•  
AI時代への向き合い方のメインビジュアル
経営メソッド
AI時代への向き合い方

AI技術の飛躍的な進化は、企業経営に新たな可能性をもたらす一方で、活用企業と未活用企業の間で競争力の二極化が起こっている。
AIを単なる効率化ツールではなく、競争力を高めるための戦略的資源と捉え、付加価値創造と生産性向上を両立させることが自社革新の鍵となる。
AI時代の経営戦略を構築し、未来への第一歩を踏み出すためのメソッドを提言する。

経営メソッド 2026.01.30

成否のカギはAI設計者のインタビュースキルと実装力 JAPAN AI

AIの専門知識を持たない企業が、自社特有の業務やルールにフィットするAIエージェントを主体的に開発できるように支援を行うJAPAN AI。顧客を囲い込み、容赦なく値上げするサブスク型のソフトウエアサービスとは一線を画し、収益率の向上につながるAIソリューションを提供している。


JAPAN AI 代表取締役、ジーニー 代表取締役 代表執行役員 工藤 智昭氏

JAPAN AI 代表取締役、ジーニー 代表取締役 代表執行役員 工藤 智昭氏



AIの精度が低いと手間がかかる

JAPAN AIは、2023年4月に設立したテクノロジー企業だ。代表取締役である工藤智昭氏は2006年にAIを使い始め、技術進化の動向をつぶさに追ってきた。JAPAN AIに先立ち2010年に設立したジーニーでは、ウェブサイトやアプリに最適な広告を自動で表示させる技術「アドテクノロジー」を起点として、総合的なマーケティングのクラウドサービスを提供し、1万社を超えるネットメディアや広告主の信頼を獲得。2017年にマザーズ(現・東証グロース)上場を果たして事業の基盤を確立した。


JAPAN AIでは、ジーニーで磨き上げてきた技術力とコンサルティング力を全投入してプロダクトを開発している。これまで公式にリリースしたAIエージェントは100種類以上。実際に導入した企業からは、議事録・契約書・コンテンツの作成、顧客からの問い合わせ対応、営業の管理など、膨大な労力と時間を費やしてきた数々の業務が「拍子抜けするほど短時間で対応できるようになった」と驚きの声が寄せられている(【図表】)。反響の大きさは、2024年3月期比600%となった2025年3月期の売上高が雄弁に物語っている。


【図表】JAPAN AIで構築できるエージェント(営業エージェント)の例

【図表】JAPAN AIで構築できるエージェント(営業エージェント)の例

出所 : JAPAN AI公式サイトよりタナベコンサルティング戦略総合研究所作成


「プロダクトづくりにこだわりを持ち、全社員が総力を上げて取り組んでいます」


そう語る工藤氏が注力してきたのは、AIエージェントの品質を決定付けるRAGの精度だ。RAGとは、「ChatGPT」「Gemini(ジェミニ)」「Claude(クロード)」など大規模言語モデルが学習したデータだけを根拠に回答を生成するのではなく、大規模言語モデルとは切り離された社内文書などの固有データも参照した上で、自社特有の業務やルールにのっとった回答を生成する技術である。


JAPAN AIが独自開発したRAGは、①予算規模や用途に応じて最適な大規模言語モデルに切り替えられる、②テキストだけではなく図面・写真・グラフ・音声なども参照して総合的に理解できる(マルチモーダル機能)、③データ同士の関係性を踏まえて検索できるなどの特長がある。


「せっかくAIを導入しても、生成された回答が不正確・不適切だと余計に手間がかかります。ユーザーが働いている現場の実態に即した回答でなければ、使う意味がありません。当社のRAGは、例えば社内のマニュアル、図面やカタログなどの画像、カスタマーセンターの過去の音声記録なども読み込んで理解できますし、各部署・各ポジションの複雑な関係性まで理解した上で最適なデータを生成してくれます。あらゆる業務に合わせて使い分けられるという点で、高い評価をいただいています」(工藤氏)


懸念されるのはセキュリティー面だ。社内データの流出や悪用のリスクはどのように防いでいるのだろうか。


「ISMSという厳格な国際規格に適合した情報資産の管理体制を整え、認証を受けています。社外秘の機密データを全世界に開かれた大規模言語モデルに誤って学習させないよう、事前に検知するアラート機能を備えているため、エンタープライズ企業にも多数利用されています。機密データは参照してほしい時だけAIに渡して、利用後は忘れてもらう。つまり、大規模言語モデル側からは機密データを一切参照できず、学習もできない仕組みにしてあるのです」(工藤氏)


JAPAN AIの急速な成長は、独自開発したRAGの精度とセキュリティーの高さにある。



一緒に手を動かして半日で実装

しかし、AIに詳しい人材が社内にいなければ、導入には慎重にならざるを得ない。右も左も分からない企業は何から始めれば良いのか。その解決策として、JAPAN AIは「フェイス・トゥ・フェイス」のコミュニケーションで、伴走型のサービス提供を行っている。


