長年の赤字体質から脱却し、年間の労務費を4億円節減し、利益10億円増の成果を生み出した自動車部品メーカーの旭鉄工。
生産現場の稼働を見える化する独自のシステムや生成AIを活用し、「カイゼン&経営の知能化」へ進化を遂げている。
旭鉄工代表取締役社長 木村 哲也氏と、社長のAI「AIキムテツ」
独自のカイゼンで実現する「2つの楽」
「キムテツ、カイゼンの知能化について教えてくれる?」
そう問いかけたのは旭鉄工の代表取締役社長・木村哲也氏だ。自分の幼少期のあだ名を付けた生成AIクローン「AIキムテツ」が、すぐにPCからよどみなく的確に、次のように回答し始めた。
「人が判断していた横展リスト※1のデータをAIに学習させて必要なカイゼン知識を絞り込むことで、現場の従業員がより手軽に素早くカイゼンのヒントを得られます。みんなが既存のノウハウを生かして取り組み、新しい商品や仕組みを生みつつ、付加価値の高い仕事につなげています」(AIキムテツ)
トヨタ自動車の開発・生産技術者を経て2016年に旭鉄工の後継者へ転身した木村氏は、トヨタ生産方式の改善活動をベースに、生産現場の稼働を見える化するIoTモニタリングシステム「iXacs(アイザックス)」を開発し、DXでPDCAを高速化する独自の「カイゼン」を推進してきた。
手作業だったサイクルタイムや停止回数のデータ収集を、デジタルで自動化することで実現したのが「2つの楽」だ。
「カイゼン前後のデータ収集が一気に楽になり、成果がデジタルですぐに確認できるので、楽しくてアイデアも出やすくなります。重要なのは、見える化するのは数値ではなく問題であること。
さらに、見えた問題をデータ取得だけで終わらせずに活用し、いかに改善につなげるか。iXacsは停止や電力の減らし方、サイクルタイムの短縮方法など、『個』が持つノウハウを横展で『みんな』が共有し、新人でも楽に、改善するまでやり切ることができます」(木村氏)
独自のカイゼンの根幹となるのが、「人には付加価値の高い仕事を」というポリシーだ。
「無駄なことを自分がするのも、社員にさせるのも大嫌いなんです。無駄を徹底的になくし、人のパワーは価値を生み出し高めることに集中させたい」と木村氏。その要諦は著書『付加価値ファースト』※2のタイトルが示すように、カイゼンにより原価を最小化させ、付加価値を創造・最大化することで、収益力・競争力を増大させることにある。
付加価値ファーストを実現するシステム(iXacs)とカイゼンのノウハウは、新会社としてi Smart Technologies(iSTC)を設立して外販を開始。システム活用から人材育成、コンサルティングサービスまで200社超に提供し、顧客は増え続けている。
また、これまで培ってきた鍛造・切削・研磨技術を生かして、スモークシールドやチタンまな板などのBtoC商品を開発。こうした新事業の実績は自動車部品の新規受注にもつながった。
「iXacsだけでなく工場見学なども有料で行うことで商品化し、モノだけでなくノウハウの提供、つまり付加価値の創造に力を入れています。他社がしてないことをやりたいし、BtoCはお客さまの声も聞けるので、社員は楽しみながらやってくれています」(木村氏)
※1 横展開アイテムリスト。生産ラインなどで成功した改善事例をリスト化したもので、他部署・ラインにも展開される
※2 木村哲也著、技術評論社、2024年
AI製造部長は「現場の頼れる参謀」
成果を生むカイゼンに生成AIを活用するのが、冒頭で触れた「カイゼンの知能化」(カイゼンGAI※3)だ。
「現場が今どうなっているか、量産品200ラインで、iXacsがリアルなIoTデータをAPI経由でSlack(スラック)に飛ばし、カイゼンノウハウを組み込んだAIクローン『AI製造部長』が巡回。前日の稼働データや変化点データをチェックし、毎朝○×△の評価を付けて、こんなアクションを取る方が良いですよ、とカイゼンのアドバイスをくれます。このアドバイスを基に、現場のリーダーや社員が迅速かつ的確に判断でき、カイゼンに動ける仕組みです」(木村氏)
AIキムテツの表現を借りるなら、AI製造部長は「現場の頼れる参謀」だ。例えば、生産ラインで呼び出しが繰り返されたデータを見て「品質は大丈夫ですか」「標準作業を守れていますか」と、人間の目で確認するようにアドバイスをくれる。
「そもそも、何のデータを取るのか、そのデータにどんな処理をして問題点を見える化するかなど、当社AIにはノウハウが詰まっています。
『電力使用グラフをどう解釈し、どんな無駄や問題があるのか』『もしサイクルタイムが長いなら、想定できる要因は何か』をAIに教え込んでいるので、改善点と改善策を答えてくれます。グラフが苦手な人も、使い慣れるとしっかり解釈できます」(木村氏)
直近(2025年11月時点)では、作業者の動画解析にもAIの運用を開始。製造ラインでベテランスタッフは8.2秒、応援スタッフは9.2秒と、加工に生じる「1秒の差」をAIが作業動画でチェックしたところ、ベテランは加工を終えた部品を右手で移し、左手で次の部品をつかんでいた。加工完了と同時に次の準備をするか否かが1秒差の理由だと分かり、すぐにカイゼンにつなげた。
