2030年に向けた戦略構築においては「サステナブル」というキーワードが非常に重要になる。当研究会は、「社会と企業のサステナビリティを実現し未来を創造する」というテーマのもと、ビジネスとしてSDGsに取り組んでいる先進的な企業を紹介する。第4回では、若築建設より、建設会社におけるサステナビリティ経営に必須の3項目について講演いただき、経済価値と社会価値を両立させるための取り組みから学びを得た。
開催日時:2023年03月17日(東京開催)
執行役員 経営企画部 部長 長廻 幹彦 氏
はじめに
1890年に創業した若築建設は、日本の近代化に伴って高まっていた石炭需要に資する港湾開発で大きな貢献を果たした、132年の歴史を持つ海洋土木のパイオニアである。現在は「人にも自然にも快適な環境づくり」を目指し、創業当初からの強みである海洋土木事業に加え、北陸新幹線などの大規模事業を手掛ける陸上土木事業、住宅・商業施設・医療施設などを手掛ける建築事業、不動産事業など多岐にわたる事業領域で、国内外において活躍。連結売上高890億円超の総合建設会社へと成長した。
同社は、環境・社会・経済問題への配慮や課題解決を通して事業の持続可能性を図る経営(サステナビリティ経営)に取り組んでおり、建設業のサステナビリティ経営には3つの必須項目(①担い手の確保、②生産性の向上、③脱炭素化)があるという。
まなびのポイント 1:担い手の確保
建設業が直面している大きな社会課題の1つ目は、労働力人口の減少による「担い手不足」である。同社はこの課題解決に向け、4つのアクションを起こしている。まず、人的資本の拡充だ。海外留学生の採用、女性社員比率の向上などダイバーシティーの尊重、自社教育システムの構築と資格取得支援の拡充など、多様な人材が働きやすい環境整備への投資を行っている。
次に、将来の建設業を担う人材の育成である。奨学金制度を設立し、土木工学や建築工学、機械工学、電気工学などを専攻する高等専門学校生を支援している。3つ目は、協力会社との共生・発展と地域貢献である。「建設キャリアステップ導入補助金」の支給や各種研修会の実施により協力会社を育成。最後に、地域イベントへの広告出稿、道路のLED照明の寄付など、地域と共に発展するための活動を行っている。誰もが働きやすい環境の提供・人材育成・知名度向上・地域貢献により、担い手を確保しているのだ。
まなびのポイント 2:生産性の向上
生産性の低さも、建設業が抱える大きな業界課題である。生産性向上は利益の向上に直結するため、同社はこの課題に対して3つの取り組みを実施している。1つ目は、省力化施工の研究開発だ。例えば潜水士による水中作業を省き、効率的に施工を完了させることを目的に、吊荷回転制御装置(水中ジャイロ)を使用。これにより、水中へ荷物を下ろす際、正確な位置と方位を検知できる。
2つ目は、ICT施工の推進だ。ドローンと小型ボートによる三次元測量システムを導入し、安全で効率的な少人数での測量を実現した。3つ目は、現場の業務効率化を図るための現場支援室組織の発足と支援人員の増員だ。加えて「若築DX」(ビッグデータを活用した業務変革)を推進している。
生産性向上を実現する3つの取り組み
まなびのポイント 3:脱炭素化
建設業で使用する多くの機材は化石燃料(石油・石炭・天然ガスなど)を使っている。脱炭素化すれば環境問題の解決に大きく寄与し、建設業界の中でもサステナビリティ経営で大きくリードできる。同社は脱炭素化に向けた6つの取り組みを実施しているが、本稿ではそのうち3つの取り組みを特に紹介したい。
1つ目は、再生可能エネルギー施設の建設だ。同社はエコフレンドリーな電力発電を実現するため、陸上風力・バイオマス発電所・メガソーラー発電所に多くの施工実績を持っており、脱炭素化に大きく貢献している。2つ目は「ウインドブレイン工法」だ。4メガワット級の陸上風車をリフトアップ装置で組み立てる工法で、施工中に排出されるCO2(二酸化炭素)を削減できる。3つ目は、施工と移動で発生するCO2の削減である。海洋土木事業で使う作業船の燃料をGTL燃料(重油に比べて12%のCO2削減効果)にし、営業で使用する移動車にはFCV(燃料電池自動車)・EV(電気自動車)を採用するなど、脱炭素化を様々な角度から推進している。
カーボンニュートラルに向けた取り組みの例