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経営メソッド
行政と経営のパラダイムシフト

行政支援は今、「誰一人取り残さない」支援から、成長志向企業を重点的に後押しする方向へ転換しつつある。本特集では、このパラダイムシフトが企業成長や地域活性化に与える影響を探るとともに、100億宣言や支援機関支援、グループ化支援、自治体施策など新たな行政支援を活用し、成長へ挑む企業に迫る。

経営メソッド 2026.09.30

現場の痛みから生まれた選別ロボットと「100億」への挑戦 ウエノテックス

リサイクル処理の現場が抱える過酷さを社長自ら体験し、独自の製品開発を行うウエノテックス。行政の伴走支援や「100ゼミ」での学びを生かし、組織変革に取り組む代表取締役の上野光陽氏と専務取締役の楠秀樹氏に話を伺った。


ウエノテックス 専務取締役 楠 秀樹氏(左)、代表取締役 上野 光陽氏(右)

ウエノテックス 専務取締役 楠 秀樹氏(左)、代表取締役 上野 光陽氏(右)



属人的な選別作業を自動化「4K」現場の変革

新潟県上越市に拠点を構えるウエノテックス。廃棄物の選別ロボット開発では、深層学習と近赤外線技術を組み合わせた独自のAI認識技術を武器に、静脈産業のICT化をリードしている。


同社が環境・リサイクル事業に参入したのは1998年のことだ。鉄工所を祖業とする同社では、クレーンなどの産業機械の製造を中心に、顧客の要望に応えて事業を展開してきた。リサイクル事業へ参入したきっかけも、「廃棄物処理の破砕機を造ってほしい」という顧客からの製造依頼だった。現在では環境・リサイクル部門が売り上げの約7割を占め、1軸・2軸破砕機では全国的にもトップシェアを誇る。


そうした中、リサイクル作業の工程を俯瞰ふかんした代表取締役の上野光陽氏の気付きが、新たな製品の開発につながった。


例えば、建築現場から排出される建築ガラには、コンクリートや木材、プラスチックなどさまざまな素材が含まれる。そのままでは廃棄やリサイクルができないため、破砕した後に作業員が目視で選別作業を行うが、汚れが付着したガラは「木材」なのか「木目調のプラスチック」なのか一見して識別が困難だ。上野氏はこの選別作業を実際に体験し、1時間で音を上げたという。


「粉じんと暑さの中、集中力が続きませんでした。廃棄物のリサイクルはこうした作業を担う人たちに支えられていますが、動脈産業のメーカー工場と比べ、静脈産業であるリサイクル業界は高度化されていません。環境を支えるインフラでありながら、人手不足の課題も抱えています。私はリサイクル産業におけるきつい・汚い・危険・臭い『4K』の労働環境から、1つでも『K』を減らしたいと思いました」(上野氏)


上野氏の思いは選別作業の自動化の原点となった。大学の後輩と共に、システム開発を手掛けるRita Technology(リタテクノロジー)を創業。深層学習によるAIの識別技術を開発した。


廃棄物の選別作業の現場ではさまざまな素材のものが、時には重なり合った状態で識別装置の前に送られてくる。その中には木目調のプラスチックのように見た目で素材が判別しづらいものもあり、一般的なRGBカラー画像だけではAIの判定に限界があった。


そこで上野氏は、可視光ではない近赤外線を物質に照射し、跳ね返る反射光からその物性を判定する技術で課題を解決した。


2019年には、センサーカメラを通じてAIが認識した対象物を、ロボットが自動で取り分ける全自動選別ロボット「URANOS(ウラノス)」を完成させた。


さらに、廃棄物にプロジェクションマッピングで色分けし、選別作業を支援する「ELENA(エレナ)」を開発。AIによる判別結果を基に、コンベヤー上を流れる廃棄物に色を投影することによって、経験によらず容易に選別作業を行えるようになった。



「100億宣言」と行政支援で見えた目標

ウエノテックスは、中小企業庁が推進する成長促進プログラムである「100億宣言」に参加し、「2034年度に売上高104億円達成」の目標を宣言している。背景には、静脈産業の省人化、無人化を目指す「スマートファクトリー構想」がある。


当初はロボットを導入すればある程度実現に近づくと考えていたが、実際に取り組む中で、ロボットだけでは不十分であることが分かってきた。破砕物を安定して平らに流すための安定供給装置や、比重によって破砕物を仕分ける装置など、ロボットの前後を支える周辺技術が不可欠なのだ。こうした装置群の開発は、これまでの自社の製造力やエンジニアリング力だけでは到底達成し得ない規模だった。


「100億宣言の背景には、売上高100億円を目指すよりも、技術的な必然性を突き詰めることがありました。その結果として、100億という目標が見えてきたのです」(上野氏)


実は100億宣言に先立ち、同社はすでに独自の目標である「ウエノテックスビジョン2030」を掲げていた。しかし、上野氏はこのビジョンだけでは目標を達成し得ないと感じたという。そこで、100億宣言を起点にビジョンを見直し、宣言の実現に向けてブラッシュアップを図っている。


