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研究リポート
尖端技術研究会
デジタルテクノロジーや先端技術を正しく知り、自社や業界における課題をどのように解決するかを考えるきっかけの場となるよう、企画をご用意しています。
研究リポート 2018.06.29

シリコンバレー視察2018リポート 尖端技術研究会

タナベ経営の「尖端技術研究会」は2018年1月、参加企業11社(13名)と共に米シリコンバレー(カリフォルニア州)を訪問し、同エリアの企業視察を実施した。3日間という限られた時間の中で、グーグルやマイクロソフト、ヒューレット・パッカードやベンチャー企業など7社を視察。3DプリンターやAI、IoTなど最新のデジタルプロダクトについて学びを得た。

 

Boeing

日本国内では基礎研究段階にあるテクノロジーが、米国では量産ライン導入など応用段階へ進んでいることを現場で直接目撃し、参加者は大いに刺激を受けた。その視察で特に印象に残ったスタートアップ企業2社をここで紹介したい。

 

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革新的な技術力で3Dプリンター業界に旋風を巻き起こしたカーボン(左)
サイト・マシンの技術を使えば既存の設備やデータをつなぐことができる(右)

 

Carbon
カーボン

1社目は、光硬化樹脂を高速で積層・造形する光造形方式(SLA)の3Dプリンターメーカー・Carbon社(2013年設立)である。GEベンチャーズなど大手のベンチャーキャピタルをはじめBMW、ニコン、アディダスなど大手メーカーも出資するスタートアップ企業だ。

多くの3Dプリンターメーカーがひしめく中、同社は革新的な技術力で話題を集め、3Dプリンター業界で旋風を巻き起こした。要因は、「3Dプリンターから量産用途での制約条件を取り除いた」こと。


従来の3Dプリンターには、生産速度や成型物に付着する不要物など、量産を阻害するさまざまな問題があり、用途が試作などの開発領域に限られていた。


そんな中、同社は「ハードウエア」「ソフトウエア」「マテリアル」など3つの強みを生かし、そうした阻害要因を取り除いたのである。

 

(1)ハードウエア
プリンティングプロセスがこれまでのものとは異なり、従来の処理よりも美しく製造できる→インジェクションモールディング(射出成形)によって表面処理が可能。

(2)ソフトウエア

プリンターのアップデートが早く、1週間に1回プリンターの改善が図れる→インターネットと接続しアップデートが常時可能なため、ソフトウエアで製造プロセスをマネジメントできる。

(3)マテリアル

素材の強度が向上したほか、材料の種類もさまざまで選択の幅が広い→「デュラルキュア(光・化学重合)マテリアル」と呼ばれる強度の高い素材を使用し、紫外線で固めることができる。

これらの技術革新により、開発業務で使われていた3Dプリンターを、量産プロセスで活躍できる技術に進化させた。具体的には、(大きさにもよるが)1個当たり10分程度で生産が可能である。この圧倒的な生産速度により、従来品と比べて25~30倍速く生産できる。


同社が先端技術を用いてブレークスルーした内容は、次の3点である。

(1)量産向け対応

量産向けの素材開発を実現したことによって、1万個以内であれば、プレス機を導入するよりもコストメリットがある。

(2)開発プロセスの変化
これまで6カ月間で5サイクルの試作プロセスが、50サイクルというスピードで進められる。金型も不要であり、3Dデータがあれば製造可能だ。

(3)従来できなかったデザインを形にする
同社が最も顧客価値を見いだすポイントは、これまで実現できなかったデザインの製品を製造できるようにした点である。

同社の最も有名な事例が、アディダスの「Futurecraft(フューチャークラフト)」というシューズだ。ソール部分をカーボンの3Dプリンターで生産しており、これまでの製造方法では成し得なかったデザインを実現している。


また、カーボンの3Dプリンターを使うことで、試作品を作るスピードが非常に速くなり、アディダスの開発プロセスが大きく変わった。デザインとテストの変更が早いサイクルで回せるようになり、通常の何倍ものスピードで最終デザインまでつなげることが可能となった。


こちらはすでに市場へ出ており、定価300米ドルにもかかわらず、現在はプレミアが付いて1万米ドルを超えているそうだ。現状の生産数は数千足であるものの、来年には何万足レベルの生産予定を立てている。

 

Sight Machine
サイト・マシン

Sight Machineは2011年創業。ビッグデータやAI、製造業に知見の深いメンバーが集まって立ち上げた企業である。製造業を中心に全世界500社以上の企業と取引がある。

自動車、ライフサイエンス、消費財などのメーカーや開発企業の製造ラインで、リアルタイムに製造、品質管理、サプライチェーンの監視を行い、製品の種類と不良品を分析・記録。製造プロセスの改善をサポートするサービスを提供している。


