IPOに向けた管理基盤づくりを「急がば回れ」で丁寧に進めてきた光貴。満を持して最初に選んだ市場は、一般市場ではなくプロマーケットだった。同社が目指すのは、呼吸をするかのようにガバナンスが自然に機能し、仕組みを通じて改善と挑戦を繰り返せる「再現性の高い組織」だ。
光貴 代表取締役社長 斉藤 政美氏
KPI・改善・検証の循環で利益体質に
沖縄を拠点に移動体通信事業(au・UQモバイルショップの運営)とブライダル事業を展開している光貴は、1993年の設立以来、「お客様の期待を超越するおもてなし」を自社の価値の源泉と位置付けて、ホスピタリティーの品質を磨き続けている対面サービス企業だ。全国約2000店舗のauショップが「顧客体験価値」(以降、CX)の創造力を競い合うアワードでは地域別大会におけるグランプリをはじめ多数の受賞歴を誇り、沖縄県の新規学卒者就職志望ランキングでも例年トップ10入りを果たしている。
とはいえ、何か特別な秘策を打っているわけではない。顧客アンケートの数字と愚直に向き合い、「説明品質」「待ち時間」「アフターフォロー」など接客KPIの改善・検証を根気よく繰り返す中で、現場の収益力を底上げしてきた。
「当社では、誰が担当しても一定水準以上の接客品質や生産性を担保できるよう、組織としての『再現性』を重視した人材投資を行っています。それが将来的な拠点展開やM&A後の統合(PMI)に耐え得る力となるからです。ただし、KPIなどの用語ばかりが先行しないよう、対面指導にしっかりとリソースを割いています」
そう語るのは、代表取締役社長である斉藤政美氏だ。同社では、CX向上を専門とする社員が各店舗を巡回して個別指導に当たっている。また、毎月の「CX会議」や「クレーム会議」で挙げられた課題は全て斉藤氏を含む全社で共有し、第一線に立つ接客担当者を後方支援している。
「お客さまから問われるのは、確かに『個人』の接客力です。しかし、個人が対応できる範囲には限界があります。だからこそ、担当者や店舗任せにせず、会社として良しあしを判断し、責任をもってクオリティーを管理できる体制の整備が重要なのです」(斉藤氏)
ルールは「ある」だけでは不十分、大切なのは「運用実績」だと斉藤氏は強調する。意思決定を「いつ・誰が・どの情報で」行ったのかが日々記録され、リスクが拾われ、必要な情報が適切に報告される。そうしたガバナンスの積み重ねが、接客品質や生産性の向上に直結するという。
同社が上場のファーストステップとしてプロマーケットを選択した理由も、まさにその1点にある。同社にとって上場は資金調達のためではない。ガバナンスの運用実績を「早期に」積み上げて組織としての信用力を高め、事業成長を加速させるための一手なのである。
移動体通信事業は、沖縄県内で店舗網を拡大している
上場準備には現場を熟知した社員を起用
「当初は東証スタンダードを目指していましたが、2022年の市場再編によるハードルの上昇を踏まえて、まずはFukuoka PRO Market(FPM)を目指す道を選びました。ガバナンス強化と信用力向上が目的であるならば、東証以外のプロマーケットでも上場の効果は同じだからです。東証に出れば高いステータスを得られますが、埋没するリスクも大きい。無理して東証に行くよりも、組織としての体力を十分付けてからの方が中長期的な伸び代が大きいと判断しました。また、プロマーケットは監査が1年で済むというメリットもあります。東証かそれ以外か、一般市場かプロマーケットか、その違いよりもスタート地点で重要なのは、全社員がプライベートカンパニーからパブリックカンパニーに変わる覚悟を持てているかどうかです」(斉藤氏)
斉藤氏は、現場を熟知している店長経験者を総務・人事・内部監査など管理部門の責任者に起用し、一人一人が腹落ちするまで上場のメリットとデメリットを説明。「業務の負担が増えるとしてもぜひ上場したい」という覚悟を共有することから始めた。
「上場準備は、その道のプロを採用した方が何倍も早く進められるでしょう。しかし、現場を経験したことのない人間が一気に改革しようとしても、人は付いてきません。離職してしまうケースすらあります。ですから、あくまでも全社員としっかり目線を合わせることを最優先に進めました」(斉藤氏)
上場準備にかかる業務の負担を考慮して、約1割の社員を管理本部に配置。大胆に増員した。また、接客販売を担う事業本部と管理本部をつなぐ営業戦略本部にも同等の人員を配置し、研修計画や新人研修などの人事を任せている。冒頭で触れたように、接客現場の生産性を高めて少数精鋭でも高効率なオペレーションを実現し、収益力を高めているからこその人材配置である。
