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【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2025.08.29

データ活用で新たな事業を創造。ワコールホールディングスが挑む新ビジネスモデル ワコールホールディングス

「下着を売る」という枠を超え、ワコールホールディングスは今、デジタルを活用した新たな顧客体験の創造に取り組んでいる。3D計測サービスを核とする同社のDXが生み出す新たな価値創出、新規ビジネスの可能性を探る。

データ活用で新たな事業を創造。ワコールHDが挑む新ビジネスモデル

 

顧客との接点強化にDXが必須

 

「DX銘柄」に2年連続で選定されたワコールホールディングス(以降、ワコールHD)がDXに本格的に取り組み始めたのは2016年。当時、同社のビジネスモデルは小売店を介して消費者に商品を届ける卸ビジネス、いわゆるBtoBtoCが中心であり、直接的な顧客接点が築きにくい状況だった。

「消費者の購買行動が変化し、インターネット経由での購入がアパレルでも増加していました。この流れに対応するため、当社もオムニチャネル戦略により、消費者と直接コミュニケーションを取る必要性が高まっていました」

そう語るのは、同社DX推進のキーパーソンであるワコール取締役執行役員マーケティング本部長の篠塚厚子氏である。

「以前はワコールHD子会社のピーチ・ジョンで、若い世代向けのブランド『ヤミーマート』のブランドマネジャーをしていました。育児休暇から復職する際、今後ニーズが高まるデジタルの仕事に就きたいと考えていたことから、2017年に新設されたオムニチャネル戦略推進部(現イノベーション戦略室、戦略部顧客戦略課)への異動を希望しました」(篠塚氏)

DXの第一歩となったのが、紙で管理していた顧客カルテをデジタル化し、顧客データを一元管理する取り組みだ。

「従来は店舗ごとに顧客データが分散している状況でしたが、デジタル化によってどの店からもデータが一元管理できるようになり、顧客がどの店舗を訪れても『いつもありがとうございます』と応対できるようになりました。

また、顧客情報を自社公式アプリ「ワコールカルネ」と連携させたことにより、自宅でも正確なサイズを把握できるようになり、オンラインでの購入も便利になりました」と篠塚氏は振り返る。

 

3D計測サービスで新たな顧客体験を提供

 

同社が2019年に導入した3D計測サービス「SCANBE(スキャンビー)」(旧3D smart&try)は、新たな顧客体験を提供するサービスとして話題を集めている。同サービスは顧客が個室に入り、3Dボディスキャナーを使用してセルフで全身を計測できるというもの。わずか3秒ほどで計測は完了し、3Dデータをもとに顧客にフィットしたサイズの下着を提案する。

「従来は店舗スタッフが計測していたのですが、『初対面の店舗スタッフに身体を見せたくない』『下着を買いに行くための下着を持っていない』といった理由で抵抗感を持つお客さまもいらっしゃいました。そうしたストレスを取り除くことで、購入体験の向上を図りたいという思いからスタートしたプロジェクトです。

また、女性の身体のサイズは単純なS・M・Lで捉え切れるものではなく、下着もブランドや形状によってサイズ感が異なります。お客さまの体型も変化するので、よりフィットした下着を身につけるためには体型情報のアップデートが必要になります。自動計測なら簡単に統一環境で計測ができるので、常に一貫性のある提案ができるメリットもありました」(篠塚氏)

同サービスは提供開始から6年間で延べ30万人以上(2025年5月末時点)もの顧客が利用しており、リピーターや定期的に計測する人も少なくない。これにより大量のデータが集積できただけでなく、データの質も以前よりはるかに高まっている。例えば、人手による計測では集められなかった胴体断面の形状なども3D 計測によって分かるようになり、これらのデータをより身体にフィットした商品開発にも役立てている。

 

「自分に合う」を後押しするワコール流DXを推進

 

多くの顧客から支持された「3D smart&try」は、2023年5月に「SCANBE」にリブランディングした。同社ではこれからの提供価値を「お客さま一人ひとりの自分らしさをエンパワーメントする」と定義しており、その方針に沿ったサービスとして再定義するためだ。

