タナベコンサルティングのホールディングス・グループ経営モデル研究会は、厳しい経営環境下において中堅・中小企業が持続可能な成長を実現するための具体的な戦略を探求する場である。単に理論を学ぶだけでなく、実践的な知見を深めることを目的としている。
本研究会は、参加者が自社の経営課題を解決し、将来のグループ経営モデルを描くための具体的なヒントを得ることを目指している。
第4回は今期研究会テーマである「“卓越した中堅企業”を目指すスケールアップ・ホールディングス」の中でも、ホールディングスにおける「キャピタルモデル」に焦点を当てた。
三興バルブホールディングスの事例では、ホールディングス体制への移行に際し、「資本と経営の分離」によって事業承継を超えた成長戦略としてのホールディングス化を志向し、社長就任後にトップラインを3倍までスケールアップすることに成功した実体験と、その中で見えてきたホールディングス経営の課題感についてご講演いただいた。
開催日時:2026年3月24日(東京開催)
はじめに
1947年創業、福岡市に拠点を構える三興バルブホールディングスは配管資材商社を起点とし、2019年のホールデイング化を経て売上高241億円、社員数406名、9社を擁するグループ企業へ発展した。
代表取締役社長の長﨑洋也氏は、「成長の要諦は商社から配管技術商社グループへの提供価値の拡張にある」と語る。単なる多角化ではなく、人手不足や工期短縮といった現場の課題に対し、加工・設計・工事を連動させる仕組みとしてホールディング体制を構築した。
長﨑氏は3代目として会社を変革し、トップラインの3倍増を達成した。一方で、戦後の荒廃期に創業者が掲げた「現場のお客様のために役に立つ店づくり」を最上位理念として継承し、事業開発のブレない指針としている。成長に向けた変革と、根幹を成す不易の理念の実践について学びの多い講義となった。
出所:三興バルブホールディングス講演資料
創業理念を事業開発まで貫く
同社は配管資材販売に加え、配管加工、樹脂プレハブ、3Dスキャン設計、配管モジュール、防災設備工事へと領域を広げてきた。長崎氏は、「事業拡張の起点は創業者の教えである『在庫を切らさない』『配達を早く』『現場の役に立つ』にある」と語る。
理念を現代の解釈に置き換え意思決定の軸に据えることで、新規事業やM&Aでも判断がブレず、現場価値に直結する成長が可能になるという。
経営環境が激変する現代において、企業の成長と存続には絶え間ない変革が求められる。本講義は、その一方で意思決定の軸となる「不易の理念」を語り継ぐ重要性が、相対的に高まっていることを示唆している。

出所:三興バルブホールディングス講演資料
ホールディングスは「権限移譲×会議体」で動かす
同社はホールディング後、コーポレート機能(財務・人事・総務・購買など)と事業会社の役割分担を進め、グループ経営会議などの会議体を整備した。
長崎氏は、ホールディングスの本質は「『組織図』ではなく『意思決定の設計』にある」と述べ、事業会社が自律的に収益を追い、持株会社が全体最適の基準を示す必要性を強調する。権限移譲と会議体の運用をセットで磨くことで、個社最適による競合を抑え、グループ全体で成長投資を回せる点が大きな成果だという。
また、投資判断を仕組み化し、事業会社のトップへ委任することは、グループのガバナンス強化と経営人材育成の場としても機能する。

出所:三興バルブホールディングス講演資料
“社長を10人つくる”人材戦略に切り替える
同社は複数の事業会社を持ち、地域特性に合わせた分社化も進めている。例えば、沖縄での分社化などだ。長崎氏は、ホールディングスの狙いを事業承継のみに置かず、「経営者を増やした方が会社は強くなる」との考えから“社長を10人つくる”目標を掲げた。
個人の営業力に依存する組織から、経営人材が育つ仕組みへと転換することで成長の再現性が高まり、次なる事業創出と事業承継を同時に推し進められるという戦略的価値がある。
ホールディングスを単なる事業承継の「器」にとどめず、会社の成長戦略として明確に目的設計したことこそが、同社の今日の発展の礎となっている。

出所:三興バルブホールディングス講演資料
三興バルブホールディングス株式会社 代表取締役社長