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プロマーケット

低成長が続く市場では、ただ追い風を待っているだけでは企業は衰退する。逆風の中で自社が成長し続けるためには、採用を強化し、M&Aによって企業を束ねる「グループ化」を進めることが、欠かせない打ち手となる。こうした課題に対し、プロマーケットは信用力強化をスピーディーに形にし、次の成長フェーズへ踏み出すための現実的な選択肢となり得る。

経営メソッド 2026.05.29

事業承継のその先へ 次世代体制づくりとしての上場

事業承継という言葉から、多くの経営者がまず思い浮かべるのは、代表交代や株式の移転ではないだろうか。もちろんそれらは承継の重要な要素である。しかし、承継を「バトンを渡すこと」とだけ捉えると、本質を見誤る。次の世代に本当に引き継ぐべきものは、肩書や持ち株だけではなく、会社が継続的に成長できる経営の仕組みそのものだからである。


低成長市場の中で、採用を強化し、必要に応じてM&Aや新規開拓を進めていくには、後継者個人の力量だけに頼る経営では限界がある。事業承継を“守り”で終わらせず、“次の成長の起点”にできるかどうかが、これからの中堅・中規模企業に問われている。



「社長交代」だけでは事業承継は完了しない

中小企業庁の「事業承継ガイドライン(第3版)」は、事業承継を、事業価値を次世代へ引き継ぎ、事業活動の活性化につなげるために不可欠な取り組みと位置付けている。その上で、承継すべき対象として、経営そのもの、資産、さらに知的資産を挙げている。


ここでいう知的資産とは、顧客との関係、取引先との信頼、技術やノウハウ、組織文化など、財務諸表には表れにくいが事業継続に不可欠な資産である。つまり事業承継とは、単に名義を書き換える作業ではなく、会社が持つ競争力の源泉を、次世代が使いこなせる形で移す営みと言える。


同ガイドラインはまた、事業承継には早期着手が不可欠であり、後継者の育成を含む移行には3年以上、場合によっては10年以上を要することもあると示している。これは、承継の難しさが相続や登記の手続きにあるのではなく、「次の経営者が会社を回せる状態」をつくることにあるからだ。


逆に言えば、代表交代だけを急ぎ、経営の仕組みづくりを後回しにすると、承継は終わったように見えても、実際には会社の将来を不安定にする可能性がある。



後継者が困るのは、引き継ぐ仕組みがない会社

承継後に後継者が直面する最大の問題は、業績や資金繰りそのものよりも、むしろ「何がどこまで仕組み化されているか」が見えないことにある。重要な顧客との関係が社長個人にひも付いている、意思決定の基準が言語化されていない、人事評価や権限分担が曖昧である、会議体が機能していない――こうした状態では、後継者は日々の経営判断をするたびに、前任者の経験や勘を推し量らなければならない。これでは承継ではなく、「社長の代替」をしているにすぎない。


今後、企業が持続的に成長していくには、採用力の強化も避けて通れない。だが、後継者のもとで採用を強化しようとしても、会社の将来像、評価制度、育成方針、意思決定の流れが曖昧なままでは、外部の人材に会社の魅力を十分に伝えることができない。


承継後の経営は、前社長の個人的信頼を置き換えるだけでは成立しない。組織としての信用力を新たに構築する必要がある。事業承継を経営の断絶ではなく成長の継続に変えるには、属人的な運営から組織的な運営へと移行しなければならない。


上場というと、一般市場を目指すものというイメージが強い。しかし、承継後の体制整備を急ぐ企業にとっては、まず何よりも「経営を説明できる状態」に会社を整えることが重要になる。そうした観点に立てば、プロマーケットは有力な選択肢に位置付けられる。


TOKYO PRO Market(TPM)に上場するには、東証が認定したJ-Adviserとの契約が必要であり、J-Adviserから上場適格性の調査・確認を受けなければならない。さらに上場後も、適時開示への助言・指導や、上場維持要件への適合状況の調査が行われる。つまり、TPMの特徴は、上場前後を通じて、社外の専門的な視点が継続的に経営管理体制の整備に関与する点にある。


承継直後の企業にとって重要なのは、一般市場の知名度をただ目指すことではなく、次世代経営の土台を早期に固めることだ。会議体、責任分担、情報開示、内部管理、説明責任といった仕組みを整え、社長が代わっても回る会社にしていく。その点でプロマーケットは、いきなり完成形を求めるのではなく、中堅企業としての型を整える場として位置付けやすい。


日本取引所グループ(JPX)の「上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」でも、「東証他市場への市場変更サポート」が示されている。将来的な一般市場への展開も視野に入れつつ、まずTPMで経営基盤を固めるという考え方は、承継局面の企業にとって現実的だ。




上場準備で、次世代が回せる経営の型をつくる

金融庁のコーポレートガバナンス・コードは、コーポレートガバナンスを「透明・公正かつ迅速・果断な意思決定」を行うための仕組みと位置付ける。これは大企業に限られた話ではない。むしろ承継期にある中堅・中規模企業こそ、経営判断を個人の経験則から組織の仕組みへ移していく必要がある。後継者が安心して決断できる環境を整えることは、そのまま社員が安心して働ける環境を整えることにもつながる。


TPM上場準備を進める過程では、経営方針をどう示すか、リスクをどう把握するか、誰が何を決めるのか、どう情報を開示するかといった点が問われる。こうした整備は、投資家向けの作業に見えて、実際には承継後の会社運営そのものを支える。


後継者にとっては、意思決定の土台が明確になり、社員にとっては評価や責任の所在が見えやすくなり、採用市場に対しては「この会社は社長が替わっても回る」というメッセージになる。承継後に必要なのは、個人のカリスマではなく、組織としての再現性なのである。


事業承継を“守り”で終わらせる会社は、代表交代をもって区切りと考える。一方、承継を成長の起点に変える会社は、その後に必要な採用、M&A、新規開拓まで見据え、次世代が回せる経営の型を整えようとする。


プロマーケット上場は、そのための有力な選択肢の1つである。承継を単なるバトンタッチにせず、中小企業が中堅企業へと進化する節目にできるかどうか。そこに、これからの事業承継の成否がかかっている。


〈参考資料〉
中小企業庁「事業承継ガイドライン(第3版)」(2022年3月改訂)、日本取引所グループ「上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」(2025年8月公開)、東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード」(2021年6月11日公開)