建設業の「2024年問題」、デジタル社会化、地方の過疎化、SDGs、カーボンニュートラル、人件費やエネルギー・原材料価格の高騰によるコスト増など、建設業界は環境変化の大きな節目を迎えている。こうしたピンチをチャンスに変えるべく、建設ソリューション成長戦略研究会は、秀逸なビジネスモデルを持つ企業の現場を「体感」する機会を提供。高収益を実現しているビジネスモデルや、魅力ある企業づくりを実践している企業を研究している。第1回では、広島建設株式会社とライト工業株式会社の2社を訪問・視察し、建設業の現在の課題解決と未来の戦略について学んだ。
開催日時:2022年10月20日、21日(東京開催)
専務取締役 経営企画本部長 西 誠 氏
はじめに
1943年創業のライト工業は、東京都千代田区に本社を置き、地盤改良工事や斜面崩壊対策工事で全国シェアナンバーワンの「特殊土木工事のパイオニア」。災害大国・日本において、国土の防災やインフラ整備を通じて社会に安全・安心を提供している専門技術者集団である。
同社はトンネル防水工事業からスタートし、難工事への挑戦を繰り返すことで業容を拡大。1956年にエリア展開を開始し、現在45都道府県に営業所を構えるなど、特殊土木のリーディングカンパニーへと成長した。売り上げの4割を占める斜面・のり面の対策工事事業や、もう一つの主力である地盤改良工事事業などに加え、2008年には建築事業に参入して経営を多角化。変わらぬ理念と使命を貫きながら、独自の技術で防災・減災工事や災害からの復興・復旧工事を手掛け、成長を続けている。
斜面・のり面対策工事
まなびのポイント1:絞って勝つ!特化型戦略によりファーストコールカンパニーへ
国土交通省によると、日本における土砂災害危険箇所は約52万5000カ所。全国の約9割の市町村が土砂災害の危険と隣り合わせである。同社は研究開発で生まれた独自の特許・工法により競争優位性を確保し、こうした災害危険箇所の工事に対応している。保有する有効特許件数は191件、工法数は160以上となっている。
また、特許件数・工法数の豊富さに加えて、YK値(特許の質を表す指標)は381.86と、大手ゼネコンに並ぶ優良数値を維持。独自技術の研究・開発を持続的に加速させるため、2018年に「R&Dセンター」を開設するなど、次世代のコア技術および効率的な研究開発をたゆみなく推進している。
2018年に茨城県つくば市に設立された研究・開発機関「R&Dセンター」
まなびのポイント2:難工事への挑戦と新しい価値の創造
同社の経営理念は「新たな価値に挑戦し、創造し続ける」。国土基盤整備への貢献を通じて創業以来の社会的使命を果たし続けるため、常に挑戦・変化して、国土の安全と安心を実現することを掲げている。同社は実際、「将来の企業価値は今の挑戦からしか生まれない」という考えのもと数多くの難工事に挑み、変化し続けてきた。
例えば、1974年8月に着工した「上越新幹線の中山トンネル工事」においては、フランスから導入した新工法で、“歴史的難工事”と言われたこの工事を成功させた。また、2011年に、福島第一原発の汚染水流出を止めるための協力要請を受けた際は、現場で調査と工事を実施して成功させた。こうした難工事への挑戦と成功の要因は、社員一人一人に経営理念が浸透していたことと、理念を実践できる経営体制が整備されていたことだと言えよう。
上越新幹線 中山トンネル工事
まなびのポイント3:不易流行~変わらないために変わり続ける~
最後に、技術開発や組織変革、事業の多角化を進めてきた同社の成功の転機をピックアップする。技術開発面では、鉄道関連需要の高まりに対応し、1960年に国内で初めて開発した無振動・無騒音の杭打ちの技術「RGパイル工法」や、フランス・パリの高速地下鉄工事を視察して取り入れた先進的な地盤改良(薬液注入)技術「ソレタンシュ工法」がある。
事業・組織面では、1997年に米国子会社「Raito,Inc.」を設立。また、2005年には宮城県気仙沼市の№1ゼネコン・小野良組を子会社化するなど、国内外において関連事業を拡大した。多角化の面では、米サブプライムローン問題(2007年)を契機にデベロッパーなどの連鎖倒産が発生した際、強い財務体質を武器に建築事業へ参入。近年は老朽化が危ぶまれるインフラの補修事業に注力するなど、各方面で新たな価値創造を続けている。
RGパイル試作機
RGパイルによる山留壁