アグリ関連分野では旧来型のビジネスを展開している企業が多数存在する。一方、先端技術の活用や、新しいビジネスモデルの構築により成長している企業もある。こうした企業はIoTやAI、商品・サービス価値を高めるイノベーションの導入に積極的だ。また、第6次化産業の展開や異業種・自治体との連携により、持続的成長やアグリ業界の課題解決に取り組むことも多い。
アグリサポート研究会第7期は、「アグリ業界の持続的成長と課題解決へ向けた生きた事例を学ぶ」がコンセプトとなる。当研究会ではアグリ関連分野の成長企業を経営の視点から研究し、成功のポイントを学ぶ。第1回は、特別ゲスト2社を招き、独自のビジネスモデル、成長のポイントについて講演いただいた。
開催日時:2022年9月27日、28日(京都開催)
代表取締役
小野 邦彦 氏
はじめに
環境負荷の小さい農業を広げていくために、これまでの農産物の流通とは異なる生産流通のバリューチェーンを作り上げ、持続的な成長を続けている坂ノ途中。
2009年の創業後、WEB SHOPによる高品質野菜の定期宅配ビジネスで着実にファンを拡大している。
驚くことに約350軒の提携農家のうち、9割はゼロからスタートした新規就農者だ。同社は新規就農者と連携して事業を継続している、日本初&唯一の事例である。
国内での事業展開の他、ウガンダでの有機農業普及、東南アジアのコーヒーの品質向上プロジェクト実施など、小野社長の挑戦は今も続いている。
オーガニックでありながらバリエーション豊富な点が大きな強み(上)
「本と野菜 OyOy」は、さまざまな野菜と選りすぐりの本を楽しめる飲食店。「ブレを楽しむ」をテーマに、顧客エンゲージメント強化の機会として活用(下)
まなびのポイント 1:明確な事業ストーリー(見取り図)を描く
「環境負荷の小さい農業を広げる」という事業コンセプトの実現のため、坂ノ途中は独自のビジネスモデルの構築に取り組んでいる。
特徴的なのは、提携生産者のほとんどが新規就農者であることだ。新規就農者は科学的理解に基づく栽培を志す人が多く、収穫する農産物は高品質であることが多い。少量・不安定のため事業経営面の課題は多いが、「弱点をカバーする仕組みをつくれば、高品質な農産物を(半ば独占的に)扱うことも可能」という。また、オーガニック野菜でありながらバリエーションが豊富な点が強みになり、百貨店や高付加価値型スーパーなどへの導入が進んでいる。
こうした事業コンセプト実現のための明確なストーリー(見取り図)の作成と実行が、同社の事業成功のポイントと言える。
まなびのポイント 2:転換でなく、新規と共に。共感を得て、流通に変革を!
坂ノ途中では、多品種少量の農産物を「野菜ボックス」としてサブスクリプションサービスで顧客に届けている。
同社が目指すのは、「新規就農者と共に、社会的意義を実現する野菜サブスク」である。耕作放棄地が増大する中、「ローインプット型農業」といわれる、農薬や化学肥料や化石燃料など、外部から投入する資材に依存しないような農業を推進。また、年間450種類を超える多様な野菜をバランスよくセットにして届けるなど、常に飽きさせない工夫を実施している。そうした工夫や品質の高さが共感を生み、離脱率は5~6%と業界一の水準を誇る。
さらに「少量・不安定」という課題を解決するため、社内システムにより自動で工数を削減(欠品リスク抑制)。また「野菜は生き物」であることをホームページのコラムや、野菜について学べるかるたで顧客へ発信。ブレを共有・許容する世界観を作り出し、高いエンゲージメントを実現しているため、クレームは少ないという。
「野菜ボックス」のサブスクリプションサービス。年間450種類を超える多様な野菜をバランスよくセットにして届ける。品質の高さと共感獲得により、低い離脱率を実現している
まなびのポイント 3:明確なストーリーを基に『走る』
同社では情報共有、コミュニケーション量の増大により、生産者との関係構築を進めている。顧客との関係構築については「野菜のブレを楽しもう」といったメッセージを発信。発信の際は、1to1な情報発信/CS、共感を呼ぶメディアづくりとデザインを意識しているという。こうした生産者や顧客との関係構築(バリューチェーン再構築)、さらにさまざまな社内システム(トレーサビリティ確保によるフィードバック体制など)が事業成長のポイントとなり、さらには事業のリスクヘッジにもつながっている。
さらに、「大切にしたいことや突破したいポイントを明確化する」ことで、事業拡大の推進力を高めてきた同社。こうした明確なストーリーをもとに走ることで、事業の成長を可能にしている。
野菜について遊びながら学べる「やさいのきもちかるた」。「やさいはいきもの」を軸にメッセージを打ち出すことで、高いエンゲージメントを獲得