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経営メソッド
新時代を拓く中堅企業の調査研究

中小企業の殻を破りながらも、大企業のような安定にはまだ届かない。この「中堅」という立ち位置にこそ、次の飛躍へのヒントが隠されている。政府の支援策や経済政策を活用するだけでなく、自社の強みを最大限に生かした戦略を描くことが、未来を切り拓く鍵となる。次の一手を考える企業に、成長の壁を突破するヒントをお届けする。

経営メソッド 2025.12.26

自動車業界から食・農業分野へ。新規事業に挑戦し、新たな価値を創造 城南製作所

自動車産業が大転換期を迎える中、次世代を見据えた新規事業に挑戦している城南製作所。徹底したリサーチや外部との積極的な連携で、地域の課題解決を図るスマート農機開発を成功させるなど、新たな価値創造へ歩みを進めている。


城南製作所 代表取締役社長 宮本 聖一氏



食・農業分野で新規事業に挑戦

長野県上田市に本社を構える城南製作所は、自動車の窓ガラスの昇降に使用されるドアウインドレギュレーターや、ボンネットをロックするフードロックなどを製造する1946年設立(1933年創業)の老舗自動車部品メーカーだ。主力製品のドアウインドレギュレーターのシェアは国内トップクラスを誇り、自動車メーカーの系列に属さない独立系の自動車部品メーカーとして独自の地位を確立してきた。ほぼ全ての日本の自動車メーカーに製品を供給しており、国内のみならず北米やアジアなどに生産拠点を持つ同社の2025年3月期の連結売上高は500億円に上る。


自動車部品業界で唯一無二の存在である城南製作所が、新規事業の検討をスタートしたのは2012年のことだった。


「今、自動車業界は100年に一度の大変革期を迎えています。自動運転や電動化に加えて、少子化やカーシェアリングの浸透により、自動車の在り方自体が大きく変わってきており、国内自動車市場についても拡大が見込みにくい状況です。また、海外市場も経済安全保障や各国の政策による不安定要素があり、先行きは不透明です。そこで、本業が安定しているうちに、将来の成長が見込める分野への事業進出を果たすべきだと考えて、新規事業をスタートさせました」


そう説明するのは、城南製作所の代表取締役社長・宮本聖一氏である。宮本氏が将来の成長分野として選んだのは「食」と「農業」だ。2024年2月にJ Fresh Factoryという子会社を設立し、同社の敷地内に設けた植物工場で水耕栽培を開始した。栽培するのは、エディブルフラワーと呼ばれる料理の飾り付けに使われる食用花やマイクロリーフである。生産した植物は、同じ長野県内にある軽井沢の高級レストランや県内各地の洋菓子店などに供給している。



追従型のスマート農機で農家の課題を解決

初の新規事業として水耕栽培をスタートさせた城南製作所が今、新規事業の第2弾として開発を進めているのが、スマート農機の「Folloone(フォローン)」である。


実は、同社が新規事業の検討を本格化させたのは、2019年に宮本氏が代表取締役に就任してからのことだ。新規事業の開始に当たって、社内で新規事業を立ち上げるメンバーを公募した。


「意欲あふれる若手従業員が手を挙げてくれ、4名のプロジェクトとしてスタートしました。しかし、本業の自動車部品の開発は、自動車メーカーから要求される部品の機能はほぼ決まっていて、新商品を開発するといっても既存の製品の改善・改良をしていくというもので、まったくゼロからアイデアや出すというものではありませんでした。ましてや新市場開拓は経験がなかったので、外部の力を借りながら将来性のある市場を調査することから始めました」(宮本氏)


新規事業チームは社長直轄のプロジェクトとして発足し、成長市場の調査を開始。農業、水産業、観光、医療など14分野から164テーマを抽出した。そこから約2年間をかけて各テーマの将来性を比較検討して徐々に絞り込み、13テーマをピックアップ。さらに市場規模、製品の成立性などの観点から最終的に2テーマに決定した。それが水耕栽培によるエディブルフラワーの生産とスマート農機のFollooneである。2テーマに絞り込んだ時点で組織として正式に事業企画部を開設し、エディブルフラワーの栽培は事業推進1課、スマート農機の製造は事業推進2課が担当するという体制を構築した。


「新規事業立ち上げに際し、自社のブランディングにつながるような事業にしよう、と決めていました。というのも、当社は自動車部品業界では独自の地位を築いていますが、その他の業界の方にとって知名度や認知度は高くはなく、逆に言えば開拓の余地があります。


スマート農機のFolloone開発を決定した最大の理由は、地元のブドウ農家の課題を解決したいという思いがあったからです。上田市をはじめとする長野県はブドウの産地で、ワイン用や高級品種のブドウを栽培している農家が数多くあります。しかし、作業は重労働なので、高齢化が進む中小規模経営の農家の多くは、今後も栽培を継続するのが難しい状況です。そこで、ブドウ栽培の全ての作業プロセスを分解し、省人化できる作業を洗い出し、とりわけ体に負担がかかる収穫・運搬の作業を軽減するための自動追従型の運搬車を開発することにしました」(宮本氏)