「当社の場合は、AI案件の実務経験が豊富なコンサルタントとエンジニアがお客さま企業のオフィスに赴き、対面でディスカッションしながら同時に手を動かして、その場でAIエージェントを作成していきます。その方が圧倒的に速く構築できるのです。


ビル管理会社の依頼を例に挙げると、ベテランの営業担当者や法務担当者に聞かなければ分からなかった契約書の作成方法をアドバイスするAIエージェントを、半日足らずで実装しました。また、大型観光施設を運営する会社の依頼を受けて、お客さまからの問い合わせデータを過去数年分AIに連携し、新たな問い合わせに対して最適な回答を瞬時に生成できる仕組みも、ヒアリングしながら半日程度で構築しました。このぐらいの規模の業務改善であれば、総額40〜50万円あれば2カ月程度で達成できます」(工藤氏)


工藤氏によると、先に大きな構想を描いて社内基盤全体にAIを組み込むケースもあるが、ほとんどの企業は部署やチーム単位で行っていた定型業務をAIに任せるところからスタートしている。


ある広告代理店では、広告主向け分析リポートの作成と広告運用のPDCA管理を実行してくれるAIエージェントを作成したところ、従業員数を増やすことなく売り上げが1.5倍に増えたという。生成AIは今や「聞いたら答えてくれる」だけの存在ではない。「提案して次の行動(書類作成など)」をすることまでできるのだ。


とはいえ、AI業界は進化が激しく、どの企業に依頼すべきか迷っている企業も少なくないと工藤氏は分析する。ソフトウエアの利用料が高騰し、デジタル赤字に頭を悩ませている企業や、サービスの囲い込みに辟易へきえきしている企業も少なくない。


「AI開発の生産性は近年目覚ましく向上しており、もう多額の費用をかけなくても短期間でソフトウエアやアプリケーションを手軽に作れる段階に入っています。今後はますます内製化が進み、自社でAIエージェントを作成することが主流になるでしょう。顧客を囲い込み、メンテナンスのたびに費用を請求するようなビジネスモデルは通用しない時代になったと思います。委託先を選別するポイントは、AI技術の最先端にキャッチアップしていて、しっかりと高いパフォーマンスを出せるかどうかだと思います」(工藤氏)



人の仕事は「問う」「引き出す」「調整する」

一方、AIを導入することで人の仕事が奪われてしまうのではないか、社員や取引先の切り捨てにつながってしまうのではないかという不安も根強い。この先さらにAIが進化したとしても「人でなければできない仕事」とは何なのか。


「人と対面して深くインタビューする役割は、今後も人間が担っていくと考えています。AIの『参照元』となる社内の知見は、人と人の対話によって引き出さなければならないからです。問いをどのように設計するか、人と人との関係性をどのようなロジックで捉えてマッチングするかなど、AIエージェントの設計に当たっては、正論だけでは割り切れない心の機微を理解した人間が調整しなければ、うまく機能しない部分があると思っています」(工藤氏)


人と人との関係性のロジックとは、企業が大切にしているビジネスのスタンス、企業理念に通じるものだ。場面ごとで無意識に下している価値判断や柔軟な調整を、いかにロジックとしてAIに落とし込んでいけるかが鍵となる。だからこそ、導入先の企業に直接足を運び、経験豊富な担当者とディスカッションを重ねてつくり上げる伴走支援に力を入れていると工藤氏は語る。


「労働力人口が増えている新興国では人手余りが問題になるかもしれませんが、日本は余るほど人がいません。採用、営業、カスタマーセンターなど、あらゆる部門で業務プロセスの自動化を進めれば、足りていない人手を補えるでしょう。経営層が危機感を持ち、AIに詳しい若手を応援して、トップダウン・ボトムアップの両方からAIの社内浸透を推進していく環境をつくれると理想的です。


導入に当たっては、プロジェクトチームを立ち上げ、リーダーに『この業務もAIにやってもらえたら良いな』という声が各部署から集まりやすい体制を整えると良いと思います。当社は、社員や取引先を切り捨てるためではなく、売り上げを伸ばして社員や取引先とともに長期的な成長を実現していくために、AIを活用していただきたいと考えています」(工藤氏)


JAPAN AIは、社名の通り、日本の企業やエコシステムに特化したソリューションの開発に力を入れている。今後は少人数の会社を支援するプロダクトも提供していく方針だ。


「北海道から沖縄まで、地域ごとに業務のノウハウも伝統もまったく違う会社が存在するのが日本の良いところ。その魅力は、やはり地域の小さな企業が生み出していると思うのです」(工藤氏)


同社が掲げるパーパスは「AIで持続可能な未来の社会を創る」。AIで地域に貢献したい、日本に貢献したいという思いを持った社員が、フットワーク軽くプロダクトの開発・実装を全国各地で進めている。


「地域に根を張る日本企業にとって、いつでも気軽に質問できる存在となり、日本から世界展開できるテクノロジー企業を目指します」(工藤氏)


AIを操作している図

JAPAN AI(株)

  • 設立 : 2023年
  • 代表 : 代表取締役 工藤 智昭
  • 所在地 : 東京都新宿区新宿6-8-1 住友不動産新宿オークタワー5/6階