「青い旗に星印」のロゴマークが、安心と高品質の証しであるアヲハタ。国内家庭用ジャムでは30%のトップシェアを誇る。1970年発売の国内初の低糖度ジャム「アヲハタ55」が55周年を迎えた2025年、ジャム一極集中から脱却するビジネスモデル基盤を構築し、さらなる成長へ挑戦している。
アヲハタ 代表取締役社長 上田敏哉氏
業界全体でジャムの消費が減少
鮮やかな青色の船体デッキ風の外観と、館内を彩るブルーフラッグのロゴマーク。実際に製造をしていた旧工場を改装した「AOHATA JAM★DECK(アヲハタ ジャムデッキ)」は、ジャムのトップブランド・アヲハタの魅力を存分に体験できる施設で、2012年4月のオープンからの累計来館者数は、2024年11月現在で14万人を超える。
「ジャムづくり体験や工場見学の来場者は、平均すると年間1万人を超えています。一人一人異なる味わいのジャムになる楽しさも人気の理由です。2025年から、新入社員研修でもジャムづくり体験を始めました。自社の魅力を知ることは、全ての始まりですから」
そう笑顔で語るのは、2025年2月に社長へ就任した上田敏哉氏だ。「自社の魅力を知る」の実践には、親会社であるキユーピーの執行役員として、ジャムのトップブランドを外から眺めてきた自らの姿に重なる。
「社長就任前は『原料にこだわるものづくりで、価値の高い良い商品を作っているな』と感じていました。社長になって一番実感するのは、社訓※1通りに誠実な会社であること。ものづくりにも、人に対しても、ですね。
想像以上だったのが、遺伝子レベルで進めるイチゴ研究です。『アヲハタ果実研究所』では約160種のイチゴを栽培し、1房に実る量を増やし、色や香りを良くし、防虫も進めて、新品種『夢つづき』を開発しました。ビニールハウスを超えるガラスハウスも驚きでした」(上田氏)
原料となるイチゴは、主に北半球では中国、南半球では南米・チリで栽培している。産地が違えば味や香りなども異なるが、それらの違いを生かして「季節に合わせたおいしさ」を実現。「ものづくりではなく、味づくり」を目指し、素材の目利きだけでなく、生産農家の栽培や収益性向上に貢献する連携にも注力している。アグリ(農業)そのものに精通するのも強みだ。
そして、「2028年ビジョン」として掲げる「フルーツで世界の人を幸せにする」を実現すべく、2024年12月に「第11次中期経営計画(4カ年)」をスタートさせた。同計画では、ジャムのトップブランドの地位に安住せず、「フルーツのアヲハタ」へアップデートするための課題感と期待感が共存している。
「ジャム業界全体で2010年代から消費が減り続けています。少子高齢化の影響だけでなく、朝食の喫食減少や若者のジャム離れが理由です。一方で、当社はフルーツの原料・加工技術の知識も経験も豊富で、上手な組み合わせでジャム以外に新しい何かを提案できる力があります。ミカンの缶詰で創業した後、缶詰消費が減ってジャムづくりへ転換したように、時代に応じてニーズの先を見据え、独自商材を創り出していこうと考えています」(上田氏)
新カテゴリー&海外市場で伸びしろ開拓
第11次中計の骨子(【図表】)は、次代の柱づくりや持続可能な原料調達、積極投資による成長戦略だ。実現に向けて「①基幹事業(ジャム・スプレッド)の盤石化、②フローズン事業育成と新カテゴリー開拓、③海外市場の新展開」をマテリアリティに選定。成長力の鍵を握る「新カテゴリー」「海外」は、共に売り上げ構成比10%以上(2028年度)をKPI(重要業績評価指標)に定めた。
【図表】アヲハタの2028年ビジョンと第11次中期経営計画の骨子
出所 : アヲハタ「第11次中期経営計画」よりタナベコンサルティング戦略総合研究所作成
「看板商品の家庭用ジャムやスプレッドは好調で、2026年度上期に生産キャパシティーを超える見通しで増産投資を進めています。インバウンド人気も高く、輸出を含めて新チャネルを増やし、収益性も高めていきます。
業務用のフルーツ・プレパレーション※2も、原料供給に加え一次加工品として付加価値を高め、供給先の人手不足解決にも貢献することで、需要拡大につながっています」(上田氏)
世界中の産地・農家との連携による原料調達、アセプティック技術※3による高品質の製造・商品開発。培った強みとリソースを生かす新カテゴリーの開拓で、次代の主軸商品に育つ期待が高まるのが『くちどけフローズン』である。凍結してもやわらかい独自製法の冷凍フルーツは、コンビニエンスストア向けプライベートブランドを中心に浸透し、ナショナルブランドでも認知度を高めていく途上にある。
また、ビジョンを体現する海外市場の拡充も、国内市場の消費減少を踏まえて活路を求め、持続可能な原料供給拠点である中国・チリを活用する新展開を推進していくところだ。
「中国では合弁企業において山東省に工場を建設中です。お客さまのリアクションを見ながら何を作り、供給するかを吟味していきます。チリもフローズンフルーツが人気の北米に販路を構築する計画で、どちらもこれからが本当に楽しみです」(上田氏)
