メインビジュアルの画像
研究リポート
学校・教育ビジネス研究会
ICT教育・GIGAスクール構想やビックデータ活用など、時代の先を行く尖った企業のアイデアから、自社の"価値を再発見"をするためのヒントを探していきましょう。
研究リポート 2022.12.23

教育のユニバーサルデザイン化:学校法人星生学園 佐賀星生学園

【第2回の趣旨】
当研究会では、大きな経営テーマの1つである「人材育成」について、企業による社員教育ではなく、学校教育現場の取り組みを中心に紹介する。教育の最先端は学校教育現場にあり、保育・幼稚園から大学に至るまでの教育モデル・コンテンツを研究することで、自社の人材教育に生かすことができる。第2回では、学校法人佐賀星生学園と株式会社コーユービジネスを訪問・視察。佐賀星生学園の教育モデルと、コーユービジネスが開発したARプログラミング教材を体感し、時代の先をゆくアイデアから人材育成に関するポイントを学んだ。
開催日時:2022年12月1日、2日(九州開催)

 
 

 

学校法人星生学園 佐賀星生学園
理事長・校長 加藤 雅世子 氏

 
 

はじめに

不登校児童・生徒数が増え続け、引きこもり人口は110万人超とも言われる日本。佐賀星生学園は、この社会課題の解決に取り組む高等専修学校である。不登校や発達障がいなど修学に困難を抱える生徒を対象とする同園は、文部科学省から大学入学資格付与指定を受けており、小中学時代に不登校などを経験した生徒も進学や就職などキャリアを切り開ける。

 

理事長・校長の加藤氏は、臨床心理士の資格を取得後、小中学校でスクールカウンセラーとして勤務。学校に適応しにくい生徒を義務教育以降も支援する必要性を痛感して2011年に同園を創立した。教育理念は「個人の自立のないところに社会における自立はないことを念頭におき、弾力のある人間性を育成する『教育のユニバーサルデザイン化』を構築する」。この理念に基づき、問題や原因から対処の仕方を考える「問題解決」ではなく、望ましい未来や解決の姿をイメージしていく「解決の構築」を教育の基盤に置いている。

 


 

 


佐賀星生学園の鉄骨造り平屋建ての新校舎(2022年4月移転、佐賀県佐賀市)

 


マスコットキャラクター「星乃ぽぽん」

 

 

まなびのポイント1:垣根のない教育がユニバーサルな精神を生む

 

修学に困難を抱える生徒が多く在籍する同園だが、生徒の潜在ニーズは「勉強したい」「友達がほしい」の2つである。同園は教育理念の「教育のユニバーサルデザイン化」を、「子どもたちが主体的に自分らしく人生を生きていくための支援」と定義している。同園は臨床心理学の「解決志向アプローチ」(「こうなりたい」「このような形にしたい」といった理想像を掲げ、その実現に向けて取り組む手法)を教育プログラムの土台としており、「先生と生徒の良好な関係こそが生徒の成長を促進する重要なファクター」と考えている。

 

解決志向アプローチによって先生と生徒が一緒に考え、関係を構築し、教育のユニバーサル化を推進するという教育の善循環を、学校全体で実現しているのである。

 

 

まなびのポイント2:解決志向アプローチによる学校づくり

 

「問題志向アプローチ」は、「なぜ問題が起きるのか」と原因を究明して解決策を導く、いわば減点法のアプローチである。一方、解決志向アプローチは、うまくいっていること、望む未来を創るために必要なことを追求する方法で、「生徒を責めない、生徒に多くの負担をかけない」という特長があり、同園の理念実現に必須である。

 

このアプローチを実行する上で大切にしている4点は、①診断や家族要因にとらわれず生徒自身を見る、②解決の答えは本人が持っている、③生徒自身のリソースに生徒自身が気づく、④自分の強みを生かして人生を進んでいけるように導く(作られた未来ではなく、創る未来へ)。これらを学校全体で実践した結果、2年間で生徒の知的水準が向上したという調査結果も出ている。

 

図書室(談話室)・学習室。生徒が主体的・自発的に活動できる広々とした空間
 

まなびのポイント3:より多様な教育が実践できる新校舎

 

実績や口コミ・紹介によって入学者希望者が増え、同園は 2022年4月に新校舎へ移転。定員を1学年40人から60人に増やし、30人×2クラス編成としている。新校舎は、先生と生徒が共に全体を見渡すことができる平屋建てとなっており、校舎内も生徒自身が未来を創る“生徒のための空間”として設計されている。

 

また、中期経営計画では「生徒の社会的自立を実現する学校法人として、関係機関や地域と協働し、ワンストップ型システムを構築する」という目指す姿(ビジョン)を宣言。就労移行支援事務所やフリースペースの開設などを予定しており、より包括的な支援を目指している。

 

生徒に寄り添い、「子どもの側に立った学び」を追求する同園の姿勢が、ビジョンにも新校舎の設計にも現われている。

 

 

生徒休憩室。生徒が休憩したいときに自由に使用できる、生徒だけの憩いの空間