ヘルスケアビジネス成長戦略研究会の第5回テーマは最新の「医療業界の技術トレンドの体感」。1日目は京都大学の奥野教授から、医療業界におけるAI技術の最新トレンドをご教授いただいた。
奥野 恭史 氏
はじめに
日本の遠隔医療への取り組みは、先進国と比較し非常に遅れている状態であったが、コロナ感染拡大に伴い、2020年4月時点で10,000施設がオンライン診療を実施(2018年と比較して11倍に増加)。
オンライン診療・遠隔治療の増加が今後も見込まれる中、ウェアラブルデバイス市場も急成長中だ。特にAI活用は必須であり、データの正しい活用により「集団から個」(Precision Medicine)への対応が可能になる。AI活用によって、ビッグデータから個別の最適解を導き出すことが奥野教授の狙いである。
奥野教授は「データが膨大になることで、医療従事者が忙しくなっては本末転倒」とし、「データから適切な解を導き出すことによる生産性向上」を大切にしている。
まなびのポイント 1:人間では判定できない画像診断を可能に
医療におけるAI活用の中でも、画像診断が一番現実的と言われており、すでにアメリカでは皮膚がんの判定や、糖尿病網膜症判定が実用化されている。
奥野教授の研究では、尿路上皮癌の判定に着目。通常は筋層浸潤の判定は細胞検診が必要であるが、尿細胞の画像診断だけで、浸潤の判定ができるAIを開発。人間の病理検査では判定できないこともAIによる分析が可能にした。研究では感度92.7%を達成され、非常に簡易に採取できる尿検査だけで検査が可能となった。
尿細胞診画像による、尿路上皮癌細胞の識別例
まなびのポイント 2:AIによる予知にとどまらず、原因と対策までセットで提示
AI活用の2つ目は「時系列検査データの分析」である。過去の時系列データの学習により未来予測ができれば、変化点が出る前から予知が可能となる。
奥野教授は、「急性腎障害」をテーマに研究を実施。過去の患者データを学習させ、発症7日前に予知できるようにした。このような技術を用い、健康診断で採取できるデータから、認知症や骨粗鬆症、虚血性心疾患などを予知できることを突き止めた。
奥野教授はこれに留まらず、ベイジアンネットワークを活用し、「なぜ?」という理由付けを明確化し、改善ポイントまでAIが提示するシステムを構築。これにより、同じ症状を予知された場合でも、異なる要因・個人に合った改善プランの提示を可能にした。このように、データを出すだけでは“人は動かない“という本質を掴んだ研究に取り組み続けられている。
解析結果の原因まで見える化するシステム
まなびのポイント 3:シミュレーションの活用により、生産性効率向上
AI活用の3つ目は「ビッグデータの活用」である。スーパーコンピュータ「京」、「富岳」を用いて、遺伝子配列の異なる細胞を創り出し、薬剤反応を確認する取り組みを実施。
シミュレーションを行うことで、通常であれば細胞の培養などで非常に時間がかかる内容がよりスピーディーに、かつ視覚的に解析できるという。これにより、ドラッグデザイン分野に大きく貢献できる。過去の実験データを学習したAIにより、タンパク質に結合する化合物を自動でデザインすることも可能となる。
スーパーコンピュータ「富岳」を利用した分子シミュレーション
※画像は全て講演資料より抜粋