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経営メソッド 2026.08.26

「MX」を筆頭とした新たな人財開発への挑戦 トランスコスモス

経営人財の育成を単なる施策ではなく、全社成長戦略の一環として昇華させようと動き出したトランスコスモス。
全社視点を持つ次世代リーダーの輩出に挑む人財開発の現場に迫る。


トランスコスモスのパーパス・ビジョン・バリューズを表現したイラスト

トランスコスモスのパーパス・ビジョン・バリューズを表現したイラスト



経営層と現場のニーズを汲み取りながら横断的な育成支援機会を提供

1966年、データエントリー事業※で産声を上げたトランスコスモスは、半世紀を超える歩みの中で、BPOサービス、カスタマーサポート、デジタルマーケティング、ECワンストップへと事業領域を拡大させてきた。現在、世界36の国と地域に180を超える拠点を構え、グループ従業員数は7万人を超える。この巨大な組織を支えてきたのは、創業者である奥田耕己氏が掲げた「お客様の満足の大きさが我々の存在価値の大きさであり、ひとりひとりの成長がその大きさと未来を創る。」という経営の基本理念と、事業の原点である「People & Technology」である。


また、創業60周年という節目を迎えるに当たり、「パーパス・ビジョン・バリューズ」を策定。今後も社会に必要とされる企業であり続け、持続的な成長を実現するためにトランスコスモスの存在意義を示すパーパスと、10年後を見据えた目指す姿としてのビジョン、社員一人一人が日々の意思決定と行動の拠り所とするバリューズを定め、新たな理念体系として整理した。人と人との“つながり”を表したイラストも特徴的だ。


同社が経営人財の育成へ本格的にかじを切ったのは2022年、中期経営計画の策定時だ。それ以前からも小規模な次世代リーダー育成プロジェクトが立ち上がっていたものの、コロナ禍という予期せぬ外部要因が発生したことも影響し、プログラムの本格展開には至らなかった。その後、人財戦略の一環として事業を支えるマネジメント人財の育成に向けて、各種人財育成プログラム整備の推進と拡充が決定し、経営人財育成プロジェクトの発足と現在のプログラム開発に至っている。本格始動した経営人財育成プロジェクトにおいて、「横断的なコミュニケーション機会の創出が重要である」と、コーポレート統括人事統括人財開発本部人財開発統括部育成企画部部長の大津章裕氏は語る。


「全社育成担当として、経営層および現場の方針やニーズを汲み取りながら、横断的な育成支援機会の提供を推進することが、全社育成部門の使命だと思っています。研修に参加した社員同士の横断的な交流を通じて、新たなビジネスチャンス創出の契機につながる。そういった本当の意味で“価値”のある育成体系および研修機会の提供を行っていきたいです」(大津氏)


※紙媒体に記載されたアナログデータをパソコンに入力してデジタルデータに変換する代行サービス



経営者の視座をシミュレーションワークで養う

現場で活用する専門スキルやマインドを学習する研修は、各現場部門が主管となって推進を行う中で、大津氏と育成推進部教育推進課課長の長崎伊織氏が所属する人財開発統括部では、「全社横断」「全社育成体系」といった全社共通部分の育成領域を担当する。大津氏が所属する育成企画部では、環境の変化を捉えた新しい施策の企画・立案を推進。対して、長崎氏が所属する育成推進部では、既存の階層別研修を世の中のトレンドに合わせてブラッシュアップし、確実に現場へ浸透させる役割を担っている。


経営人財育成のポートフォリオにおいて重要な役割を担っているのが、管理職研修の上級編に導入された経営戦略シミュレーションワーク「Management Experience Online」(以降、MX)である。


同社では、全社横断のマネジメント向け集合研修として、課長職任用5年未満を対象とした中級管理職研修と、課長職任用5年以上または部長職1〜2年目を対象とした上級管理職研修を体系的に整備している。中級編では管理職としての基礎知識や自部門の課題解決力を養成し、上級編では経営視点の強化や事業戦略を考える力の習得を目指す。


MXは、この上級編において導入されているプログラムであり、受講者が経営者の立場で意思決定を行いながら、経営視点や戦略思考を実践的に学ぶ機会となっている。


MXでは、受講者がチームを組み、架空の会社経営をシミュレーションする。これは、タナベコンサルティング独自の経営メソッド「1T4M(Technology・Market・Management・Money・Man)」の考えに基づいており、戦略構築の型として学ぶ機会になっている。自社の独自の強み(Technology)をどの市場(Market)にぶつけ、限られたヒト(Man)・モノ・カネ(Money)という経営資源をマネジメント(Management)によってどう最適化し、勝てる条件をつくるか。そこには経営の本質であるバランス・タイミング・集中の3要素が凝縮されている。


景気変動や材料費高騰、さらには貸し倒れや倒産といったシビアな経営リスクまで再現された中で、受講者は経営における決断の重みを疑似体験するのである。


「参加者の所属する部門はさまざまですが、経営という共通テーマについて議論することで、それぞれの経験や考え方を共有しながら学び合うことができます。参加後のアンケートでは『他部門の視点や意思決定の考え方を知ることができた』『視野が広がった』という声が多く寄せられています」(長崎氏)


