“リアル”と“デジタル”が融合し、その境目がなくなる中、商品やサービス、人材・採用、さらには会社そのものの価値の再定義すら必要な時代が到来している。
物理的価値や金銭的価値だけではステークホルダーから選ばれにくくなるにつれ、本質的欲求をもとにした「体験価値」のデザインが、ブランディングの一環として欠かせなくなっているのだ。
ナンバーワンブランド研究会では、ポストコロナ社会の価値観を踏まえた上で、自社の価値を再定義していく。
第1回では、コロナ後の新しい時代に合わせた最新のブランディングを研究。また、特別ゲスト2社を招き、インナーブランディングに関する取り組みと未来の戦略について講演いただいた。
開催日時:2022年9月27日、28日(静岡開催)
代表取締役
青野 豪淑 氏
はじめに
社会に馴染めず、就職できない若者を雇うため、青野氏は2006年9月にフリースタイルを設立。“人”の可能性を追求し続け、IT技術者の輩出で事業拡大を実現している。
「自分が受けた善意や思いやりを、相手ではなく別の3人に渡し、幸せの連鎖をつないで世界を変える」ことを意味する「ペイ・フォワード」を企業理念に掲げ、自分を変えたいと思う若者にITスキルを学ぶ機会を提供。多数の取引先で常駐業務を行い、“未来”を生み出すITソリューション事業を展開しながら、地域社会への貢献と新しい挑戦を続け、日々新たな価値を創出している。
「わが社だからできること」を追求し続ける姿勢が、人材ブランディングにつながっている(講演資料抜粋)
まなびのポイント 1:“非”優秀人材獲得でIT人材創出へ
デジタル化は今や、未来を考える上で欠かせない。それを支えるのが情報処理・通信技術者(ITエンジニア)である。しかし、優秀なITエンジニアは引く手あまたであり、企業にとって採用が難しいのが現状だ。
そうした中、フリースタイルは世間から「ヤンキー」や「引きこもり」と呼ばれる若者を雇用し、未経験からプログラマーやエンジニアへ育成する企業として注目を集めている。
こうした独自の特徴を持つことで、大手企業に対抗しうる採用戦術を獲得。社員は他企業から引き抜きの誘いがあっても応じず、あえてフリースタイルで働くことを選択するなど、独自の採用と熱意をもった人材育成は、社員定着率やエンゲージメントの高さにつながっている。
まなびのポイント 2:超・適材適所とマニュアル化
設立当初、フリースタイルには20名の就職できない人材がいた。そのうち10名ほどはヤンキー、残り10名ほどはオタクであった。どこに誰を配置するか、ポイントは“その人の最高の部分しか使わないこと”。彼らに好きなことを聞き、「飲み会がしたい」と言えば「コミュニケーション能力あり」と判断し、10名の営業マンを採用。「PCゲームが好き」と言えば、10名のプログラマーを雇い、そこから本格的にIT企業を立ち上げていった。
その結果、140名を超える技術部と、30名を超える営業部を主体とする間接部門を発足。また、人気のある人事管理や経理などの他社ソフトをマニュアルとして活用。「我を一切出さず、プロの指導に従い切る」を基本原則にし、人材育成に生かしている。
まなびのポイント 3:「愛情」を持った人材育成でエンゲージメント向上へ
100人の組織で、全員の士気や能力が10%上がると、110人分の仕事ができる。しかし、社長1人が寝ずに働いて倍の仕事をしても、1人分の仕事量しか増えない。そのため、同社は社長業を「教育」に特化。特に、社員に対して常に愛情を持って接し、否定しないことを意識している。この「認めてもらった」感覚が重要であり、長所を探してそれを認めることで、初めて話を聞いてもらえる関係ができる。
実際、フリースタイルでは「なぜ仕事をしているのか?」という問いに対し、「自分の長所を社長が認めてくれたから」と答えるメンバーが7割以上に上る。「頑張ってくれる優秀なスタッフを認めるのは当たり前であり、“頑張る前”のメンバーを認めてあげることが大事」(青野氏)。社長自ら社員の本音と本心を理解して接することで、モチベーションやエンゲージメント向上につなげている。
変わらない根幹の考えと求める続ける変化を大事にしながら、着実に実績を伸ばす(出所:フリースタイルのコーポレートサイト)
講演風景と聴講する参加者の方々。どのようにして“人”の可能性を広げてきたか、これまでの発想を覆す青野氏の講演内容から、多数の学びを得る機会となった