2030年に向けた戦略構築においては「サステナブル」というキーワードが非常に重要になる。当研究会は、「社会と企業のサステナビリティを実現し未来を創造する」というテーマのもと、ビジネスとしてSDGsに取り組んでいる先進的な企業を紹介する。第2回では、株式会社大川印刷に訪問・視察し、株式会社ゼロボードより脱炭素経営に関する講義を受け、SDGsへの取り組み方を学んだ。
開催日時:2022年12月6日、7日(東京開催)
代表取締役社長 大川 哲郎 氏
はじめに
1881年創業の老舗印刷会社である大川印刷は、中小企業のSDGsのロールモデルとして広く知られている。2004年に自社の存在意義(パーパス)を「ソーシャルプリンティングカンパニー®」(社会的印刷会社)と位置付け、本業である印刷業にSDGsを取り入れた「環境印刷」を行っている。また、SDGs達成に向けたさまざまな取り組みが評価され、「第2回ジャパンSDGsアワード」の「SDGsパートナーシップ賞(特別賞)」、「第1回横浜市SDGs認証制度“Y-SDGs”」の最上位認定「Supreme」など、数々の受賞・認定歴を持っている。大川印刷の代表取締役社長・大川哲郎氏の講演「中小企業が活躍する新しい時代のSDGs」と視察から、研究会参加者が学んだポイントを3つ厳選し、紹介する。
まなびのポイント 1:存在意義(パーパス)を明確にし、組織風土を改革
大川印刷は、1990年代、バブルの崩壊の影響で売り上げが減少する中、競合他社との激しい価格競争に巻き込まれ、人材採用も難しくなるなど、まったく余裕のない経営状況下でCSR経営へと展開を図り、やがてその取り組みがSDGsへと自然につながっていった。
その理由は、持続的な成長のためには「自社はなぜ存在しているのか」(存在意義)を明確化し、地域や社会に必要とされる企業を目指す必要があると大川氏が強く感じたからである。当時の企業はボランティア活動などで社会貢献を行うことが多かった中、大川氏は本業を通して地域や社会に貢献すべきと考え、印刷業で社会課題を解決する「ソーシャルプリンティングカンパニー®」になるというパーパスを掲げた。自社の存在意義を明確化することで、働くことで得られる幸せ、「人の役に立つこと」「人に褒められること」「人に必要とされること」を追求する組織風土を醸成したのである。
CO2ゼロ印刷・FSC®森林認証紙・再エネ電力・ノンVOCインキ・エコ配送など、環境に配慮した印刷を行っている
まなびのポイント 2:「SDGs経営計画策定ワークショップ」の開催
経営にSDGsを実装するには、トップダウンではなくボトムアップ型での経営計画策定が必要になる。そのため、大川印刷では年1回「SDGs経営計画策定ワークショップ」を開催し、社員一人一人に4つの質問(①うまくいっていることは何か?、②うまくいっていないことは何か?、③やってみたいことは何か?、④その障害になっていることは何か?)を実施。その回答をSDGsの17ゴールと結び付け、経営に実装している。この取り組みにより、「SDGs推進は会社がやること」「経営計画の策定は経営陣がすること」など、SDGsや経営計画を他人事と思っていた社員が“自分事”と認識することで、計画に対する社員と経営陣の温度差や理解の差をなくし、熱量高く実行されるSDGs経営計画の策定を実現している。
SDGs経営計画策定ワークショップの風景
まなびのポイント 3:「浸透」ではなく「共感・共有」の仕組みをつくる
SDGsの実現には、社員の理解が必要である。そこで大川印刷では、「仕事と遊びの境界線をなくす働き方」を推進している。例えば、社員一人一人が自身で選んだクレド(信条・行動指針)と好きな色を組み合わせた名刺を刷り、名刺交換をするたびに自らが大切にしているクレドを説明する仕組みをつくっている。また、サルベージパーティー(余った食材で作った料理を持ち寄ってシェアするパーティー)を開催し、社員の交流と食品ロスの削減を促し、SDGsについて考える仕組みづくりも行っている。同社は他にも多様な社内イベントを開催。社員同士が自由に意見を交換し、互いの考えを共有・共感できる場をつくることで、SDGsについて体感し、考えることができるようにしている。
自分のクレド(信条・行動指針)と好きな色を組み合わせた名刺