高度な切削加工技術に強みを持つウラノは、「100億宣言」のもと2033年に売上高105億円達成を目指す。次のステージに向けた取り組みについて、取締役副社長で経営企画・人事・財務・総務・IT担当の秋葉哲氏に話を伺った。
ウラノ 取締役副社長 経営企画・人事・財務・総務・IT担当 秋葉 哲氏
成長領域に特化したウラノ
370兆円が動く成長領域として高市政権が打ち出した戦略17分野には、「AI・半導体」「航空・宇宙」産業が含まれる。1950年に創業したウラノの核心技術は「削り」だ。同社ではチタンやインコネル(耐熱性、耐蝕性などに優れたニッケル・クロム系合金)といった難削材を1000分の1ミリの高精度で切削加工し、半導体産業や航空機産業に不可欠な部品を製造している。
難削材とは、切削が難しく加工精度に影響を与えやすい金属材料だ。切削時の抵抗が大きいため、振動や精度のばらつきが起きやすい。加工時の熱が逃げにくく、工具の刃先の摩耗も大きい。
同社ではこうした金属を、複合5軸マシニングセンター46台を含む合計139台のマシニングセンターで加工している。航空機産業と半導体産業を主軸とし、航空機産業向けには「JIS Q 9100」(航空・宇宙・防衛産業に特化した品質マネジメントシステムに関する国際規格)認証のもと、高品質な製品を製造し、需要の変動が激しい半導体産業に対してはフレキシブルな製造体制を実現している。
同社が掲げる経営理念は「自立共存」だ。そのエッセンスは自らを高めつつ、顧客、取引先、社員、地域社会などのステークホルダー全体の価値を高め合い、社会への還元を目指すことにある。2025年1月にウラノに入社した、取締役副社長で経営企画・人事・財務・総務・ITを担当する秋葉哲氏は、次のように語る。
「自立共存の現実化が必要でした。着任当時の課題はガバナンス構築と人事組織の評価制度。60期、61期、62期と3期連続で赤字を計上する中、中小企業庁が推進する『100億宣言』によって2033年の売上高目標を105億円に設定しましたが、宣言後に半導体を中心に市場が想定外に伸長した結果、2030年前後には達成できる可能性も出てきています。その実現のためには、足元を固める必要がありました。
まず、当時は本社と長崎工場のおのおので意思決定が行われていたため、決議・報告事項を経営アジェンダとして扱う経営会議を新設し、権限規程や年間スケジュールを整えて運用を開始しました。また、当社の売り上げは半導体市場に大きく依存しており、その影響を最小化する必要がありました。トップラインの売上高が大きく波を打ちながらも、ボトムラインでは波動を吸収して利益を確保できる経営体制、コストコントロールが不可欠でした」(秋葉氏)
コストコントロールでは、予算統制と個別の原価管理に課題を抱えていた。詳細な製造原価の把握を基に目標マージン率を立てながら顧客と価格の交渉をしていくという一連の売価政策、営業戦略をルーティン化することで、競争力のある組織づくりが求められていた。
一方、2024年からスタートした新人事制度は機能面で課題があった。「評価指標が統一されず、社員の表情はさえなかった」と、秋葉氏は続ける。また、社是や経営理念はありつつも、どのような人材を欲しているのか、人材ビジョンと人材マネジメント方針の明確化が必要だった。
そこで同社は、ウラノの礎である「自立」「共存」の精神を大切に継承しつつ、次なる成長を見据えて新たに「挑戦」という要素を組み込んだ。策定した人材ビジョンは、「自立した個が、互いの技術と思いやりで力を高め合い、現状に満足せず新しい挑戦を重ねることで、ものづくりを通じて顧客・社会・未来に安全と安心の価値を届ける」。この人材ビジョンを体現する人材の採用が求められていたのだ。秋葉氏は、自身が学生時代に取り組んだ演劇にたとえ、人事制度を次のように語る。
「人事制度はいわば舞台装置です。社員が主人公として自分自身を演じることが最も大切。社是や経営理念は演出家であり、人事担当は裏方の舞台監督や照明係として、社員が主人公として自分の言葉で満足に演技をしてもらうための役割を担います。お客さまやお取引先、社員からカーテンコールの拍手をいただける土壌をつくることが理想です」(秋葉氏)
行政支援を得て進める経営基盤の確立と課題解決
2033年に売上高105億円を目指す100億宣言への参加は、当時の代表取締役社長・小林正伸氏(現代表取締役会長)が、経済産業省関東経済産業局から声を掛けられたことがきっかけだった。100億宣言の取り組みの一つである「売上高100億円を本気で目指すゼミナール」(以降、100ゼミ)には、2025年春以降、現社長の小林正樹氏と秋葉氏が参加している。秋葉氏は100ゼミに参加することで、さまざまな知見を得られたという。
「トライ&エラーを重ねる先進的企業やM&Aの巧者、国際戦略を軌道に乗せた中小企業の事例を知ることができました。また、100ゼミでは、若手経営者がAIやITを活用し、積極果敢にリスクを取っていく攻めの経営姿勢が極めて印象的でした。100ゼミに参加し、他社の取り組みに触れ、工場見学に参加することで多くの示唆を得ることができました。また、企業の垣根を超えた人的ネットワークが広がりました。今でも100ゼミ1期生のOB同士でつながりがあります」(秋葉氏)