自動追従型のスマート農機「Folloone」

自動追従型のスマート農機「Folloone」。農作業の負荷軽減をサポートし、高齢化の進む農家の課題解決を図る



外部との積極的な連携で開発スピードを速める

Follooneは、前面についた2つの超音波センサーで前方の作業者の位置を推定して追従できる自動追従型運搬車だ。例えば、これまでブドウの収穫は作業者が人力で一輪車を動かしながら収穫しており、体力の消耗や腰痛などの原因になっていた。しかし、Follooneは作業者の動きに追従するので、収穫したブドウをFollooneに取り付けた荷台に入れるだけで収穫できるようになる。


最大150㎏まで積載でき、傾斜が30度までの斜面なら追従が可能であり、場所を選ばずに作業できる。また、デジタル機器に不慣れな高齢者も簡単に操作できるように、ボタン一つで作動するシンプルな設計にした。


「自動追従型の運搬車は他社も開発を進めています。他社の運搬車と差別化を図るために配慮したのが、開発スピードと手頃な価格でした。駆動部分のクローラーは自社開発をすると時間がかかって出遅れてしまうので、早く市場に提供するために他社製品を使っています。また、作業者を認識するセンサーは、以前、自社で研究したものの製品化に至らなかったセンシング技術を使うことでスピーディーに開発できました。


作業者の後を追従するというシンプルな機能なので、処理するデータもシンプルな分、内蔵するコンピューターのコストを抑えることができ、多機能な他社品に比べて安価な価格で提供できるというメリットも生まれました」(宮本氏)


こうした戦略のもと、城南製作所では外部の協力を得ながら開発を進めていった。まず、農業協同組合を通じて地域のブドウ農家とつながり、作業観察やテストを実施する。信州大学繊維学部のレンタルラボを利用してさまざまな実証実験も行った。さらに長野県工業技術総合センターとは、従来の一輪車を使った作業と比べてどのくらい作業負荷を軽減できたのかを評価する実験を実施。その結果、収穫時の作業者の動きをデジタルデータとして記録するモーションキャプチャーにより、作業負担が半減したという結果を得ている。



新事業への取り組みを通じ多くの知見を蓄積

Follooneの発売予定は2026年春だが、展示会への出展などを通してすでに多くの反響を獲得している。城南製作所は、作業者だけでなく農機や軽トラックを追従の対象にすることで、野菜や果物などの収穫時への活用を想定していたが、それ以外のアイデアを外部から提示されることも多いという。


「農業関係以外でも、例えばゴルフ場の移動時にプレーヤーを追従しながらゴルフバッグを運ぶ、あるいは工場内で作業員に追従して器具や材料を運ぶといった使い方ができる、などの意見をいただいています。Follooneは構造や使い方がシンプルですので、多様な場面での活用が期待できます。今後はそういった利点をアピールしながら、販売代理店を活用して、まずは長野県を中心に販売拡大に努めたいと考えています」(宮本氏)


同社では食・農業分野での新規事業の立ち上げに際し、全ての開発を自前で行うのではなく、開発スピードを優先するために外部との積極的な連携を図ったことも功を奏した。加えて自社の保有技術の延長線上にある分野だけではなく、制約を設けずに幅広い領域からターゲットとする市場を絞り込んでいくアプローチも大きな特徴といえるだろう。


また、資金調達においても地域経済の活性化に貢献するという目標を立て、助成金を獲得してきた。地域の課題を解決する新事業を計画したことで、「地方創生実践プラットフォーム基盤強化事業」(上田市)や、ガソリンを使わないエコ型農業であることから「ゼロカーボン技術事業化支援補助金」(長野県産業振興機構)などに採択され、開発資金に充てることができた。


「市場調査から開発に至るまでのプロセスを経験し、外部との連携の在り方など多くの知見やノウハウを蓄積することができました。この経験は今後の新規事業に挑戦していく上で大きな財産になると思います。今後、当面の間は水耕栽培事業とFollooneの販売拡大を目指して活動するため、新規事業の立ち上げについては一段落しますが、市場調査は継続していく予定です」(宮本氏)


2026年に設立80年を迎える老舗企業である城南製作所の2つの新事業がどのように成長するのか、そして次の挑戦にも注目が集まる。


※ 野菜やハーブの種を発芽させ、開いたばかりの非常に小さな葉がついたもの。主にサラダの飾りや料理のアクセントとして利用される


2026年に設立80年を迎える城南製作所の社屋(左)。高級レストランやケーキなどに使用されるエディブルフラワー(食用花)。自動車部品事業で培った生産技術や品質管理のノウハウを生かして栽培している(右)

2026年に設立80年を迎える城南製作所の社屋(左)。高級レストランやケーキなどに使用されるエディブルフラワー(食用花)。自動車部品事業で培った生産技術や品質管理のノウハウを生かして栽培している(右)


(株)城南製作所

  • 所在地 : 長野県上田市下丸子866-7
  • 創業 : 1933年(設立は1946年)
  • 代表者 : 代表取締役社長 宮本 聖一
  • 売上高 : 500億円(連結、2025年3月期)
  • 従業員数 : 403名(連結、2025年3月現在)