タナベコンサルティングのホールディングス・グループ経営モデル研究会は、厳しい経営環境下において中堅・中小企業が持続可能な成長を実現するための具体的な戦略を探求する場である。単に理論を学ぶだけでなく、実践的な知見を深めることを目的としている。
本研究会は、参加者が自社の経営課題を解決し、将来のグループ経営モデルを描くための具体的なヒントを得ることを目指している。
第5回では、グループビジョン、M&A、カーブアウト、上場、ガバナンス、人材・理念浸透など、グループ経営の実務論点を事例とともに共有した。シュゼットホールディングスの実例を通じて、ホールディングス経営における理念浸透・遠心力・組織づくりの実務を学ぶ貴重な機会となった。
開催日時:2026年5月20日(大阪開催)
はじめに
1969年創業のシュゼット・ホールディングスは、「アンリ・シャルパンティエ」などの有名ブランドを展開する、兵庫県西宮市に本社を置く大手洋菓子メーカーである。
本講演では、同社代表取締役社長の蟻田剛毅氏を講師としてお招きし、「世界のスイーツグランドメゾンになる。」をビジョンに掲げ、グループ売上高280億円超への躍進を遂げた同社。そのグループ経営モデルの成功要因について、ご講演いただいた。

シュゼット・ホールディングスの経営理念
出所:シュゼット・ホールディングス講演資料
「持つ」の本質。理念こそがホールディングスの核心
ホールディングス化から約10年が経過する同社、蟻田氏は「思うようには進んでいない」と語る。その背景には、戦略を考える人材層の薄さと、オペレーション担当者が戦略立案に時間を割けない構造的課題がある。
大都市に本拠点を置くわけでもなければ上場企業でもなく、採用母集団にも限界があり、「作戦を考える側」と「現場を回す側」がほぼ同一人物になりがちだからだ。 こうした課題に向き合う中で、蟻田氏は「ホールディングス」の語源を調べ、「持っている」という意味から、単に株式や資金を保有するだけでなく、中心となる魅力・狙い・思想を「持つ」ことが重要であるという認識に至った。
同社では、フランス語で「家」とともにブランド事業を意味する「メゾン」という言葉を用い、いくつかのブランド事業を束ねる大きな「家」としてホールディングスを捉え直した。ビジョンとして「世界のスイーツグランドメゾンになる。」を掲げ、自社を「お菓子を通じて世の中のコミュニケーションを盛り上げる会社」と再定義している。
「北極星」への転換。規模拡大が生む経営の質的変化
蟻田氏は社長就任後、売上高が250億円を超えた頃から、人材・販路・組織といった中長期的な課題が一気に顕在化した。それまでは、「明日結果が出る課題」が多かったのに対し、答えが数年単位でしか見えない問題が積み重なり始めたのである。
黒字化後は選択肢が増えるため、会社のコンテクスト(文脈)や歴史がなければ意思決定がぶれる。「多業態・多人数・多商品で経営する以上、全員が理解できる北極星が不可欠だ」と蟻田氏は強調した。
本研究会が掲げる「量的拡大から質的成長へ」という命題は、まさにこの局面に対応する。売上規模が一定を超えた段階で、経営者の「体温」だけでは組織を動かせなくなる。太陽のような個の求心力から共通の北極星による経営への転換こそが、グループとしての企業価値を高める質的成長の起点となる。

出所:シュゼット・ホールディングス講演資料
対話から生まれる遠心力。製造部門における理念浸透の実践
製造部門での理念浸透は、原材料の高騰と組織内の摩擦が重なった局面で本格化した。蟻田氏はトヨタ出身の外部支援者を招き、製造幹部との対話を開始した。
初回テーマは、業務論ではなく「なぜ働くのか」という内発的動機であり、対話を重ねる中で工場の自己認識は「納品する場所」から「地域のハブ」へと変化した。この取り組みには3年半を要したが、製造部門約500名への浸透を果たし、経営陣の連携改善や上位職へのプロパー人材登用という成果につながった。
グループ経営における遠心力は、権限委譲や組織設計だけでは生まれない。「なぜ働くのか」という問いから始まる対話の積み重ねが、理念を行動に変換する土壌をつくる。
「理念の共有、行動への変換、多拠点での再現」という順序を優先する姿勢は、本研究会の問う質的成長の核心と重なる。

シュゼット・ホールディングスの提案力
出所:シュゼット・ホールディングス講演資料
株式会社シュゼット・ホールディングス 代表取締役社長