タナベコンサルティングのホールディングス・グループ経営モデル研究会は、厳しい経営環境下において中堅・中小企業が持続可能な成長を実現するための具体的な戦略を探求する場である。単に理論を学ぶだけでなく、実践的な知見を深めることを目的としている。
第3回テーマは、「『卓越した中堅企業』を目指すスケールアップ・ホールディングス」。本研究会は、参加者が自社の経営課題を解決し、将来のグループ経営モデルを描くための具体的なヒントを得ることを目指している。
東洸ホールディングスの事例では、持株会社体制への移行で見えてきた狙い・効果・課題と対応について、率直な実践知の共有により、スケールアップを進めていく手法を具体的に理解する機会となった。
開催日時:2026年1月27日(福岡開催)
はじめに
1951年創業の東洸ホールディングスは、一軒のガソリンスタンドから始まり、75年にわたりモータリゼーションの波とともに成長を遂げてきた。創業者である代表取締役社長・石原裕士氏の祖父と父は、早い段階から燃料事業の縮小を見据え、タイヤ卸し、車検、リース、レンタカーへと多角化を推進してきた。
経営理念に「地域に寄り添い 人と人とが繋がる 温かい社会創りに貢献する」を掲げ、祖業である燃料事業への依存からの脱却を進めている。また、意思決定の迅速化と、人事制度の最適化を目的にホールディングス化へ踏み切った。本研究会では、石原氏が試行錯誤の中で得た貴重な学びについてご講演いただいた。
出所:東洸ホールディングス講演資料
責任の所在を明確化する組織設計により燃料依存体質から脱却
燃料需要の縮小とEV・ハイブリッド化の進展に備え、ホールディングス化の狙いを「燃料依存からの脱却」「現場近接の意思決定」「事業特性に合う人事制度」の3点に明確化した。背景には、ガソリンスタンド数が1994年の約6万軒から2024年時点では約2万7千軒へと減少し、さらに今後10年以内には約1万7千軒まで落ち込む可能性があるという厳しい予測がある。
分社化は「自分が失敗すれば会社も傾く」という責任感と挑戦意識を生むが、即効性は期待しないことが肝要だという。目的を全社員に繰り返し伝え、KPIや評価指標を事業特性に合わせて再設計することで、初めて分社の意義が現場に根付く点が解説された。
分社化の目的を明確にすることで、燃料依存からの脱却に向かう組織変革と、意思決定の高速化を同時に推進することに成功している。
出所:東洸ホールディングス講演資料
本来の機能を発揮するホールディングス設計
「本社役員が事業会社社長を兼務する状態」は避けるべきだ。緊急性の高い現場課題に時間を奪われ、人材育成やガバナンスといった中長期の本社機能に手が回らなくなるからである。
経営企画室などの中核機能を設けて役割を分けることで、本社の求心力を強化することが本来の機能発揮につながる。また、自社にないスキルは外部のプロ人材採用で補完することで、「遠心力(事業の自律)」と「求心力(本社の統合)」を両立することができる。
ホールディングスに戦略的に検討すべき中長期視点の意思決定機能を持たせるため、役割を明確に切り分けたことが、意思決定の質とスピードを高めることにつながっている。
出所:東洸ホールディングス講演資料
サイロ化と権限移譲の落とし穴に備える
分社化後、予想以上に組織の縦割り(サイロ化)が進み、利幅の大きい商材へ偏った事業活動が生じたという失敗事例が語られた。全社方針の横串を通すためには、合同研修や部門横断のジュニアボード設置など、対話の場を増やすことが有効な対策となる。
権限移譲を機能させるには、「明確な境界線(権限規定)」「教育システム(社内大学など)」「公平な評価制度」「失敗を許容する心理的安全性(風通しの良い職場)」の4点がセットで必要不可欠だ。単に権限を委譲しただけでは、設計通りに機能することは望みにくい。
短期での劇的な変化は狙わず、継続的な運用を通じて自律型組織へ移行させることが、ホールディングス経営の実効性を高める鍵となる。
人材を育て、スピード感をもって環境変化に対応する仕組みをつくることが重要
出所:東洸ホールディングス講演資料
東洸ホールディングス株式会社 代表取締役社長