タナベコンサルティングのホールディングス・グループ経営モデル研究会は、厳しい経営環境下において中堅・中小企業が持続可能な成長を実現するための具体的な戦略を探求する場である。単に理論を学ぶだけでなく、実践的な知見を深めることを目的としている。
第3回テーマは、「『卓越した中堅企業』を目指すスケールアップ・ホールディングス」。本研究会は、参加者が自社の経営課題を解決し、将来のグループ経営モデルを描くための具体的なヒントを得ることを目指している。
シンク・アイの事例では、持株会社体制への移行で見えてきた狙い・効果・課題と対応について、率直な実践知の共有により、スケールアップを進めていく手法を具体的に理解する機会となった。
開催日時:2026年1月27日(福岡開催)
はじめに
シンク・アイは、「心を高め社会と共生する」という不変の経営理念のもと、事業承継型M&Aを積極的に展開。現在ではグループ約10社、売上高86億円規模を誇る企業体へと成長した。
同社が目指すのは、単なる企業の集合体ではない。日本が誇る中小製造業の技術を承継し、ホールディングスのイノベーションによって磨き上げ、再び将来へ受け渡していくための「プラットフォーム」である。
本講話では、創業者のトップダウン経営から「自律型グループ経営」へと進化させるための具体的な仕組み、そしてその根底にある人財育成哲学について学んだ。
グループのMVV
出所:シンク・アイ講演資料
後戻りしないガバナンス:カリスマ経営から「仕組みの経営」への脱却
浜崎氏は、同社におけるガバナンスを「後戻りをせず、着実に前進するための仕組み」と定義する。
多くの中小企業が個人の能力や気合いによるトラブル解決に依存する中、同社は徹底した文書化とシステム化への挑戦を推進。一度解決した課題が再発しないよう、仕組みによって退路を断ち、組織としての学習能力を高めている。
また、創業者の親族外承継を見据え、早い段階から所有(親族)と経営(経営人財)を分離した点も重要だ。創業者のカリスマ性に頼らずとも、組織が自律的に回る「再現性のある経営」の確立。これこそが、持続的なスケールアップの絶対条件である。

ホールディングス会社と事業会社の役割と定義
出所:シンク・アイ講演資料
権限委譲の数値化:若手経営者がバッターボックスに立てる「有限責任社長」
グループ各社の機動力を高めるため、同社では「定量的なリスク管理」に基づいた大胆な権限委譲を断行している。
具体的には、「どこまでの損失なら許容できるか」という基準を、各社・各個人の能力に合わせて設定。例えば、1000万円までの投資は社長判断で可能とする、などである。これにより、各社の社長がホールディングスの顔色を伺うことなく、スピード感を持って意思決定できる環境を整えた。
浜崎氏はこれを「有限責任社長」と呼ぶ。起業のリスクをホールディングスが肩代わりしつつ、経営の醍醐味と責任を若手経営人財候補者に預ける。グループ内に次世代の経営人財が育つ「挑戦のインフラ」を構築しているのである。

グループの永続発展に向けた取り組み
出所:シンク・アイ講演資料
人材育成の2軸:「学習歴」の重視と「論語と算盤」の両立
同社の人財哲学の核にあるのが、「学歴(過去)」ではなく「学習歴(現在・未来)」を評価する姿勢である。経営者には特性(人間力)と理論(実務スキル)の両輪が必要であるとし、次の2軸で徹底した教育を行っている。
(1) 人間学の修養(論語)
雑誌『致知』(致知出版社)を用いた読書会を毎月実施。各社の経営人財全員で感想を共有し、物事の捉え方や徳性を磨く場としている。
(2) 実務スキルのインストール(算盤)
外部専門家(家庭教師)による指導や、社会人大学院(MBA)への派遣を積極的に実施。理論武装と実務能力の向上を図る。
「尖る事業会社」と「支えるホールディングス」という役割分担の中で、各社の社長が「尖り」を最大化できるよう、ホールディングスが徹底的に学習の機会と環境をバックアップする体制を敷いているのである。

シンク・アイが取り組むグループ経営者育成
出所:シンク・アイ講演資料
株式会社シンク・アイ 代表取締役社長 COO