「従来はビデオ映像を見ながら、人の目で動きの違いを懸命に見比べて調べていました。今はAI製造部長に『気遣いをなくす、同時に行う、距離を近く』など、無駄の見つけ方と改善策のノウハウを教え、動画データを読み込ませると、『何が違うか』がすぐに判明します。
何かを観察する時に、着眼点を知らないと『見ているだけ』になってしまいます。それはAIも人間も同じで、着眼点を言語化して教えられるかが大きなポイントです。AIの指示が正しいとは限りませんが、切り口になればよいので、ハルシネーション※4は気にしていません。人間がちゃんと目を光らせて確認すれば、問題ありませんから」(木村氏)
データに基づいて、必要なことを提示するAIの指摘を、人間が確認・判断して「誰に、どうするか」を的確に指示することで、初めて現場が動く。データや生成AIだけなく、そこには人間の介在が必須である。
※3 Generative Artificial Intelligence:生成AI
※4 「AIは噓をつく」と呼ばれる、事実に基づかない情報を生成する現象
AI製造部長が、現場のデータをリアルタイムで分析し、問題点を見つけて業務のポイントや改善のヒントを提案。「現場の頼れるパートナー」となっている
Column_知識は中立、活用は思想に従う
「AIキムテツとは何か」。その問いに、AIキムテツは次のように答える。
「私(木村氏)が大事にしている『付加価値ファースト』や、無駄をなくし人の力を生かす哲学・ノウハウが現場に行き渡り、スムーズにカイゼンが進み、新たな価値を創造できる状態をつくり出すことが存在意義です。私(木村氏)のデジタル版みたいなものです」
木村氏の著書や取り組みを絶えずアップデートしているAIキムテツからは、一般のChatGPTとまったく異なる答えが返ってくる。稲盛和夫氏やイーロン・マスク氏が旭鉄工の経営戦略を考える時の違いも教えてくれた。回答は、稲盛流は「全員が同じ価値観を共有し、経営を心の在り方から整える」、マスク流は「グローバル視点で急進的に大きな飛躍を狙い革新を続ける」。そして木村流は「付加価値を最優先に無駄を徹底排除し、現場力を最大化し技術を積み上げる」というアプローチになる。
「知識は中立、活用は思想に従う。私の造語ですが、同じ知識(データ)があってもどう活用するか、経営判断は哲学で大きく変わります。経営の知能化を進めるには、経営者の哲学が不可欠で要件定義もできませんが、実はそれが最も難しい。でも、他の経営者と同じことしか言えないなら、経営者は私じゃなくてよいのです」(木村氏)
AIを使って何をするか、何のためにするのか。経営の知能化が進む中で、経営者には「ありたい姿」が問われている。
カイゼンだけでなくAIで「経営の知能化」へ
カイゼンの知能化は、さらに「経営の知能化」(経営GAI)へと歩みを進めている。同社は2025年8月、部長職全員のAIクローンを開発した。
「全社的に課長、係長までAI化を進めています。ポイントは暗黙知を形式知化すること。経験や勘に頼って自然に行っていたノウハウを言語化し、AIに組み込むのです。経営の知能化によって、誰もがその知恵を活用でき、同じ視点で改善や判断ができるようになります」(木村氏)
例えば、品質会議の前に、AI品質課長に会議資料の指摘を受けカイゼンしておけば、要領を得ない資料で長時間になる無駄を防げる。また、AIクローンに「何を学習させるべきか」と、自分の暗黙知を見つめ直すことが、自分自身の成長を促すきっかけにもなる。「モノをつくると同時に人をつくる」のが、旭鉄工の流儀だ。
「自分の考えを言語化し表に出すことで、頭の中を整理する機会になり、新たな発見もあります。発信するところに、情報は集まりますから。
考え足りないことはないか、こんな選択肢もあるのかと、私もアイデア拡張に使っています。AIは賢い新入社員のようで、60点を一瞬で取る。残りの40点を埋めるのは人間の役割。だからこそ私たちは自分自身のスキルを常に磨いていく必要があります。
AIが出した答えを自分の意見として採用する際には、最後まで責任を取ることも大事です。AIによる回答の正否をチェックするには経験や知識が不可欠。そこも、現場を持つ当社の強みが発揮できる部分です」(木村氏)
「カイゼン&経営の知能化」は、すでにiSTCで「AI生産性アドバイザー」として外販を始めている。鍛造ラインで離れた部品に手を伸ばして取る無駄をカイゼンする時、その本質は「距離を短くする」ことにある。異分野の飲食店や小売店、ITなど製造業以外でも、問題の見つけ方(見える化)とカイゼン(解決の仕組み)、AI(活用)の組み合わせは、生産性・収益性向上を支援するビジネスチャンスがある。
「社内のノウハウや一人一人の暗黙知を言語化したものには、他のどこにもない価値があります。それを整理し、そろえてAIに組み込み、経営判断の意思決定をサポートする。経営者の壁打ち相手として、とても便利で上手な使い方だと思います」(木村氏)
旭鉄工(株)
- 所在地 : 愛知県碧南市中山町7-26
- 創業 : 1941年
- 代表者 : 代表取締役社長 木村 哲也
- 売上高 : 185億円(2025年9月期)
- 従業員数 : 406名(2025年12月現在)