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ブランド力のメインビジュアル
経営メソッド
ブランド力

ブランド力とは、競合との差を生む「信頼」と「共感」の基盤である。
しかし、多くの企業がこの基盤を築くプロセスでつまずいている。
自社のアイデンティティーを一貫したメッセージで伝えられていないことが、その要因の一つだ。
ブランド構築のプロセスを「ブランドバリューチェーン」として体系化し、課題の所在を明らかにする手法を提示。
競合に差をつけるための信頼と共感の戦略を、理論と実践の両面から解説する。

経営メソッド 2025.11.19

タイヤから得られるデータで顧客企業を支援 ダンロップタイヤ

住友ゴムグループは、タイヤのパイオニアブランドとして130年以上の歴史を持つダンロップブランドを保有。
AIやIoTの進化に伴い、自動運転やMaaSなど世紀のモビリティー革命が起ころうとしている今、第一線でタイヤを販売してきたダンロップタイヤは、これまでの常識を脱ぎ捨て、「モノ売り」から「コト売り」へのパラダイムシフトに挑戦している。


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2024年問題の衝撃

2024年4月、「働き方改革関連法」によりトラックドライバーの時間外労働に上限が課され、物流・運送業界では人手不足が深刻化。それに加えて高齢化も相まって、トラックやバスなどの商用車にダンロップのタイヤを使用している顧客企業は、かつてないほど経営の荒波にさらされているという。


「これまで1人のドライバーが休憩を挟みながら運転していたトラックを、複数のドライバーが交代で運転するようになりました。タイヤをはじめ、車両の保守・点検・整備の責任が分散して曖昧あいまいになってしまうと大変危険です。当社では、これからもお客さまに安心して製品をお使いいただけるよう、単にタイヤを売るだけではなく、タイヤを通して顧客企業の経営そのものを支援するサービスを開発していこうと、ソリューションマーケティング部が中心となって開発を進めています」


そう語るのは、ダンロップタイヤのマーケティング本部ソリューションマーケティング部長の望月裕介氏だ。


ダンロップタイヤは、日本国内のタイヤ販売を担ってきた全国11社の販売会社と住友ゴム工業タイヤ国内リプレイス営業本部を統合し、2024年に「株式会社ダンロップタイヤ」として設立。リソースを集約して、各地域の顧客ニーズをきめ細かく吸い上げられる体制を整えた。


「多くのお客さまから寄せられたのは、『少しでもコストを削減したい』『ドライバーの業務を効率化して運転に専念させたい』という切実な声でした。


メンテナンス担当者の高齢化が進む一方、商用車のIoT化が急速に進んでおり、車両そのものが大きく変わりつつあるため、メンテナンス業務全般をアウトソーシングしたいというニーズも高まっています」(望月氏)


ビッグデータの活用によりブランドを磨く

そうした顧客ニーズに応えていくための最大の武器が、タイヤセンシング技術「SENSING CORE」だ。これは、親会社である住友ゴム工業が独自に開発したタイヤ空気圧低下警報装置「DWS」で培ってきた技術をさらに進化させたソフトウエアで、これをECU(自動車を電子制御するコンピューター)にインストールすれば、走行距離・タイヤの残りみぞ・タイヤ内の空気圧などさまざまな情報をリアルタイムに取得できる。


「タイヤから得られるビッグデータを活用すれば、燃費の向上や事故リスクの低減、タイヤの長寿命化などに寄与できます。これらのデータをかけ合わせてサービスを差別化していきたい」と、望月氏は展望を語る。


高品質のタイヤを売る「モノ売り」から、ビッグデータで顧客企業の経営をサポートする「コト売り」へ。時代の要請に応え、「ダンロップ」というブランドの価値をさらに高めていくためには、全国約350拠点の営業担当者一人一人が、これまでに培ってきた実践知をいったん手放し、新たな姿勢で顧客のニーズと向き合っていかなければならない。


同社において、企業向けに商用車用のタイヤ販売を担っているのはベテランの営業担当者で、年齢層も比較的高めだ。


全社を挙げて営業のパラダイムシフトを起こすには意志統一が最重要課題であるとして、同社では経営層と営業拠点長の対面研修をエリアごとに累計10回実施。近未来のモビリティー社会を支える先駆的な営業パーソンの育成に注力している。


「国内では今、隊列走行の自動運転の実現に向けた新しい車両の開発や、実証実験が進められています。それはつまり、社会における車の走り方や用途が一変するということです。100年に一度とも言われる時代の変革期にある今だからこそ、地域に根差した営業パーソンがお客さまとしっかりコミュニケーションを取り、信ぴょう性のあるデータをもとに支援サービスを提供していくことが大切だと考えています」(望月氏)


モノ売り営業への転換によりトークも一変

これまでのモノ売りの営業トークは、「何台車両を所有していますか?」など、タイヤの販売個数につながる問いかけが中心だったが、コト売りの営業トークにおいては、押えるべきポイントはまったく異なる。