外部指導を受けて監査機能を強化
上場準備を本格始動させたのは2022年9月だった。九州・福岡を基盤とする証券会社とコンサルティング契約を締結。その後、ただちに「リスク管理・コンプライアンス委員会」を発足し、リスク管理を平時から経営の議題に乗せる枠組みを整備した。
「当初の3年間は、弁護士、公認会計士、コンサルタントなど外部専門家による指導を毎月のように受けて、コンプライアンス意識の向上に全力を注ぎました。懲罰委員会も設置して、万が一にも社員に瑕疵があった場合には厳格に処分する体制も整えました。早い段階から外部専門家と接する機会を設けたことにより、上場会社に求められる規律の厳しさ、スピード感、将来性を証明する力などを肌で理解できたと思います。一方で、『努力すれば報われる』という実感を持てるように、利益と連動した報酬制度の導入など働く環境も改善しました」(斉藤氏)
その取り組みの成果は、沖縄県内のau代理店で従業員満足度ナンバーワンという結果にも現れている。
2023年には監査法人と契約し、会計・開示の実務水準を引き上げた。「監査役会」を発足して監査の運用サイクル(計画・報告・改善)を確立したほか、社内規程の再整備、税効果会計・原価計算等の会計基準の導入、J-SOX対応準備、アナログ・デジタル両面のセキュリティー強化、コンプライアンス体制強化などを推進。2024年には三様監査を導入し、各監査の取組状況、指摘事項、今後の監査計画などを相互に共有する体制を整えた。社外取締役を迎えて取締役会の監督・助言機能も強化した。
以上のようなプロセスを経て、2025年3月末、同社は満を持してFPMへの上場を果たした。現在は一般市場へのステップアップを見据えて、社外取締役の増員、任意の指名・報酬委員会の整備など、取締役会の監督機能と意思決定の透明性をさらに高める取り組みを継続している。
「上場準備のプロセスに伴走してくれるベストパートナーを見つける上で大切なのは、オーナーや経営者を筆頭に全社員が一丸となって『公私混同を断ち切る覚悟』です。その覚悟さえあれば、取引所は親身になって助言してくれるはずです。当社も福証には手厚くサポートしていただき、本当にありがたく思っています」(斉藤氏)
上場を追い風に成長を加速
上場の成果を、さまざまな面で実感していると斉藤氏は語る。まず、社外の与信や稟議、また、採用候補者への説明にかかる時間が短縮されるなど、説明コストが大幅に削減された。次に、ルールと情報が整い、判断が前へ進むことによって、意思決定の速度が格段に上がった。そして、採用やM&A・業務提携の打診が多数寄せられるようになった。さらに、退職率も大幅に下がったという。
「移動体通信事業では、2025年12月にauショップの運営事業を譲受し、沖縄県内の店舗数を16店舗から19店舗へと拡大しました。ブライダルでは、岡山県の婚礼施設を譲受し、2026年4月から『ルミエール・ア・スタイル岡山』として運営を開始。結果的に、トータルの売り上げ規模を約2割拡大できました」(斉藤氏)
事業環境は、決して楽ではない。斉藤氏によると、移動体通信では物価上昇や端末価格の上昇などを背景にスマートフォンの買い替えサイクルが長期化し、総じて厳しい状況が続いている。ブライダルについても、コロナ前ほどには需要が回復しておらず、エリアによっては過当競争も激しくなっているという。
「しかし、振り返ってみれば、平穏無事で何の環境変化もない時代など、これまで一度もありませんでした。恐らくこれからもそうでしょう。当社としては、環境変化の有無にかかわらず、Q-board、そして東証へのステップアップに向けた準備を粛々と進めていく方針です」(斉藤氏)
少子高齢化に伴う国内マーケットの縮小は避けられないが、その中で生き残る会社と、そうではない会社がある。強烈な右肩上がりではなくとも持続的に成長し続け、株主から「安定性」を高く評価される企業を目指していきたいと斉藤氏は語った。
顧客の立場に立って「期待を超える感動」と「絆」を紡ぐブライダル事業
(株)光貴
- 所在地:沖縄県宜野湾市伊佐2-19-12
- 設立 : 1993年
- 代表者 : 代表取締役社長 斉藤 政美
- 売上高 : 77億2696万円(2026年3月期)
- 従業員数 : 183名(パートタイムを除く。2026年3月現在)