伸びしろを着実に伸ばす一方で、ジャム需要の回復策も重要になる。特に、若者離れは大きな課題と位置付け、味わいだけでなく見栄えでも引き付けてタッチポイントを生み出そうとしている。その一環として、2025年5月に東京・渋谷で「アヲハタ フローズンフルーツスタンド」を2日間限定で開催。フローズン加工のイチゴを流行の串スイーツにして無料配布するなど、積極的なPRを展開中である。
商品開発でも「レス機能」に配慮する付加価値づくりに注力している。ボトル容器入りのフルーツスプレッド「Spoon Free」はスプーンを使う・洗う面倒さ、「アヲハタ55」のスティック(個装)タイプは使い残しの「レス」を実現。さらに、携帯できる利便性など「プラス機能」の付加価値も提供。おいしさの本来価値を、新たな用途・需要開発につなげている。
「調理ソースとしてのフルーツには未知の可能性があります。まず海外で市場調査をして、日本へリバースエンジニアリング(競合製品の分析とレシピの再現)をし、『世界ではこんな味わい方がありますよ』という食のバリエーション提案があってもよいし、それも含めての海外市場の新展開です。海外か日本かで区別せず、グローバルで1つの市場と考えることが大事です。ウェブやインバウンドは国境を越えて大量の情報が氾濫するので、上手にまとめる発信力を磨くことで、展開がどんどん面白くなっていくでしょう」(上田氏)
国内初の低糖度(55度)ジャムとして1970年に発売し55周年を迎えた「アヲハタ55」シリーズ(左)。
「凍ったままでやわらかい」をキャッチフレーズに、人気上昇中の冷凍フルーツ『アヲハタ くちどけフローズン』(右)
「不足を知る」次世代人材を育成
第11次中計では、持続可能な経営基盤の強化も掲げている。成長の原動力となり次代を担っていくプロパー人材をどう育てるかも、大きなテーマだ。
同社は2025年5月に「次世代後継者育成研修」を開始。各事業本部の部課長や工場長11名を対象に、未来戦略を構築できる経営ボード人材の育成を進めている。
「どんなに良い戦略や戦術も、人材がいないと達成できません。異なる部門の社員が同じテーマで対話し、戦略にどう貢献できるかを共有すること。また、持続可能な姿に向けて何を学ぶのか、足りないことを知ること。どちらも大事で、目線を外に向けて感性を刺激するのが狙いです。
強みがあるほど、内向きでディフェンシブになりがちです。世の中の動きやニーズ、新技術をどう活用できるのか。影響力あるメンバーの姿勢が変わり、俯瞰した物の見方をバランス良く持ってほしいですね」(上田氏)
意見が黙殺されない風通しの良い環境で、熱量の高い社員が声を上げ、挑戦しながら成長する風土へ。そして、共通理解が生まれ、個々に思いを抱きながら、全社の出来事に当事者意識を持つ「共感の領域」(上田氏)へ。部門間の垣根が低くなる手応えが、芽生え始めている。
「2028年はゴールではありません。すでにその先、2040年ごろのありたい姿の長期構想も描き始めています。基礎研究力を生かし、フルーツを通して健康を支援するウェルネス分野への参入も考えられますし、さまざまな取り組みが浸透した結果、新たな『〇〇のアヲハタ』というイメージが生まれる未来があってもよいと思います。当社は商品力に自信を持ち、良いものは売れるという正攻法でしたが、その良さをどう伝えていくのかには奥手でした。オーソドックスではない使われ方もありますし、どこにフックさせれば伝わるのか。多様な食のシーンや消費者心理、売り場のことを科学し、学んでいく必要がありますし、そこに飛躍への大きなヒントがあると思っています。
世界的にフルーツは生食がメインですが、私の野望は生食に勝る加工フルーツを創り出すことです。私たちがこだわるおいしさや香り、テクスチャー(質感、風合い)を、独自の調理技術によって引き出すことで、生食を超えていける。そこに夢を乗せていきたいですね」(上田氏)
ジャムのアヲハタではなく「フルーツのアヲハタ」を追求する成長戦略に向け、マーケティング強化に着手した同社は、2025年11月に創業者(中島董一郎氏)が同じであるキユーピーの完全子会社となり、世界展開を加速。原料品質やマーケットトレンドの精度を高め、商品展開でシナジーを発揮していく。
「キユーピーのマヨネーズは嗜好品から汎用品へと戦略的に変え、消費を高めてきました。フルーツも単なる嗜好品でなく、身近な存在として気軽に味わい、日々の食卓や健康に欠かせないものになる。そんな未来づくりへ歩みを進めていきます」(上田氏)
自社サイトのタグラインは 「フルーツには続きがある。」。アグリか、ウェルネスか、それとも……。ブランドも人も発信力・展開力を高めていく「続き」が楽しみだ。
※1 一.正直を以て宗とすること、一.信用を重んずること、一.和を以て尊しとなすこと
※2 産業用フルーツ加工品。乳業・製菓・製パンなど食品メーカーや外食チェーンに供給
※3 無菌充填システム。無菌状態で鮮度や香り、味わいを保つ果実加工・包装システム
アヲハタ(株)
- 所在地:広島県竹原市忠海中町1-1-25
- 創業:1932年
- 代表者:代表取締役社長 上田 敏哉
- 売上高:205億1300万円(連結、2024年11月期)
- 従業員数:603名(連結、2024年11月現在)