現在は、「どのような荷物を頻繁に運んでいますか?」「どのようなルートを走っていますか?」「どのように車両を使用していますか?」など、車の使用状況をきめ細やかにヒアリングし、経費削減・業務効率化・安全管理・環境貢献につながる提案をしているという。


「近年は、環境に優しくコストも大幅に抑えられるリトレッドタイヤ(更生タイヤ)のニーズが増えていますが、タイヤを酷使しすぎると再利用できなくなり、むしろコストが上がってしまうため、普段の使用状況を正確に把握しておくことが重要となります。


タイヤは必要な強度が残っている限り、トレッド(路面と接触する部分)が摩耗してもその部分だけを新しくして使用を継続することが可能です。リトレッドタイヤは、トレッドが摩耗した段階で、十分な検査を行った上で必要な加修を行い、新しいトレッドゴムを加硫(弾力性や耐久性を向上させるゴムの製造工程)によって強固に接着させて製造するタイヤです。


一方、石油・ガス・化学薬品などの危険物を運んでいる場合は、日頃のブレーキの使い方次第で損傷のリスクがあるため、リトレッドタイヤではなく新品を勧めるなど、最適なタイヤの提案力を磨いていかなければなりません。


いずれにしても、ダンロップのタイヤから取得できるさまざまなデータには、お客さまの経営課題を解決できるヒントが含まれているのです」(望月氏)


(左から)ダンロップタイヤ マーケティング本部 ソリューションマーケティンググループ リーダー 田中 薫理氏、
マーケティング本部 ソリューションマーケティング 部長 望月 裕介氏、マーケティング本部 ソリューションマーケティンググループ リーダー 山本 幸多郎氏


ユースケースの蓄積が課題

ダンロップタイヤでは、2017年から「スマートタイヤコンセプト」と銘打ち、「センサーになるタイヤ」「路面や気温に応じてゴムの性質が変わるタイヤ」「性能が長持ちするタイヤ」「パンクしないタイヤ」「環境に優しいタイヤ」の商品開発に注力している。


同社は今後、ソリューションマーケティング部を中心に「最適なタイヤメンテナンス」のサービス開発を進め、スマートタイヤコンセプトの完成度を高めていく方針だ。


「これまでは技術をとがらせて商品の差別化を進めてきましたが、これからは取り外しやすさ、頑丈さなど基本的な性能をバランス良く充実させて、ソリューションサービスで差別化を図っていきたいと考えています。


主力となるサービスは、タイヤ購入とメンテナンスの費用をパッケージングした定額制サービス『エコスマートプラン』(【図表】)です。このサービスによりタイヤ関連費用の平準化を浸透させて、お客さまのキャッシュフロー改善に貢献したいと考えています。また、管理業務を一括して受託し、商用車のメンテナンス担当者が不在、もしくは足りないお客さまをサポートしていきたいです。将来的には、データやIoTサービスも含めたサブスクリプションプランに発展させていく方針です」(望月氏)


【図表】ダンロップタイヤが提供する「エコスマートプラン」 出所 : ダンロップタイヤ提供資料よりタナベコンサルティング戦略総合研究所作成

実現に向けては、顧客企業からPoC(新サービスの効果検証)への協力を得て、データを活用したソリューションのビジネスモデルを確立する必要がある。


目下、事業計画の立案に取り組んでいるマーケティング本部ソリューションマーケティンググループのリーダーである山本幸多郎氏は、「5年以内をめどに、1件でも多くのユースケース(使用事例)をつくって広く発信していく体制を整えたいです」と話す。


また、サービス開発を担当している田中薫理氏は、「データ活用のユースケースを増やしていければ、設計部隊にもフィードバックすることで商品力のさらなるブラッシュアップにつながります。他社の追随を許さない当社独自のコア技術を広く社会に普及させるためにも、マーケットインのマーケティングでブランドの付加価値を高めていく必要があります」と続ける。


ソリューションマーケティング部のメンバー7名は、望月氏を筆頭に海外での営業経験も豊富だ。「日本国内でスマートタイヤコンセプトに基づくサービスが軌道に乗れば、長期的には海外への横展開も期待できる」と、望月氏は未来の展望を語る。


住友ゴム工業 (株)

  • 創業 : 1909年
  • 代表 : 代表取締役社長 山本 悟
  • 所在地 : 兵庫県神戸市中央区脇浜町3-6-9
  • 売上高 : 1兆2118億5600万円(2024年12月期)
  • 従業員数 : 3万7995名(2024年12月)


(株)ダンロップタイヤ

  • 設立 : 2024年
  • 代表 : 代表取締役社長 河瀬 二朗
  • 所在地 : 東京都江東区豊洲3-3-3 豊洲センタービル