提供する分析プラットフォームは、AIを活用した機械学習と高度な分析によって、工場の品質や生産性の向上など、さまざまな課題の解決を可能にする。取引先はGE、オムロン、P&G、ナイキ、富士通、コマツ、マセラティ、フィアットなど、多様な分野の製造業と取引を行っている(GEは投資家でもある)。


サイト・マシンは自動車産業と協業することが多く、品質改善のテーマにおいては、多くの企業と議論を重ねてきた。その結果、製造業が何を必要としているかを理解し、同社の事業展開の方向性を固めてきた。


工場の中ではさまざまなデータソースが存在する。部品、プロセス、サプライヤー、品質条件など、異なるシステムを統合するのは決してやさしいことではない。ただし、現在はビッグデータの処理分析技術の革新により、大規模データをリアルタイムに処理できる世界になった。


そんな中、同社は膨大なデータを収集し、AIを活用したリアルタイム分析を行い、即時的に顧客の欲しいデータを「見える化」することを実現した。その分析結果は、製造プロセスの問題解決につなげることができる。


例えば、分析データを時系列に並べることで、何か問題が発生したとき、どこに要因が隠れているかが分かる。それは温度なのか、回転数なのか、機械の負荷なのか。人間が分析しようとすると膨大な時間がかかり、分析しているうちに違う問題が発生する。同社のサービスを使えば、AIが分析し、問題と要因を教えてくれる。働く人はデータを取得することも、それを用いて分析することも不要となるのだ。


同社のビジネスの優位性は、「どのデータでも使えること」だ。基本的にはデータ化していれば、どの形式でも取り込むことができ、手書きのチェックシートでもエクセルにデータとして取り込めれば、連動が可能となる。


人間は、全てのデータをチェックすることはできない。重要と思われるデータに絞り、チェックしている場合がほとんどだ。同社によると、工場のデータの20%しか、人間は見ることができておらず、その残り80%に問題解決の要因が隠れていることが多いという。


同社のサービス活用事例として、スポーツメーカーのナイキが挙げられる。ナイキは自社生産を行わないファブレスメーカーで、OEM企業から製品の供給を受けている。ナイキは中国とベトナムのサプライヤー工場にサイト・マシンのシステムを導入しており、会社も国も飛び越え、サプライチェーン全体のリアルタイム監視を実現。高い生産性を生み出している。


データが正しくとれ、数字で事実をつかむことができれば、正確かつスピーディーに問題の解決や適切な判断が行える。また問題の因果関係が分析できれば、問題発生の前の事前予防の手を打つこともできる。まさに、先端技術を用いた製造業の課題解決に同社は貢献しているのだ。


カーボンおよびサイト・マシンの2社のケースから、その要点を次の3点にまとめてみた。


1.先端技術は人のパフォーマンスを最大限に引き出す


「先端技術が人の仕事を奪う」とよくいわれるが、見方を変えれば、「人がやりたくない、人がやるべきではない仕事」を機械が代わりにやってくれることで、人が本当にやるべき仕事に集中できる。これによって、働く人たちは自らの生産性を一気に引き上げることができる。


2.データ取得が爆発的に向上する


これまで、「管理」の仕事は人がやるべきだという認識が強かった。だが、目まぐるしく変化する環境変化や膨大な情報量により、近年は管理のための現状認識だけで過大な負担を強いられるのが現状だ。


そのため、管理における現状認識は、可能な限り機械やシステムに任せてほしい。特に、データ取りや分析に関しては、人よりも「早く、正しく」行えるため、現場で働く人はこれまでにないスピードで対策を打つことができる。


3.「先端技術なき戦略」は大きなリスクを抱える


先端技術は、目的ではなく「手段」である。にもかかわらず、これまでと同様に課題や問題を認識し、そこから手段を考える中で先端技術を検討するようでは遅すぎる。


従来になかった新しい技術が、次々と世に登場する時代である。まずはどんな技術があって、それは何ができるのか。ここを押さえ、はじめから先端技術を取り入れた戦略を描かなければ、中国や米国などスピードの速い国々の企業に後れを取ってしまう。まずは先端技術の潮流を押さえることから始めていただきたい。

PROFILE
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森重 裕彰
Hiroaki Morishige
タナベ経営 経営コンサルティング本部 部長、尖端技術研究会 リーダー。「問題解決の鍵は全て現場にある」を信条に、誰もが納得できるように見える化ノウハウを駆使して、クライアントの問題解決の支援を行う。自身の職務経験を生かした現場改善のアドバイスにも定評があり、製造業のクライアントを中心に、経営視点からの具体的な改善策における成功事例を多数持つ。