社は現在、桜島大根パウダーの製造、自然農法玄米を使用した玄米黒酢仕込みを開始しており、2023年秋には発売予定である。
また、2017年に農家女性4名で女性グループ「ポタジェファム」を発足。料理人対象の農場ツアー、シェフとの意見交換会、農家の食材勉強会開催、各地でのマルシェ出店など多数の活動を経て、今や34名の大所帯へ成長している。
同社の目指す夢は「桜島オーガニックアイランド」&畑の中のシェアハウス、毎月のワークショップ、作物と人の循環。農業体験や料理教室などのワークショップは、他の企業や団体と連携しながら、第二、第三の故郷を皆で創っていく活動につながっており、地域振興に大いに寄与していると言える。
2017年に農家女性4名で立ち上げたポタジェファムは現在、34名の大所帯。
今ではマルシェ、商品開発、発信、コミュニケーションの4部門に分かれて活動している