MX導入に当たっては、同社向けに独自のカスタマイズが施されている。事前の財務インプットを効率化するためのeラーニング動画の導入や、単なる運で結果が出たのか、意図した戦略に基づいたものかを検証するためのオリジナルワークシートの活用など、質の高い学びを設計した。MX研修は現在、公募制で実施されており、毎回多くの応募が集まる人気プログラムとなっているという。


トランスコスモス コーポレート統括 人事統括 人財開発本部 人財開発統括部 育成推進部 教育推進課 課長 長崎 伊織氏(左)、育成企画部 部長 大津 章裕氏(右)

トランスコスモス コーポレート統括 人事統括 人財開発本部 人財開発統括部 育成推進部 教育推進課 課長 長崎 伊織氏(左)、育成企画部 部長 大津 章裕氏(右)



各人財育成施策を線でつなぎ将来の経営を担う人財を継続的に輩出

架空の会社を舞台に経営を疑似体験するMX研修に対し、各所属部門から選抜された次期経営幹部候補を対象とする「経営塾」では、経営者視点での課題解決手法を発掘し、実際の経営課題と正面から向き合う実践の場もプログラムに含まれている。毎年20名前後の精鋭を選抜し、1年間の長期プログラムを実施する。共同社長をはじめとした役員陣もアドバイザーとして名を連ねており、トップダウンの意志とボトムアップの意欲をつなぐ、強固な体制が整えられた施策でもある。


カリキュラムは極めて実践的だ。前半パートでは経営に必要な高度な知識をインプットし、後半パートの「社長塾」では、共同社長が講師としても参加。受講者は、各セッション内で学習した内容を、実際に担当している業務や起きている課題に当てはめながら、プレゼンテーションを実施する。社長や役員から直接フィードバックを受け、トップとの真剣な対話を通じて、受講者は自部門の枠を越えた全社視点を磨いていくのだ。また、チームで意見をまとめ、発表する場も設けており、その際は普段関わらない部門横断メンバーでチームを組ませて、視野を広げる仕掛けも施している。


密度の濃いプログラムを走り抜けた参加者にとっては、確かな学びが得られたという実感が待っている。さらには、経営塾へ参加したメンバーから役員が誕生するなど、この育成プロジェクトが単なる「教育・研修機会」にとどまらず、企業の意思決定層の強化へと着実につながり始めている。こうした取り組みの実現には、現場との丁寧な対話も欠かせなかった。選抜条件およびプログラム概要の策定時には、現場との調整を含めて1年弱の時間を費やしたという。


「我々の意図・思いを伝えることも大切ですが、現場を理解し、現場目線で会話することも非常に重要です。研修参加が現場にどのようなメリットをもたらすのか、参加した人財がどのように磨かれて帰ってくるのかを、丁寧に説明しようと心掛けました。結果として、各部門と良い協力体制を構築でき、最終的にプログラムの完遂にもつながったと思います」(大津氏)


経営人財育成への取り組みを進める一方で、トランスコスモスではAI時代を見据えた人財育成にも力を注いでいる。生成AIをはじめとするテクノロジーの進化によって、事業環境や働き方が大きく変化する中、同社は「経営視点を持つ人財」と「テクノロジーを活用できる人財」の双方を育成していく必要があると考えている。その実現に向けて、全正社員を対象としたAI人財育成を重要施策の一つとして位置付けている。


長崎氏が担当するAI人財育成プロジェクトでは、Microsoftが提供する「Copilot(コパイロット)」の利用環境を整備するとともに、階層別研修の中にAIに関するコンテンツを組み込み、昇格時に全社員がAIに触れ、等級に応じて活用できる環境づくりを進めている。役職別研修では、AI時代における管理職の役割についても学ぶ機会を設けている。


加えて、各部門で変革をけん引するエバンジェリストの育成も進めている。現場の課題を熟知し、自らAIを活用しながら業務改善を実践できる人財を発掘・育成することで、現場発の変革を加速させる狙いだ。エバンジェリストの公募にも多くの応募が寄せられており、現場の関心の高さがうかがえる。


長崎氏は、「管理職研修とAI人財育成の双方を通じて、社員一人一人が継続的に成長できる環境づくりを進めていきたい」と語る。また大津氏は、「経営塾をはじめとした各種施策を点ではなく線としてつなぎ、将来の経営を担う人財を継続的に輩出できる育成の仕組みを構築していきたい」と展望を語った。


経営視点を持つ人財の育成と、テクノロジーを活用できる人財の育成。その両輪を通じて、トランスコスモスは「People & Technology」の実現に向けた人財開発を進めている。


※「全社視点を持つ管理職を経営の『型』で育てる」はこちらからお読みいただけます。


トランスコスモス(株)

  • 所在地:東京都豊島区東池袋3-1-1 サンシャイン60
  • 創業:1966年
  • 代表者:代表取締役共同社長 牟田 正明、神谷 健志
  • 売上高:3938億6600万円(2026年3月期)
  • 従業員数:7万1683名(グループ合計、2026年3月末現在)