第1回に続き、タナベ経営「ビジネスモデルイノベーション研究会」が実施した「シリコンバレー&サンフランシスコ視察ツアー」の模様をリポートする。今回は、シリコンバレー興隆の一翼を担うスタンフォード大学での講演と、スタートアップ育成会社、およびベンチャー企業の視察内容をダイジェストで紹介する。
世界最高クラスの教育機関
スタンフォード大学
シリコンバレーには、スタンフォード大学を筆頭にカーネギーメロン大学、サンノゼ州立大学、サンタクララ大学などが集積。また、近隣にも、カリフォルニア大学、カリフォルニア州立大学などが立地し、シリコンバレーの研究機関として機能している。
この中心を担うのがスタンフォード大学だ。英国の高等教育専門誌『タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)』が発表した「世界大学ランキング2018」(2017年9月)によると、同大学は英国オックスフォード大学とケンブリッジ大学に次ぐ世界3位タイである。(【図表】)
これまでに、ヒューレット・パッカード共同創始者のウィリアム・ヒューレットとデビッド・パッカード、グーグル共同創業者のラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンなど、イノベーターが在籍したことで知られる。また、アップル創業者スティーブ・ジョブズの“伝説のスピーチ”(「ハングリーであれ、愚か者であれ」)が同大学の卒業式で行われたのは有名である。同大学には、新しいことへのチャレンジ精神に満ちた学風があり、学生は大企業に就職するより起業の道を志す傾向にある。
シリコンバレー発展の要因は
「4つのてこ」がそろったこと
ジャクリーン・セルビー氏講演より
訪問したスタンフォード大学では、競争優位戦略やビジネスモデル、OTL※を専門テーマとするジャクリーン・セルビー氏より、「シリコンバレー発展の歴史とその要点」をテーマに講演をいただいた。
紙幅の都合上、ポイントのみを記載すると、
①シリコンバレーは、「自然に企業が興隆し、成長発展する環境が整った生態系(エコシステム)」で進化している
②シリコンバレーの発展には、「The Four Levers(4つのてこ)」が関わっている
――ということであった。
「4つのてこ(梃子)」とは、Technology(技術)、Law(法律)、Markets(市場)、Norms(行動様式の規範)を指す。これらがそろっていたことが、シリコンバレー発展のポイントだとセルビー氏は語る。具体的には、「マイクロチップの技術革新」(Technology)、「著作権・特許の関連法規強化による、特許開発戦略のハードル低下」(Law)、「ベンチャーキャピタルの興隆」(Markets)、「優秀な人材が世界から集まり、かつ流動的に動くことが規範となっている労働市場」(Norms)の4つである。
※Office of Technology Licensing=産学連携による技術開発を主とする技術移転機関
起業家には至れり尽くせりの
プラグ・アンド・プレー・テックセンター
シリコンバレーで起業家にオフィス空間を提供し、人材あっせんや資金援助などのサポートを行っているインキュベート施設「プラグ・アンド・プレー・テックセンター」(以降PnP)を視察した。同施設は、米国のスタートアップ企業育成・投資会社のプラグ・アンド・プレー社が設立したもの。いうなれば、「成長意欲の高いスタートアップ企業(新事業を開始した企業)とイノベーションを求める大企業・機関投資家とをつなぐコーディネーター」である。
PnPでは、スタートアップ企業のサポートを行っている。入居者は執務スペースや会議室、カフェテリア、受け付けなどを利用できるほか、マーケティングや販促(プレスリリースなど)を含めた事業運営サポートを受けられる。また、投資家・弁護士の仲介や大学・企業との連携、さらには金融業界に精通した専門家が常駐し、投資家に対してどのような服装・態度でプレゼンテーションをすればよいかなどのアドバイスを行っている。
世界中のリーディングカンパニーから資金を集めるなど、広範なネットワークを生かした取り組みも展開。スタートアップ企業のプレゼンには、施設内の広い会場が埋め尽くされるほど、多くの投資家が詰めかけるそうだ。
ビッグデータを分析するスタートアップ企業
インスタピオ
世界的に関心が高まっているビッグデータ。この収集・分析・活用を行うことで、飛躍的に成長しているシリコンバレー企業が「インスタピオ」(セナ・ゾールCEO)だ。同社は、PnP内にオフィスを構えるスタートアップ企業でもある。
具体的な事業内容としては、消費者の携帯デバイスを基にしたデータ(立地情報、移動情報など)を行動に置き換えることで、「消費者がどういう行動を起こしているか」を読み取り、企業の重要なマーケティング情報として提供している。同社は設立して3年で企業価値が20億円を超えるという。近年のシリコンバレー企業は、時価総額10億ドルに達する期間が2年程度に短縮しているが、それを上回る驚異的な成長スピードだ。
CEOのゾール氏はトルコ出身の元経済学者という、異色の経歴を持つ。そのような経歴を持つ人物がトップとしてらつ腕を振るっていることからも、シリコンバレーの先進的かつ多様性豊かな風土がうかがえる(ちなみにプラグ・アンド・プレー創業者のサイード・アミディCEOはイラン系米国人である)。
同社の現在の企業価値を3年で築き上げたスピードもさることながら、それをわずか7名という少人数で達成したという事実にも驚かされる。この圧倒的生産性は、同社のビジネスモデルが非常に優れていることを示唆している。シリコンバレー発のスタートアップ企業が、いかに高いポテンシャルを有しているか、その一端を体感することができた。
次回はシリコンバレーを離れ、米国を代表する小売り・流通施設について紹介したい。