「これまで多くのお客さまに活用いただきましたが、身体の計測が目的になってしまった側面もあり、再度、提供サービスの目的を見つめ直しました。そもそも、本来は『正しいサイズの下着をつける』ことではなく、『快適に過ごすために自分に合ったものを選ぶ』ことが目的であるはず。正確なサイズよりも少し余裕のあるサイズを好む方もいれば、ぴったりフィットするのが良いという方もいらっしゃるのが実情で、最終的には本人の感覚や好みが重要になります。

そこでSCANBEでは、『わたしを知って、わたしになる』というブランドメッセージを掲げ、お客さまの生活に寄り添うサービスとして捉え直しました」(篠塚氏)

顧客の生活をより快適に、豊かなものにするという考え方から生まれたのがSCANBE初の有料コンテンツ「わたしを知る骨格診断」(税込み3500円)である。このサービスは3D計測したデータをもとに骨格のタイプを分類し、その人に似合うアイテムやコーディネートを提案するというものだ。

さらに2025年6月には、同社の研究開発機関であるワコール人間科学研究開発センターのノウハウを生かした新サービス「からだバランス診断」(税込み2000円)もリリースした。こちらは3D計測したデータをもとに身体の状態を分析。「スマホ首」「猫背」などの姿勢レベルや、動物をモチーフにした 6 種類のバランスタイプを診断し、診断後にはその場で身体を動かしてバランスを整える体験やその変化実感、日常生活で使える「からだのバランスをととのえるコツ」も紹介するコンテンツである。

「両サービスとも3Dボディスキャンをきっかけに、遊び心を持って自分の身体の特徴を知ることができるものとして位置付けています。自分の身体の特徴を知った上で、洋服選びや姿勢の改善に役立てていただき、お客さまの生活をより快適に楽しくするのが目的。下着を販売するためではなく、自分を知るためのデジタルコンテンツと位置付け、当社の新しいビジネスとして提供しています」(篠塚氏)

利用者は、10歳代や20歳代の若い世代が中心で、ワコールと初めて接点を持つ人も少なくない。下着の購入ではなく、「計測する」「楽しむ」ために訪れる人もおり、新しい顧客層の開拓にも大きな効果を発揮している。

 

「SCANBE」の体験イメージ。「計測する」「楽しむ」目的で訪れる若年層も多く、 既存のワコールファン以外の“新たな顧客層”との接点を生み出している
「SCANBE」の体験イメージ。「計測する」「楽しむ」目的で訪れる若年層も多く、
既存のワコールファン以外の“新たな顧客層”との接点を生み出している

若手社員がけん引するワコールDXの未来

 

データを活用したワコールのDXは、これまで見てきたように新たなビジネスモデルの創造にもつながっている。特に、同社が他社との協業、オープンイノベーションに積極的であることは外せないポイントである。

例えば「わたしを知る骨格診断」はTOPPAN株式会社、株式会社アイシービーと協業して開発。株式会社三越伊勢丹とは3D計測サービスを活用し、顧客に合った洋服を提案するアウターリコメンドサービス「Match Palette」を開発した。さらに、がん研究会有明病院とは乳がん罹患りかん者のための乳房再建手術に関する共同研究などを行ってきた。

こうしたワコールのDXを推進するイノベーション戦略室(マーケティング本部管轄)のメンバーは入社5年目以下も含め平均年齢は30歳代という若手社員中心で構成されている。

「『未来の日常の当たり前をつくる』をコンセプトに、社会課題に目を向けた、私には予想のつかないものをつくることを期待値としてメンバーに伝えています。若い世代の方が世の中の変化に敏感ですし、今から20年後、30年後に責任を持つ世代ですから、自分たちの未来をつくる意味でも若手社員が中心になり、果敢にチャレンジできる場所にしたいと考えています」(篠塚氏)

下着業界で長らく顧客のニーズを支えてきた同社は、若手社員や外部パートナーとともに、デジタルの力で顧客体験価値を進化させる挑戦を続けていく。

 

【図表】顧客データの活用イメージ
【図表】顧客データの活用イメージ
出所 : ワコールホールディングス提供資料よりタナベコンサルティング戦略総合研究所作成

 

(株)ワコールホールディングス

  • 所在地 : 京都府京都市南区吉祥院中島町29
  • 創業 : 1946年
  • 代表者 : 代表取締役社長執行役員 矢島 昌明
  • 売上高 : 1738億9600万円(連結、2025年3月期)
  • 従業員数 : 1万6124名(連結、2025年3月現在)