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研究リポート
デザイン経営モデル研究会
経営に『デザインの力』を活用して、魅力ある自社らしいブランドづくりを実践している素敵なデザイン経営モデル実践企業の取り組みの本質を視察先講演と体験で学びます。
研究リポート 2022.12.26

理念のデザイン化:ふじようちえん(学校法人みんなのひろば)

【第1回の趣旨】
「デザイン経営」とは、デザインを「企業やビジネスモデルそのものを変革する経営資源」と捉え、顧客の体験価値を高め、自社らしさを醸成する経営手法である。当研究会では、デザインの力を経営に活用する「高収益デザイン経営モデル」実践企業を視察し、経営の現場でデザインがどう活用され、他社との差別化、社員の活躍と成長、地域社会との共創を実現しているかを体験。その本質に迫っていく。第1回は、日本デザイン振興会と産業技術総合研究所の講義でデザインとは何かを学び、デザイン経営の実践企業である丸和運輸機関を視察した。
開催日時:2022年10月24日、25日(東京開催)

 

みんなのひろば 理事長、ふじようちえん 園長
加藤 積一 氏

 

はじめに

「世界で最も楽しい幼稚園」とも言われる、ふじようちえん(東京都立川市)。1971年設立の同園は、子どもが本来持っている“自ら育つ力”を引き出す科学的な教育法「モンテッソーリ教育」を基本にした教育のほか、園長の加藤積一氏の思いを形にした建築やデザインで国内外から注目を集めている。ディレクションしたのはクリエイティブディレクターの佐藤可士和氏、緑に恵まれた広い園庭を中心としたドーナツ型・平屋建ての園舎デザインを手掛けたのは建築家の手塚貴晴氏・由比氏だ。

 

研究会参加者は、加藤氏の講話とふじようちえんの視察から、理念を実現するためのデザインの使い方や、「意志・価値・空気感」をデザインに落とし込むポイントを体験した。


ふじようちえんのドーナツ型の園舎


 

まなびのポイント1:意志・価値・空気感をデザインに落とし込むポイント

 

加藤氏は、ふじようちえん(学校法人みんなのひろば)の理念「幸せな未来をつくる」をもとに、新世紀(2000年)を迎えたタイミングで、「21世紀は教育と農業だ」と宣言。より“田舎臭い経営姿勢”で“素で生きる強さ”を育み、自然やみどり、イキイキと働く先生たちを大切にすることで、保護者に「わが子の育ちの時間を託したい」と思われるような園を目指す方針を掲げた。この意志や価値、空気感を多くの人に伝えるため、加藤氏は、①デザインに意志が入っているか、②デザインにオーナーシップを感じられるか、③その意志が、言葉やロゴ、活動になっているか、という3要素を大切にし、2007年に園舎も建て替えた。

 

まなびのポイント2:「子どもの育ち」への思いをデザインで具現化

 

園舎には、「見て、触れて、感じて、考えて、行動する」というサイクルを幼児期に体験するための工夫が随所にある。例えば、園庭の水場には流し台を取り付けていない。水を流しっぱなしにすると下の砂利に水がはねて自分の足が濡れるので、園児は蛇口を閉めるようになる。これは節水にも役立つ。子どもたちに少しの不便を体験させることによって、気づく力、工夫する力を目覚めさせ、考える力を発揮し、自ら育つ力をさらに高めていく仕掛けである。「不便が工夫を生み、工夫することで子どもは育つ」という、子どもの学びに対する加藤氏の思いが、「アートディレクション(状況のデザイン)」と「建物づくり(建築のデザイン)」の組み合わせで具現化されているのだ。


出所:加藤氏の講話資料

まなびのポイント3:持続的成長の源は「未来からの提案力」

 

「事業体が生きていく源」、つまり組織の持続的成長の源は「未来からの提案力」だと加藤氏は述べる。情報量も情報スピードも圧倒的な現代のデジタル社会において、誘導されることを選ぶのは簡単だ。だからこそ、Web以上に「事業への思い」を言葉で多くの人の心に届ける必要がある。言葉を心に届けるには、どのような未来を理想として描いているのか、そのためにいま何をしているのか、という納得感のある伝わり方でなくてはならない。ふじようちえん(みんなのひろば)は、「幼児教育こそ、国をつくる力がある」という信念のもと、地域の公共財として認められ、存続することによって理念を実現するため、デザインの力を経営に取り入れ、「未来からの提案」を実践し続けている。


子どもが折り紙で作った「Fuji」をそのままロゴにした