こうした取り組みに対し、専務取締役の楠秀樹氏は次のように語る。「100億宣言自体が当社のビジョンの役割を果たしています。このビジョンに向けて組織変革を進め、一人一人がミッションを持つことによって100億を実現したい。人任せにせず、おのおのの社員がビジョンに共感できるようにしたいと考えています」


行政支援も、同社の挑戦を後押しする。特に技術面でのサポートは大きく、新潟県工業技術総合研究所が大きな役割を果たしている。


「われわれにはない技術やリソースについて、伴走支援をしていただきました。自社単独では時間がかかり、新たな投資も必要です。当社に不足している技術的リソースの支援やプロジェクトの進め方についても学びがありました」(上野氏)


3D空間上での流体シミュレーションや、刃物の材質・熱処理といった、自社だけでは得られなかった技術的なサポートは、製品開発に大きく寄与したという。また、財務面では、より付加価値の高い工作機械の導入に当たって「事業再構築補助金」を活用したほか、海外展示会への出展支援制度も活用している。2025年には、100億宣言企業を対象にした関東経済産業局独自の研修会「100ゼミ」にも参加した。


「当社と同規模ながら、さらに上を目指している他社の方々との交流はとても刺激になりました。プログラムの一環で、山梨県の企業を訪問した時は、快適な更衣室や洗面所など社員ファーストの工場に感銘を受けました」(楠氏)


上野氏は、関東経済産業局の今後の施策にも大きな期待を寄せている。「100億宣言のイベントを一過性にせず、継続的に実施してほしいです」(上野氏)


ウエノテックスが開発したAI搭載自動選別ロボット「URANOS」(上)と、AI廃棄物選別支援システム「ELENA」(下)。ELENAでは、AIが廃棄物の形状を認識し、プロジェクションマッピングとして投影。廃棄物を視覚的に色分けして選別作業を補助するだけでなく、人の目では分からない塩素の含有率なども認識できる

ウエノテックスが開発したAI搭載自動選別ロボット「URANOS」(上)と、AI廃棄物選別支援システム「ELENA」(下)。ELENAでは、AIが廃棄物の形状を認識し、プロジェクションマッピングとして投影。廃棄物を視覚的に色分けして選別作業を補助するだけでなく、人の目では分からない塩素の含有率なども認識できる



デジタル技術が切り開く静脈産業の未来

ウエノテックスが見据える次のステージは、さらなる事業領域の拡張だ。同社は今後5年で東南アジアでの事業展開を目指し、パートナー探しを進めている。


社内に視線を転じると、DXも着実に進む。2025年10月にスタートした「UDX(ウエノテックスDX)」では、社内プロセスの見直しに着手。生成AIの活用も日常業務に根付いており、楠氏は「生成AIを毎日のように活用しています。未来を創造する上で、生成AIの活用は必須だと感じています」と語る。


ウエノテックスの廃棄物の識別技術は、他産業への応用可能性を秘める核心技術でもある。


「漁港では魚の仕分けをしている方がいますが、こうした人手による作業を自動化できる可能性があります。また、現在は市場流通のサイズを満たさず廃棄される水産品でも、その内容や量をデータ化できれば、新たな活用方法を生み出しやすくなります」(上野氏)


さらに、同社ではデジタルツイン技術を活用した仮想空間上で、工場のプラント構成やコスト算出、産出量をシミュレーションする取り組みも進めている。廃棄物の投入量や選別されたリサイクル素材の産出量を知ることができれば、コストと収益の見通しが立ち、リサイクル工場は「利益を生み出す生産拠点」へと変わり得る。廃棄物の回収やリサイクル素材出荷のタイミングなど、川上から川下へサプライチェーンが最適化された静脈産業を実現できれば、産業そのものの価値転換につながる。


また、オペレーターが遠隔操作でロボットを動かす仕組みは、リモート選別作業を実現できるだけでなく、遠隔地での人材採用や障害者雇用の機会創出も視野に入る。


実際のロボットを使ったeスポーツイベントも、同社らしい発想だ。参加者は実機ロボットを遠隔操作し、廃棄物を選別してそのスピードと正確さを競う。ゲーム感覚で楽しい仕事になるように、との上野氏の思いがこもった取り組みである。


さまざまなアイデアを生み出すウエノテックスは今、自らの意志で成長を志向し、新たな価値創出のステージへと向かっている。


2026年に新設した第三工場の組立・塗装棟には、出荷前の製品が並ぶ。同工場敷地内には、主力製品である破砕機のショールームとテスト場を兼ねた「技術開発センター」もある

2026年に新設した第三工場の組立・塗装棟には、出荷前の製品が並ぶ。同工場敷地内には、主力製品である破砕機のショールームとテスト場を兼ねた「技術開発センター」もある


ウエノテックス(株)

  • 所在地:新潟県上越市柿崎区柿崎7396-10
  • 設立:1965年
  • 代表者:代表取締役 上野 光陽
  • 売上高:51億円(2026年9月期)
  • 従業員数:137名(2026年9月現在)