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経営課題の解決に取り組む企業のビジネスモデルやマネジメント手法を研究するプラットフォームです。
研究リポート 2025.12.12

中小企業が実践するデザイン経営推進の最前線を学ぶ 三菱総合研究所

第2回の趣旨
経済産業省と特許庁が2018年に「デザイン経営」宣言をして7年がたつ。しかし、その効果は客観的に評価しづらく、成果が出るまでに年単位の時間を要することもあるため、説得力を持って広く普及させることは依然として難しい課題となっている。
タナベコンサルティングの「デザイン経営モデル研究会」第2回1日目では、中小企業がデザイン経営を実践することで得られる効果や具体的な取り組み事例を紹介した。登壇者は、三菱総合研究所のプリンシパルであり、一般社団法人クリエイティブデザインネットワークの理事も務める山越理央氏である。
山越氏は、日本全国のデザイン経営の実態に精通する第一人者であり、デザイン領域の専門家として経済産業省のデザイン政策策定を支援する傍ら、デザインを通じて企業の持続可能性を高めるモデルを研究している。研究会参加者は、自社の課題に対して、デザイン経営をどのように実装していくべきかを探ることができた。
開催日時:2025年11月10日~11日(東京開催)




日本企業の経営力ベースアップのヒントに

三菱総合研究所と日本デザイン振興会の調査では、「デザイン経営」の浸透が、大企業に比べて中小企業で遅れている実態が明らかになった。国内市場の縮小、外資系企業の台頭、顧客ニーズの多様化といった環境変化に直面し、従来の機能や価格競争、あるいは下請けビジネスモデルからの脱却が急務となっている現在、中小企業にこそデザイン経営の実践が求められている。デザイン経営を実践することは、企業の「共創力」と「競争力」を同時に高め、「持続力」の向上につながるためである。

 

本研究会では、多くの中小企業が直面している課題を明らかにし、国や支援機関が実施するデザイン経営支援プログラムを通じて、参加企業にどのような効果が表れ、変革に向けた具体的な取り組みが生まれているのかを明らかにした特許庁と三菱総合研究所による最新の調査研究について紹介した。



デザイン経営の実践で得られる3つの効果

デザイン経営を継続している企業に共通して確認された効果として、「①自社らしさの明確化」「②人材の採用と定着化」「③新しい仕事の創出」が挙げられる。これらは独立したものではなく、「①自社らしさの明確化(=人格形成)」を起点とし、「②人材の採用と定着化(=文化醸成)」を経て、「③新しい仕事の創出(=価値創造)」に至るという「好循環モデル」の関係にある。

 

全ては「人格形成」から始まる。例えば、経営者が従業員に対してMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の策定と周知を通じて「自社らしさ」を徹底的に言語化する。このプロセスが人格形成であり、従業員の意識変革(文化醸成)を促す。その結果として、新商品開発や売り上げの向上(価値創造)という具体的な成果につながる。

 

ただし、この好循環を生み出すためのアクションは多様であるため、まずは自社の現状を見極め、どこから着手すべきかを優先順位に基づいて選択することが重要である。

 

デザイン経営の好循環モデル 「自社らしさの明確化(=人格形成)」を起点とし、「人材の採用と定着化(=文化醸成)」を経て、「新しい仕事の創出(=価値創造)」に至るというデザイン経営の好循環モデル
出所:三菱総合研究所講演資料



「暗黙知」を「形式知」へ転換するプロセス

自社固有の経営資源を「幅広い知財」と認識し、それを経営に生かしていく活動(知財アクション)がデザイン経営の推進力となる。その効果の1つが、経営資源が知的財産として可視化されることである。

 

多くの企業には、言語化されていない知的資産(例:個人の技能、顧客とのネットワーク、経営理念といった「暗黙知」)が眠っている。知財アクションは、この暗黙知を掘り起こし、言語化・可視化し、形式知である知的財産(例:商標、意匠、ノウハウ、ブランド)へと転換する活動である。

 

例えば、看板製作事業をコンサルティングにまで拡張したA社では、暗黙知(技術力+デザイン力+経営知識)を、デザイン経営のプロセスで形式知化(サービス固有性を商標として可視化)し、新たな価値と模倣困難性を生み出した。

 

デザイン経営とは、企業が持つ「知」を幅広く捉え直し、経営力に資する知的財産を生み出す手法であると言える。

  知財活動における形式知化、権利化の流れ 知財活動における形式知化、権利化の流れ
出所:三菱総合研究所講演資料



解決策がアクションに結び付く

 

本研究会のディスカッションワークでは、参加者が「自社らしさの明確化」「人材の採用と定着化」「新しい仕事の創出」の3つから自社の優先項目を洗い出し、課題を共有した。

 

「自社らしさの明確化」を優先課題とした参加者からは、「ワンマン経営からの脱却」「従業員の主体性の欠如」といった課題が挙げられた。この課題に対し、山越氏は「人格形成」の重要性を指摘した。人格形成では、経営者だけでなく従業員を含めた全員が同じ認識を持つことが重要である。そのため、従業員の主体性を引き出すには、まず経営者自身の意識変革が不可欠である。

 

具体例として、経営者が自社の歴史(例:取引先との関係性の経緯)をストーリーとして従業員に語る機会を設けたことで、経営者自身が「いかに狭い視点で従業員を見ていたか」を自覚し、意識変革が起きたケースが紹介された。この意識変革が従業員の尊重につながり、結果として従業員が主体的な姿勢に転換したという。

 

各社が設定した優先課題は一見異なるように見えるが、その根幹には組織のあり方に関する共通課題がある。そして、その解決策の根幹が、デザイン経営の3要素のアクションにつながることが明らかになった。

  新しい取り組みの推進に悩む参加企業からの質問に丁寧にアドバイスを行う山越氏 新しい取り組みの推進に悩む参加企業からの質問に丁寧にアドバイスを行う山越氏

PROFILE
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山越 理央氏

株式会社三菱総合研究所 プリンシパル
一般社団法人クリエイティブデザインネットワーク 理事