自治体の支援についても利活用が進む。群馬県や伊勢崎市からはさまざまな情報提供やネットワークづくりの機会提供があった。群馬工場では県庁の省エネ診断をし、長崎工場では「ものづくり補助金」を活用している。一方で大変だったのは、補助金申請時の書類準備の負担の大きさだった。
100億宣言では売上高の達成を目指しているが、「半導体市場の活況により当初の予定より前倒しで達成する可能性がある」と語る秋葉氏。一方で、楽観論にはくぎを刺す。
「瞬間的に売上高は上がっていますが、半導体市場はボラティリティー(変動性)が高いため、再び3期連続損失のような厳しい時代を迎えないとは限りません。『膨張』と『成長』を取り違えてはいけないのです。外部環境に依存した膨張ではなく、確かな足元に立脚した成長が必要です。投資ができる時期にこそ、将来に向けた準備が必要です」(秋葉氏)
将来に向けた打ち手の一つが、先述の人事制度の再構築だ。ウラノではこれまで機能別の役員体制ではなく、群馬、長崎の拠点ごとに独立した組織構造が存在していた。そのため、同じ会社でありながら、ダブルスタンダードの意思決定基準や社内ルール、人事評価が存在していた。制服すら異なっていた状況を全社で統一し、「ワン・ウラノ」になることが必須であった。その一例が、社員の人材交流だ。過去にも実施したことがあるとのことだが、本部がある群馬工場と長崎工場間で期間限定の長期出張応援や人材交流を頻繁に行うことで、技術ノウハウの共有や繁閑における人材リソースのギャップの平準化を行っている。
技術伝承も大きな課題だ。60歳の定年制を定めているが、実質的には定年時の処遇でその後も勤務することが可能であり、70歳代の熟練技術者の経験知と暗黙知の継承が切迫しつつある。「切削技術の知恵の結晶」を属人化とブラックボックス化から救い出すだけでなく、誰が書いたのか分からないプログラムやエンドユーザーが独自開発した、いわゆる「お化けマクロ」の解消など、ITガバナンスの構築も喫緊の課題だ。
「『ベテランが辞めたら製造が停止する』『図面が読める社員がいない』といったリスクは企業の持続性に直結します。一方で、こうしたリスクは経営層の年次計画にも挙がってきません。品質、人事、生産面のリスクマネジメントを事前に行うことが不可欠です。当社では、リスク・アペタイト・フレームワーク(リスクの種類と量を定義し意思決定の基準として活用する方法)を導入しました。リスクを洗い出し、現状安定している領域はグリーン、危険・注意領域についてはイエロー、高リスク領域はレッドといった尺度で可視化しています。年次の対応計画で共有し、優先度の高いものから対応を進めるようにしました。特に、航空機の部品などの品質起因による事故は会社の存続にも関わる極めて高いリスクです」(秋葉氏)
ウラノ群馬工場(本部)の外観。エントランスにはウラノの製品群が並び、食堂では無農薬・減農薬を基本とした食材による食事が提供されている
「削る」の先にある未来像
秋葉氏は、ウラノの企業価値について次のように語る。
「今後も世の中の安全や安心につながる社会を支えるインフラの下支えをしていきます。コア技術である難削材の切削加工の技術こそが当社のコアコンピタンスです。その能力を社会の安全・安心につながる領域に拡張していきたいと考えています」(秋葉氏)
こうした姿勢は、社内にも向けられている。社員とその家族を大切にする思想は、同社の一貫した特徴だ。「社員の健康と心の安全は食べ物から」という創業家の考えのもと、社員食堂のスタッフは正社員として雇用し、原材料も無農薬・減農薬のものを基本とする。長崎工場では自社で農業も手掛け、収穫した無農薬野菜や米、食堂の料理を国道沿いの直売所で販売するほか、週に一度、肉を使わない「ベジファーストの日」を設けている。
環境面の取り組みも進む。長崎工場周辺の田畑や自社所有地で、生物多様性のモニタリングを実施。環境省が認定する「自然共生サイト」への登録を通じて、「30by30(サーティ・バイ・サーティ)」(2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として保全する目標)への貢献も視野に入れる。併せて、再生可能エネルギーの調達や太陽光発電の導入など、取引先から求められる対応も着実に進めている。
100億宣言によってさらなる高みを目指すウラノ。秋葉氏は、「より良い未来のために日々技術と技能を磨いていきます」と語る。
ウラノの製品は宇宙から海の中まで広く使われている。どのような環境でも安全・安心を担保する世界品質を守るべく技術を磨き続けている
(株)ウラノ
- 所在地:埼玉県児玉郡上里町大字七本木3563
- 創業:1950年
- 代表者:代表取締役 小林 正樹
- 売上高:84億円(2026年7月期)
- 従業員数:469名(2026年7月現在)